Netflixが変えてきたもの
池ノ辺 これまで大根監督は数多くのドラマや映画を手掛けられてきていていますが、今回、 Netflixとドラマを作って、どういったところが違いましたか。
大根 まずは企画や撮影内容に対する適正な大きな予算があること。撮影現場における人道的なスケジュールが守られていること。 そして、現場スタッフに対する手厚いケア。大きくはこの3つですね。
池ノ辺 Netflixの作品制作への取り組み方は、日本の映画業界の考え方も変えましたよね。実際、「映適」(日本映画制作適正化機構)ができたりして、クリエイティブな仕事にとっても環境が整ってきている。少しずつですが変わってきています。
大根 僕も、深夜ドラマもずっとやってきたので、低予算でタイトなスケジュールで‥‥みたいなところからしか生まれないものもあるということも、もちろんわかっているんですけど、さすがにこのキャリアになってくると、時間も資金もあるに越したことはないと思ってます。ただ、僕のことはさておき現場のスタッフって皆さん本当に優秀で、「これでやってくれ」というとどんなに大変な環境でも本当にできてしまうんですよ。そうしたことが負の歴史みたいに積み重なって、これまでの現場の環境が出来上がってしまったのかな。必ずしもそれは健全ではなかったと、今振り返ってみれば思いますね。
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高まる次回作への期待
池ノ辺 この先5年間、監督はどんなことをやっていこうと思われているんですか。
大根 まだ具体的に発表できるものはないんですが、準備を進めているのは2つ3つあります。
坂本 大根監督はやりたいことが明確なので、まずは大根監督が求めるビジョンと合致するというのが大前提としてあって、それを突き詰めた先にあるおもしろさ、そういう題材を今、絶賛開発中というところです。それはもう世に出たらさらに驚くものになるんじゃないかと思います。「地面師たち」以上と言いたいですね。
池ノ辺 以前、『しん次元!クレヨンしんちゃんTHE MOVIE 超能力大決戦 〜とべとべ手巻き寿司〜』でプロデューサーの吉田さんと馬渕さんにお話を聞いた際に、本作の監督を務められた大根監督のお話を伺ったら、「僕でよければ」と気持ちよく受けてくださったと言ってました。そして、監督なら新たな、今までにないしんちゃんを作ってくれるんじゃないかと期待していたと。結果的に、号泣するような素晴らしいものになっていました。そしたらそのあとに「地面師たち」でしょ。
大根 まあ、真逆というか‥‥(笑)。
池ノ辺 それが監督の凄さだと思うんです。そういう意味で、監督には、私はラブストーリーも期待しているんですが。
大根 いちばん縁のないところですね(笑)。何か、自分らしさというか自分が見たい恋愛ドラマなり恋愛映画というのは、フィットするものがあればやるかもしれませんが、ストレートなのはやらないでしょうね。
池ノ辺 ラブストーリーは苦手なんですか。
大根 苦手というか、自分の性格の中にピュアな部分が全くないので、多少捻ったラブストーリーができるんだったらやってみたいですけどね。
池ノ辺 なるほど。ちょっとは期待していいのかな(笑)。監督は、今後どういうものを見せてくれるのでしょうね。
坂本 もちろんすでにいろいろ検討に入っています。それは大根監督発信のものもあれば我々から「こういうのはどうですか」と提案することもある、そういうカジュアルな議論を重ねていく中で、お互いにマッチしたものを作り上げていくことになると思います。具体的に言った後で、「すみません、できませんでした」というわけにはいかないので、そこはまだ言える段階ではないんですが(笑)。ただ、他ではできない、 Netflixを楽しんでくださっている皆さんが「こういうのを待ってたんだよ」というものを提供する、というところはブレずにやっていきます。
池ノ辺 制作して配信するまでにはどれくらいの期間がかかるんですか。5年くらい?
大根 確かに「地面師たち」は企画の立ち上げからだと3、4年かかっていますけど、いざ Netflixのいわゆるグリーンライト(青信号。制作を進めてよし)が点いてからは2年くらいです。
坂本 我々は適正なスケジュールのためにも、脚本をきっちり作り上げてからそこで生まれたキャラクターに対してキャスティングを考え撮影に入っていきます。
池ノ辺 「地面師たち」のキャスティングも素晴らしかったですもんね。
大根 「地面師たち」でラッキーだったのは、最初にイメージした方々がほぼ第一希望どおり、皆さん受けてくださったんです。それはあまりないことなのでツイていました。
池ノ辺 では、最後に質問です。監督にとって映画、ドラマってなんですか。
大根 仕事です。
池ノ辺 仕事は楽しいですか。
大根 楽しいこともあれば大変なこともあります。それが仕事だと思っていますから。
池ノ辺 じゃあ自分にぴったりのものをやっている?
