顔の左側をより魅力的に感じる / Credit: Unsplash
顔の右側よりも左側のほうが魅力的に見えるようです。
米ウェイク・フォレスト大学のケルシー・ブラックバーン氏らの研究チームは、瞳孔計測機を付けた状態で参加者に少し微笑んだ顔の右側と左側をそれぞれ見せ、その顔の美しさを評価させました。
実験の結果、顔の右側と比較して左側のほうを見た時に、瞳孔がより拡大し、美しいと感じていたのです。
この結果は、被写体の感情が顔の左側に強く現れることが多く、観察側はそれをより魅力的であると評価することを示唆していると言えるでしょう。
研究チームは「これは、感情の制御に優位性を持つ右半球優位性の概念や脳の側性化(左右の大脳半球で司る分野が違うこと)を新たに裏付けるものである」と述べています。
研究の詳細は、学術誌「Experimental Brain Reserach」にて2012年4月19日に掲載されました。
目次
自撮り写真は顔の左側をカメラに向けがち顔の左側に対してより魅力を感じる
自撮り写真は顔の左側をカメラに向けがち
写真を撮るときに、読者のみなさんは顔のどちら側をカメラに向けますか。
右側でしょうか、左側でしょうか、それとも正面でしょうか。
SNSの写真を見てみると、多くの人が顔の右側や左側どちらかを見えるように顔を傾けていることが分かります。
実際に写真を撮る時の顔の向きに偏りがあるかを調査した研究があります。
それは2017年に「Frontiers in Psychology」に投稿された、オーストラリアのラ・トローブ大学のアヌッカ・リンデル氏(Annukka Lindell)らの研究です。
彼らは、Instagramで「#selfie」と検索してヒットした男女200名の、直近の自撮り写真10枚の写真、合計2,000枚を収集しました。
分析では、実験者が写真の顔の左右でよく見えている部分に差がある場合は右と左、差がない場合は真ん中と分類し、自撮り写真を撮る時の顔の向きに偏りがあるかを調べています。
結果、全体的な傾向として、顔の右側よりも左側をカメラに向けて撮影する人が多いことが確認されました。
実験の結果を改変。顔の左側をカメラに向けて撮影する人が多い。 / Credit: Lindell, (2017).
また男女でこの傾向が変わるかを見てみると、男性よりも女性に顔の左側をカメラに向ける傾向が強くみられました。
実験の結果を改変。 / Credit: Lindell, (2017).
この顔の左側を見せる傾向は自撮り写真だけで見られる現象ではありません。
「Nature」に投稿された、英バーミンガム大学の研究では、人物を描いた西洋絵画においても顔の右側よりも左側を見せる構図が好まれることがわかっています。
しかしなぜこのような顔の左側を観察者から見えやすいようにするのでしょうか、またなぜ女性のほうが顔の左側を相手に見せる傾向が強いのでしょうか。
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顔の左側に対してより魅力を感じる
そこで米ウェイク・フォレスト大学のケルシー・ブラックバーン氏らの研究チームは、観察者の観点からこの現象を検討しました。
実験には大学生12名が参加しました。
撮影では、両目が写り、顔の特徴が把握できる程度に真正面から左右に逸れた位置から、「できる限り自然に微笑んだ状態」の参加者の顔の右側と左側の写真が撮られています。
実験刺激の例。 / Credit: Blackburn &Schirillo, (2012).
そして別に雇われた大学生37名に、瞳孔の大きさを測定する装置を付けた状態で、顔写真の美しさを評価してもらいました。
瞳孔は興味・関心が強い刺激を見た時に拡大し、不快な刺激を見た時に収縮することから、顔の向きの左右で快・不快の感じ方が身体的に変化するかを見ています。
もし左右で被写体の感情の表出に差があった場合、片方の顔に対しより瞳孔が拡大するような結果になるはずだと予測しました。
実験の結果、顔の右側と比較して左側のほうを見た時に、瞳孔がより拡大し、綺麗だと感じていたのです。
また顔画像を鏡像と同じになるように左右を反転した画像でも、顔の右側よりも左側に対し、瞳孔がより拡大し、美しいと感じていました。
実験の結果を改変。元画像は0より上、反転画像は0より下なら、顔の左側の画像をより美しいと感じ、瞳孔が拡大したことを意味する。 / Credit: Blackburn &Schirillo, (2012).
研究チームは「この結果は、被写体の感情が顔の左側に強く現れることが多く、観察側はそれをより魅力的であると評価することを示唆している。」と述べています。
ではなぜ顔の左側に好印象を抱き、美しいと感じる傾向が私たちにはあるのでしょうか。
この現象には脳の左右差が関わっていると考えられています。
それは身体の左側は右半球が、身体の右側は左半球によって制御されていることから、右半球のほうが感情の処理に優れているため、顔の左側に強く感情が現れているのではないかというものです。
研究チームは「これは、感情の制御に特化している右半球優位性の概念や脳の側性化(左右の大脳半球で司る分野が違うこと)を、新たに裏付けるものである」と述べています。
前述した自撮りの際に顔の左側をカメラに向ける傾向が男性は弱いことに関しては、女性と比べて男性は感情表出を控えるようにしている可能性があると言えるでしょう。
多くの人が顔の左側を向けて自撮りするという事実は、自身の顔についても無意識に左側の方が魅力的に見えると感じていることを示唆しています。
男性の例から見ると、感情の表出があまりない人には差が小さくなる傾向はあるのかもしれません。
しかし、もし特に気にせず顔の右側を向けて自撮りししていたという人は、顔の左側をカメラに向けるように写真を撮るだけで、周りから好印象を抱かれる可能性が高くなるかもしれません。
参考文献
WHICH SIDE OF YOUR FACE IS THE MOST ATTRACTIVE? SCIENCE DECIDES
https://www.harpersbazaar.com/jp/beauty/beauty-column/a59894/lda-left-side-of-face-more-attractive-170419/
Your left side is your best side: Our left cheek shows more emotion, which observers find more aesthetically pleasing
https://www.sciencedaily.com/releases/2012/04/120420123847.htm
元論文
Emotive hemispheric differences measured in real-life portraits using pupil diameter and subjective aesthetic preferences
https://link.springer.com/article/10.1007/s00221-012-3091-y
Emotions Are Expressed More Intensely on the Left Side of the Face
https://www.science.org/doi/10.1126/science.705335
Consistently Showing Your Best Side? Intra-individual Consistency in #Selfie Pose Orientation
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC5318447/
ライター
AK: 大阪府生まれ。大学院では実験心理学を専攻し、錯視の研究をしていました。海外の心理学・脳科学の論文を読むのが好きで、本サイトでは心理学の記事を投稿していきます。
編集者
海沼 賢: ナゾロジーのディレクションを担当。大学では電気電子工学、大学院では知識科学を専攻。科学進歩と共に分断されがちな分野間交流の場、一般の人々が科学知識とふれあう場の創出を目指しています。