『機動戦士ガンダム』の人気兵器に「フルアーマーガンダム」があります。地球連邦軍が一年戦争時に「FSWS計画」として開発を進めたとされる兵器です。ガンダムより重装甲で、大火力で、白兵戦を苦手とする機体には、すでに「ガンキャノン」があるにもかかわらず、なぜ計画されたのでしょうか?



「HG 1/144 フルアーマーガンダム」(BANDAI SPIRITS) (C)創通・サンライズ

【画像】えっ…好き… コチラが武装ゴテゴテ「フルアーマー」なMSの皆さんです(5枚)

「戦艦1隻と同等の火力」を持たせたフルアーマーガンダム

『機動戦士ガンダム』の人気兵器に「フルアーマーガンダム」があります。地球連邦軍が一年戦争時に「FSWS計画」として開発を進めたとされる兵器です。

 最初のFA-78-1「フルアーマーガンダム(あるいは「ガンダムフルアーマータイプ」)」では、白兵戦用モビルスーツ(MS)である「ガンダム」に増加装甲、追加武装、補助推進装置を後付けで搭載することにより「戦艦1隻と同等の火力」を発揮させようという計画です。

「フルアーマーガンダム」が実際に製造されたかは諸説あり、かつては「計画のみで実際には製造されていない」という説が有力でした。最近の設定では、フルアーマーガンダムや発展型の「ヘビーガンダム」はソロモン戦に参加し、ア・バオア・クー戦でもフルアーマーガンダムが目撃され、交戦していたということになっています。

 ゲームに登場する「ハインツ・ベア」中尉は、フルアーマーガンダムでMS37機、艦艇2隻を撃墜し、地球連邦軍で7番目のエースになっているという設定です。

 白兵戦用で軽快な機動性が持ち味のガンダムタイプMSに、重装甲、重武装の追加装備を取り付ける「フルアーマー」は、『機動戦士ガンダム0080 ポケットの中の戦争』で、「アレックス」にチョバムアーマーが装備されたり、『機動戦士ガンダムZZ』で「ZZガンダム」がフルアーマー化されたり、『機動戦士ガンダムMSV-R ジョニー・ライデンの帰還』で、「ガンダムMK-II」がフルアーマー化されたりと、複数例登場するオプションでもあります。

 ここで不思議なのは「フルアーマーガンダム」というコンセプトです。フルアーマーガンダムは、ガンダムのようにビームサーベルを備えておらず(備えている設定もあります)、代わりに重装甲で、大火力の機体です。

 ガンダムより重装甲で、大火力で、白兵戦を苦手とする機体には、すでに「ガンキャノン」があります。ガンキャノンはガンダムと同じ「V作戦」で開発された機体で、これが早期開発されていたという『機動戦士ガンダムORIGIN』はパラレルワールドですから、開発時期もそれほど変わらないはずです。

 つまり、そのような中距離支援用MSとしては「新鋭機」のガンキャノンが存在するのに、いわば「ガンダムをガンキャノンにする」計画を進めているわけです。



「HGUC 1/144 ガンダムGP03 デンドロビウム」(BANDAI SPIRITS) (C)創通・サンライズ

(広告の後にも続きます)

「ガンダムをガンキャノンにする」計画の意義とは?

 なぜ地球連邦軍は、そのような非合理とも思える計画を実行したのでしょうか。筆者は「MS生産効率を上げ、運用の柔軟性を増すため」だと考えます。

 旧日本海軍やアメリカ海軍は、第二次世界大戦中に空母艦載機が艦上爆撃機と、艦上攻撃機(雷撃機)に分かれていたものを、ひとつの機体に統合しようとします。急降下爆撃も雷撃もできる「流星」や「スカイレイダー」です。

 これは限りある空母の艦載機を、さまざまな任務に適応できるようにした方が合理的という考えに立つものでした。これと同じ発想に至ったのではないでしょうか。

 ガンダムとガンキャノンを比較した際に、ガンキャノンの系譜にある機体は『機動戦士Zガンダム』以降の時代でほとんど見られなくなるのに対して、ガンダムタイプは多数開発されていきます。元々ガンダムの基礎設計が、ガンキャノンより優秀で、おそらく設計者も違ったのでしょう。実際、ガンダムの開発者である「テム・レイ」はガンキャノンの活躍には何の関心も示していませんでした。

 そして、事前に想定させていたよりも、ミノフスキー粒子下での白兵戦発生率が高く、「敵MSが多い場合は、白兵戦用MSの比率を増やしたいが、敵艦艇や要塞戦では重火力MSを投入したい」といった戦訓がもたらされたのだと思われます。そう考えるなら、ガンキャノンを白兵戦可能に改修するよりも、基礎性能がずっと高そうなガンダムに追加装甲を施した方が、さまざまな用途に対応できるのは明らかです。

 そうした理由で「白兵戦用のMSを基本として、必要に応じて重装備をさせる」という開発方針に切り替わったということです。『機動戦士ガンダム0083 STARDUST MEMORY』に登場する、試作ガンダム3号機「デンドロビウム」は、まさに「戦艦1隻と同等の火力・コスト」のMSと呼べるもので、究極の「フルアーマーガンダム」と言えるでしょう。

 デンドロビウムのような重装備MSが広まらなかった理由は、ミノフスキー粒子にあると考えられます。遠距離での照準が難しい宇宙世紀において、大火力、大推力を搭載しても、兵器を命中させるためのセンサーが死んでいるので「自分の高速で射撃機会が減少し、白兵戦での撃破も狙えなくなるのに、コストは戦艦並み」というコスパ最悪の兵器になったということです。

 この「攻撃を命中させる方法」がクリアできるなら、遠距離から大火力を浴びせることができるため、サイコミュやファンネルを搭載した「クイン・マンサ」「αアジール」「ネオジオング」といった、超重武装大型MSが成立したと考えられます。

 そして「重装甲」はビーム兵器が主体となった『Zガンダム』以降ではあまり意味がなく、対ビームコーティングやIフィールドによるビームバリア搭載の方が、効果的だと考えられるようになったのでしょう。

『ガンダムセンチネル』で、装甲材質で劣る設定とはいえ、「フルアーマーZZ」に匹敵する重装甲の「FAZZ」があっさり撃墜されていますから、装甲厚というより、装甲処理の方が大切となったのかもしれません。実際「フルアーマーユニコーンガンダム」は、間に合わせの計画とは言え、増加装甲はほとんど考慮されず、重武装化に重きを置かれた改装になったことが、それを示唆しているように感じられます。