大根 そうですね。天職とまでは言いませんが、向いているとは思います。
池ノ辺 坂本さんはどうですか。
坂本 いろいろありますけど、最終的には楽しんでもらいたいもの、という想いがあります。もちろん、監督はじめ周りの人たちも皆さんプロフェッショナルですから、ドラマにしろ映画にしろ、作り上げていくときには、そこはビジネスとしてきちんとしていくことで完成するわけです。根本は、その作品に携わって、 Netflixの2億7千万世帯を超える視聴者の皆さんに届ける、そのプロセスをいかに楽しんでもらえるかということなんです。そういう思いというのは大きなエネルギーになるし、そのエネルギーを感じてさらに人が集まってくるものだと僕は思うんです。さらにそれが、見たいとか一緒にやりたいとか、そういう流れになっていったら嬉しいですね。
池ノ辺 本日はお忙しいところありがとうございました。ワクワクする気持ちがこちらにも伝わってきました。期待して次作の発表をとても楽しみに待ってます。
インタビュー / 池ノ辺直子
文・構成 / 佐々木尚絵
撮影 / 岡本英理
プロフィール
大根 仁(おおね ひとし)
監督
1968 年生まれ。2011 年に劇場版『モテキ』で映画監督デビュー。その他の作品に『バクマン。』『SCOOP!』『奥田民生になりたいボーイと出会う男すべて狂わせるガール』『SUNNY 強い気持ち・強い愛』、3DCG アニメ『しん次元!クレヨンしんちゃん THE MOVIE 超能力大決戦 〜とべとべ手巻き寿司〜』など多数。テレビドラマも「モテキ」「共演NG」「エルピス-希望、或いは災い-」など話題作を数多く手掛ける。2019 年に外部演出家として初めて NHK 大河ドラマ「いだてん〜東京オリムピック噺〜」に参加。『モテキ』で第 35 回日本アカデミー賞話題賞 作品部門、『バクマン。』で第 39 回日本アカデミー賞優秀監督賞、「エルピス–希望、あるいは災い–」で第 60 回ギャラクシー賞テレビ部門 大賞を受賞。
坂本 和隆(さかもと かずたか)
Netflix コンテンツ部門 バイス・プレジデント
Netflixの東京オフィスを拠点に、日本発の実写とアニメ作品のコンテンツ制作及び、ビジネス全般を統括。日本における最初の作品クリエイティブ担当として2015年に入社後、Netflixシリーズ「今際の国のアリス」「First Love 初恋」「サンクチュアリ -聖域-」「幽☆遊☆白書」など、多くの実写作品を担当。「Devilman Crybaby」「リラックマとカオルさん」「アグレッシブ烈子」などの幅広いアニメ作品も仕掛け、日本市場におけるNetflixの作品群拡大に貢献。2021年6月より現職。
作品情報
Netflixシリーズ「地面師たち」
再び土地価格が高騰し始めた東京。辻本拓海はハリソン山中と名乗る大物不動産詐欺師グループのリーダーと出会い、「情報屋」の竹下、なりすまし犯をキャスティングする「手配師」の麗子、「法律屋」の後藤らとともに、拓海は「交渉役」として不動産詐欺を働いていた。次のターゲットは過去最大の100億円不動産。地主、土地開発に焦りを見せる大手デベロッパーとの狡猾な駆け引きが繰り広げられる中、警察が地面師たちの背後に迫る。三つ巴の争いは、度重なる不測の事態の果てに、狂気と欲望にまみれた地面師グループの間に亀裂を生じさせ、拓海の「過去」とハリソンの「因縁」を浮き彫りにしていく。
監督・脚本:大根仁
原作:新庄耕「地面師たち」(集英社文庫刊)
出演:綾野剛、豊川悦司、北村一輝、小池栄子、ピエール瀧、染谷将太、松岡依都美、吉村界人、アントニー、松尾諭、駿河太郎、マキタスポーツ、池田エライザ、リリー・フランキー、山本耕史
©新庄耕/集英社
Netflixにて独占配信中
作品ページ netflix.com/地面師たち