「分からない」の答えを導き出すのが面白い
――臭気判定士になるためには、やっぱり普通の人よりも嗅覚が優れている必要があるのでしょうか?
必ずしも嗅覚の鋭さはマストではありません。ただ、国家資格である「臭気判定士免許」を取得することが、仕事をする上での必須条件となります。
資格試験は「悪臭防止法」という法律に関する問題や、嗅覚そのものにまつわる問題が出題される筆記試験だけではありません。5種類の薄い試薬を嗅ぐ嗅覚検査も実施するんです。両方をクリアして、晴れて臭気判定士となれるわけです。
現在、試験を通過して実際に活動している臭気判定士は、全国に約3,000人以上いるとされています。ちなみに、私は1996年に実施された第一回試験で臭気判定士となりました。
――日本で初めて臭気判定士として認められたうちの1人ということですよね。すごい!でも、石川さんはなぜ資格を受けようと思ったんですか?
もともとは臭気測定器材のメーカーに入社し、清掃工場や消臭剤メーカーと向き合う営業マンをしていたんです。
当時、上司から民間資格だった「臭気判定技師」の資格を求められていたんですよね。その試験に合格したのが1995年。そして、翌年に「臭気判定士」が国家資格として認定されました。講習会と試験を受け直し、国家資格所持者になれた次第です。
それにしても、当時はまさか臭気判定士を本業にするとも思っていませんでした。ましてやその道のプロとして独立するなんて、考えてもいませんでしたよ。
――独立のきっかけはなんだったんですか?
最初のメーカーに10年ほど勤めたあと、家庭用消臭剤のメーカーでも10年ほどはたらいたんです。在籍中に経験を積む中で人脈も増え、さまざまな企業から臭気の調査を頼んでいただけるようになって。「せっかくだから独立してみようか」と思い立ちました。
経験がものを言うため、免許を取っただけですぐ仕事につながる職業でもありません。だからこそ独立前に、会社員としてさまざまな現場を経験できたのは大きかったです。
特に住宅のにおいをチェックする仕事は、私が2社目で経験するまで、誰もやっていなかったんですよね。狭い業界だからこそ「石川ならできる」と口コミが広まりました。おかげでいまだに営業活動をせずとも、コンスタントに依頼をいただけています。
――唯一無二の存在になれたことが、石川さんの成功の鍵だったのですね。では、ご自身がそこまで「においのプロ」としてのスキルを極められたのは、なぜだと思いますか?
臭気判定士は「分からない」ことの正解を導く仕事だと捉えています。私自身にとって「分からない」ことのある状態が、一番苦しいんです。意地でも「分かる」まで続けた結果が、今のキャリアに結びついているのかな、と思います。
独立して3年程経ったころには、建物の竣工図面まで読めるようになったんですよ。部屋の中でにおいの原因が見つからなければ、空調設備や排水処理設備も確認する必要がありますから。
特に近年建てられた住宅は、より設備も複雑になっています。たまに図面と照らし合わせた時に「設計変更の影響で換気がしにくくなっている」など、設計者や施工業者が気付かなかった欠陥を私が発見することもあるんです。
そうやって、臭気判定士の管轄を超えた領域で根本的な「原因」を発見できたとき、仕事の面白さを感じます。これだから「においの探偵」はやめられないですね。
(文・高木望 写真・宮本七生)