「気にしすぎ人見知り」は想像上の他者に起こる
特に、空想的な他者意識とだけ強い関連が示された、発表や発言をしなければならない場面や、親しくはない相手と話す場面に不安を感じるという心理状態は、新学期に「顔見知り程度の知人と話すのがストレス」と愚痴っていた学生さんや、学校や職場でついてまわる発表や発言への苦手意識がある人たちにあてはまることでしょう。
私と相馬さんは、そんな人たちの心理状態について、イマジナリーな他者を「気にしすぎ人見知り」と名づけました。
単純に見知らぬ人への不安からくる人見知りではなく、自分で他者についてあれこれ勝手に考えて気にしすぎるから、人見知りをしているというわけです。人見知りとは、実在する目の前の人にだけ起こるのではなく、想像上の他者に対する不安や緊張感を、実際の対人場面に投射してしまうプロジェクションによっても生じることが示唆されました。
私も、学会などで研究成果を発表するばあい、「このテーマにすごく詳しい人がいたらなんて言うだろう」「こんな質問が来たらどうしよう」「この考えはどう思われるのかな」などと勝手に考えてしまっている時が、いまだにもっとも緊張します。
でもそれは、あらためて考えてみれば、具体的な誰かではなく、実際になにか言われている時でもなく、私のなかの漠然としたイメージの他者によってもたらされているのです。
緊張やストレスといった精神的な疲労は、実際の状況だけではなく、自分のなかのイマジナリーな他者に起因することが少なくないのかもしれません。
写真/shutterstock
(広告の後にも続きます)
イマジナリー・ネガティブ 認知科学で読み解く「こころ」の闇
久保 (川合) 南海子
2024年9月17日発売1,012円(税込)新書判/224ページISBN: 978-4-08-721332-4認知科学の概念「プロジェクション」とは、自分の内的世界を外部の事物に重ね合わせるこころの働きのことである。
プロジェクションには “推し”の存在に生きる意味を見出すようなポジティブな面がある一方で、霊感商法、オレオレ詐欺、陰謀論、ジェンダー規範など、他者によってこころを操られたり自分自身を無意識のうちに縛ったりすることでネガティブな問題を生じさせる面もある。
実際には起きていないことや存在しないものを想像して現実に投射できるがゆえに生まれる「イマジナリー・ネガティブ」を認知科学の視点で考察する一冊。