大根仁 監督×坂本和隆 Netflix VPが語る ドラマ「地面師たち」と独占契約を結んだNetflixでの今後の作品作り

Netflix配信のドラマ「地面師たち」が大ヒットしているなか、同作品の脚本と監督を担当し、これまで多くの映画やドラマを手掛けてきた大根仁監督とNetflixが、5年の独占契約を結んだと発表された。今後5年間は、大根監督の映画やドラマを、 Netflixが独占的に制作・配信していくという。

予告編制作会社バカ・ザ・バッカ代表の池ノ辺直子が映画大好きな業界の人たちと語り合う『映画は愛よ!』、今回は、「地面師たち」の大根仁監督とNetflixコンテンツ部門バイス・プレジデントの坂本和隆氏に、Netflix独占契約の経緯と今後に向けた思いなどを伺いました。

5年の独占契約は5分の「告白」から

池ノ辺 私は10年前からNetflixのユーザーなんです。

坂本 ということは、日本上陸直後ですか。

池ノ辺 2015年に『バック・トゥ・ザ・フューチャー PART2』の舞台となったロサンゼルスでお祝いイベントが開かれていたんですが、『バック・トゥ・ザ・フューチャー』シリーズの日本版予告編を私が手掛けさせて頂いていたこともあって、そのイベントに参加しにアメリカまで行ったんです。そこで関連のドキュメンタリー映画『バック・イン・タイム』が公開されていてL.A.の映画館で観たのですが、当然日本語字幕もなくて‥‥。そうしたら日本でサービスが開始されたばかりのNetflixで、日本語字幕付きで配信されていることがわかり、すぐにユーザーになり、字幕入りをホテルで観たんですね。「すごいことが起きている、これから映画業界はどんどん変わっていくだろう」とNetflixの上陸にワクワクしたのを今も覚えています。今回も、そんなワクワクするようなお話をお2人から伺えるんじゃないかと思ってます。早速ですが、Netflixさんが今回大根仁監督と5年の独占契約を結んだということですが、その経緯を聞かせていただけますか。

坂本 今回、大根監督に独占契約をお願いする事となった背景には、もちろん、「地面師たち」の大ヒットがあるわけですが、大根監督とはこれまでもいろんな企画で話をさせていただいています。大根監督は脚本も構築できて演出もできて、何よりNetflixのユーザーの心理というか、テイストを深くご理解いただいているので、これほど心強いパートナーはいないんじゃないか、そこがいちばんの決め手でした。この契約で、大根さんの制作環境も含めて我々がさまざまな形でサポートすることによって、どんな新しいビジョンが引き出せるんだろうか、それがどう最大化され作品として形になっていくんだろうか、そこに関わることができるというのは無上の喜びであり楽しみだと、その辺りはストレートに、率直に伝えて、どうですか、組みませんか?というオファーをさせていただきました。

池ノ辺 監督はそんな熱烈なラブコールを聞いてどう答えられたんですか。

大根 この話をいただいたのが「地面師たち」の配信が始まって2週間後くらいでした。ある程度ヒットの形も見えてきたところで呼び出されて言われたので、まあ、告白されたみたいな(笑)。

坂本 会議室でね(笑)。

大根 「好きです、付き合ってください」と言われたので、「僕も好きです、よろしくお願いします」と受けました。

池ノ辺 よかったですね、両思いで(笑)。

坂本 その時間はおよそ5分くらいです(笑)。それはもう嬉しかったですよ。「地面師たち」はもちろん素晴らしいパフォーマンスで、今もたくさんの方々に熱狂していただいているわけですが、それをさらに超えるような作品を期待できるというところは、もっと楽しみです。

大根 先ほど、Netflixユーザーとしての意識という話が出ましたけど、僕はずっとテレビドラマや映画をやってきましたが、ここ数年、一視聴者としていちばん熱中して引き込まれているのが、Netflixをはじめとした配信界隈のドラマだったんです。作り手としてより、視聴者としての意識の方が強いんですが、その自分が、今いちばん見たいものを作れる環境、そこに惹かれました。

坂本 大根監督は、「こういうのがNetflixにはあった方がいいよ」という視点をすごく持っているので、大根監督とのそうした議論はとても新鮮で嬉しいんです。我々は、これまで以上に作品の多様性というものを膨らませているわけですが、そうした中で忘れてはいけないのがNetflixらしさです。それは難しい題材に果敢にチャレンジしていくことだったり、他ではまだ語られていないストーリーだったり、ということですが、大根監督はそこのところを深く理解した上で、例えば映像にするのがなかなか難しいところでも臆せず挑んで、そこをどうエンターテインメントとして成り立たせるか、というところをしっかり探求してくださるんです。先ほど言った「心強いパートナー」の最も具体的な部分ですね。

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社会現象としての「地面師たち」

池ノ辺 「地面師たち」は、とても面白い作品ではあるんですが、こんなに大ヒットすると思っていらっしゃいました?

大根 僕は、国内ではある程度は行くだろうなと思っていました。それはNetflixユーザーとして、こういうのがあったら自分は絶対見ると思ったし、これまでなかったタイプだし。だからある程度はヒットするとは思っていましたけど、さすがにここまでとは思いませんでした。

坂本 日本で最も視聴されたコンテンツのひとつですね。大根監督とは編集段階で、何度かお会いしているときに、「めちゃくちゃいいですね、これは確実にヒットすると思いますよ」と、そういう会話をしたのは覚えています。大根監督は求めているものをきっちりとそこにぶつけてくる、そこへの揺るぎない信頼として、確実にヒットするという想いはありました。

池ノ辺 予告編が流れている最中から各方面で反応がリアルタイムでたくさん出てくるというそのスピード感に驚きました。例えばYouTubeで、ほんの短いものでも予告が出るとすぐに反応がある。しかも実際に本編の配信が始まると、映画業界の中でもいろんなところで「“地面師”見た?」という話が出るんですよ。

坂本 人気の作品って、飲み屋さんとかレストランで、隣の席で話題になっている。それがヒットしているという一番の肌感覚なんです。「地面師たち」はそれがとにかく多かったですね。行くところ行くところで、かなり話題になっていて、それはもう間違いなく社会現象と言っていい。

大根 ご飯を食べに行ってもお酒を飲みに行っても、大袈裟じゃなく本当に周りで「地面師たち」の話をしている。それだけじゃなく、五反田のサウナに行けば常連のおじいさんたちが話しているし、リリー(・フランキー)さんにお祝いで連れていってもらった銀座のお店でも、みんな見ているという。これは本当に、老若男女いろんな層の人が見ているなと。

坂本 あちらこちらで大根監督だと気づかれたんじゃないですか。

大根 そうですね。リリーさんと行った店でもキャストのお姉さんたちから「あ、地面師の!」って言われました(笑)。しかも、結構皆さん本編だけじゃなくて舞台挨拶みたいな関連動画も見ているんですよ。だから結構、「地面師の監督だ!」と、チヤホヤされましたね(笑)。

坂本 そういう反応が本当に嬉しいです。

池ノ辺 私もタクシーの運転手さんから「地面師、見ましたか」と言われましたよ。すごい現象ですよね。