Credit: Wikimedia Commons

クレーターといえば、半球形にくぼんだ隕石の跡地としておなじみのイメージがあると思います。

しかし月の表面や地球上の様々な隕石痕を眺めていると分かるように、実際にはクレーターにはさまざまな形状が存在し、その形成メカニズムは完全には解明されていません。

今回ご紹介する研究は、隕石を1つの塊ではなく粒子の集まりとして捉え、その結合力と衝突時の回転速度がクレーター形成にどのように影響するのかを探求したものです。

この研究で、クレーターの一般的なイメージである大きくて浅い形状は、高速で回転する「内部のゆるく結合した物体」が衝突した場合に形成される傾向があると明らかにされました。

研究の詳細は、2023年11月22日付の『Physical Review E』誌に掲載されています。

目次

隕石はバラバラになって衝突することもある衝突体のエネルギー分配によりクレーター形状が変わる

隕石はバラバラになって衝突することもある

クレーターの形成原因には隕石衝突の他にも火山活動、爆発などがあり、物体の衝突によって形成されるものは「衝突クレーター」と呼ばれます。

衝突クレーターの形成する衝撃は、非常に小さいエネルギーから水爆を上回る巨大なエネルギーまでさまざまです。

このため、クレーター形成のプロセスや、その結果としての形状も非常に多様です。

ただ、一般的には、小さなクレーターはお椀型で(単純クレーターと呼ばれる)、大きくなると複雑な構造を持つとされます。

たとえば、カナダのラブラドールにあるミスタスティン・クレーターは、複雑クレーターの有名な例です。約28kmの推定直径を持ち、中央には約16kmのミスタスティン湖と盛り上がった中央隆起部を有しています。


カナダのミスタスティン湖。形状が複雑な衝突クレーターでもある。 / Credit:Google

しかし一方で、巨大ではあっても単純な形状のクレーターも存在します。アリゾナ州のバリンジャー・クレーター(メテオ・クレーターとも呼ばれる)はその例で、きれいなお椀型の形状が特徴です。

このように、クレーターの分類は一筋縄ではいかず、研究者らの頭を悩ませる問題となっていました。


アリゾナ州のバリンジャー・クレーター(メテオ・クレーターとも呼ばれる)。 / Credit: Wikimedia Commons

これまでの研究では、クレーター形成には、衝突物体の速度やサイズ、地面の性質なども影響することが明らかにされています。

ここで、多くの先行研究には、衝撃を与える物体について「一つの塊」と仮定している点で、実際とは異なるところがありました。

実際には隕石や小惑星は「粒子の集合体」で、粒子の結束強度により衝突時の挙動が変わります。

たとえば、粒子の結束強度が高く「一つの塊」のまま衝突するものもあれば、もっと早いタイミングで断片に分かれてしまうものまでさまざまです。

そのため、物体を「粒子の集合体」と仮定し、その結束の強さを考慮した方が、より実際の衝突に近いシミュレーションになる可能性があるはずです。


左はさまざまなクレーターの写真、右は数値シミュレーション。右上は直径25mmの鋼球が50mmの高さから粒子の床に衝突して形成された、直径76mmの数値シミュレーションによるクレーターで、右下は結合粒子で構成される回転する投射物によって形成されたクレーターの地形。 / Douglas D., et al. (2023)

そこでブラジルのカンピーナス大学(University of Campinas)のフランクリン准教授(Erick de Moraes Franklin)らは、それまでにあまり注目されてこなかった「粒子の結合強度」と「回転速度」の2要素に着目し、さまざまなシミュレーションを行いました。

これらの要素がクレーター形成にどう影響したのか、詳しくみていきましょう。

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衝突体のエネルギー分配によりクレーター形状が変わる

研究者たちは、クレーター形成に与える影響を調べるため、異なる回転速度を持つ、グレープフルーツ大の仮想小惑星(約2000個のダニ大の球体から構成される)を粒状層に投下するシミュレーションを行いました。

この実験で、粒子の結束が弱く高速回転する小惑星は、広く浅いクレーターを形成する可能性が高いことがわかりました。

高速で回転する小惑星の場合、その運動エネルギーの一部は、小惑星を構成する小さな粒子の結合を壊すために使用されます。

つまり、小惑星の高速回転により、粒子同士を強く結びつける結合が弱まり、粒子がより簡単に分離しやすくなるというわけです。


異なる結合の強さをもつ物体の、回転させた場合と回転なしの場合に形成されたクレーターの最終形態(上から撮影)。 / Douglas D., et al. (2023)

これにより粒子は散らばりますが、それぞれの粒子が持つエネルギーは減少します。その結果、回転していない場合に比べて、粒子が地中に深く潜り込むことはなく、広い範囲に粒子を広げるのです。

これらの研究結果は、クレーターの形状が衝突する物体のエネルギーの使い方に依存することを示しています。

エネルギーがどのように分配されるかによって、クレーターがどれだけ広がり、どのくらいの深さになるかが決まるのです。

「大雑把に言えば、衝突の際に隕石が分裂し、その粒子が放射状に広がれば広がるほど、クレーターは浅くて広くなります」とフランクリン氏は説明します。

つまり、お椀型の巨大なバリンジャー・クレーターは、高速回転した、「粒子がゆるく結合した塊状の物体が衝突してできた」可能性があるということです。

研究者らは、今回の成果について「クレーター形成のメカニズムを理解するための重要な一歩」とコメントしています。

「これらの研究は、クレーター周辺で発見された物質の起源を特定し、理解するために役立つだろう」

参考文献

Barringer Crater may have been formed by a cosmic ‘curveball,’ asteroid simulations show | Live Science
https://www.livescience.com/space/meteoroids/barringer-crater-may-have-been-formed-by-a-cosmic-curveball-asteroid-simulations-show

元論文

Impact craters formed by spinning granular projectiles – Phys. Rev. E 108, 054904 (2023)
https://journals.aps.org/pre/abstract/10.1103/PhysRevE.108.054904

ライター

鶴屋蛙芽: (つるやかめ)大学院では組織行動論を専攻しました。心理学、動物、脳科学、そして生活に関することを科学的に解き明かしていく学問に、広く興味を持っています。情報を楽しく、わかりやすく、正確に伝えます。趣味は外国語学習、編み物、ヨガ、お散歩。犬が好き。

編集者

海沼 賢: ナゾロジーのディレクションを担当。大学では電気電子工学、大学院では知識科学を専攻。科学進歩と共に分断されがちな分野間交流の場、一般の人々が科学知識とふれあう場の創出を目指しています。