石破茂(C)週刊実話Web

10月9日、ついに衆議院が解散され、事実上の選挙戦に突入した。

ところが、自民党総裁である石破茂首相は本来ならば、立憲民主党など野党と対決姿勢を深めるべきであるにもかかわらず、政敵の安倍晋三元首相の亡霊と戦い求心力が急激に低下。党内外から集中砲火を浴び始めている。

旧安倍派は首相と対立を深めており、仁義なき戦いを展開中。首相は総裁選の決選投票で争った高市早苗前経済安保担当相の完全なる失脚を狙っているとみられ、一方では「高市新党」結成の臆測も飛び交っているからだ。

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「石破内閣は安倍晋三元首相への恨みを晴らすための内閣といっても過言ではない」

ある閣僚経験者は、組閣時の内閣の顔ぶれと党役員の布陣を見てそう漏らした。全国紙政治部記者が補足する。

「石破首相はこれまで党内野党として存在感を示してきました。安倍氏とは水と油の関係で、安倍内閣に退陣を求めたこともありました。逆に、安倍氏は自身の内閣で石破氏を徹底的に干した。政治思想も安倍氏が保守なのに対し、石破氏はリベラル。安倍氏は存命中、石破氏について『絶対に政権を取らせてはならない』と断じていました」

だが、安倍氏が暗殺されたことで、石破氏の運命は変わった。安倍派を中心とした裏金問題が発覚し、東京地検特捜部の捜査により安倍派は瓦解に追い込まれた。そして、ついに掴んだ権力の座。石破内閣に安倍氏への私怨、怨念が詰まっているのは疑いようがない事実とみられている。

その象徴ともいえるのが、村上誠一郎氏の総務相への起用だ。村上氏はもともと石破氏と近い関係にある。安倍氏が凶弾に倒れた後、安倍氏の国葬に反対し、「(安倍氏は)財政、金融、外交をボロボロにし、官僚機構まで壊した。国賊だ」と発言。党員として品位を汚す行為に当たるとして、1年間の党役職停止処分を受けている。

当の村上氏は今でも悪びれる様子はなく、「遺族に謝罪した」としながらも「私は感情で発言したんじゃない。ずっと正論を言い続けたつもりだ」と語っている。

一世一代の「復讐劇」

また、村上氏は雑誌『月刊日本』10月号のインタビュー記事でもこう話している。

「現在の日本や自民党の危機は安倍政権がもたらしたものだということです。危機の根源は『安倍政治』にある。そうである以上、自民党は今回の総裁選を機に安倍政治の検証、裏金問題の解明と責任追及に踏み切り、『安倍政治からの脱却』を実現すべきです」

これには旧安倍派の議員が「安倍氏と国家観の違いがあるにせよ、安倍氏亡き後も鞭を打つような発言をして許せない」と激怒。党内対立が先鋭化している。

閣議前に集まる首相官邸や国会の応接室の席順では、ナンバー2とされる首相の左隣は中谷元防衛相、ナンバー3の右隣には村上氏が陣取った。村上氏はまさに首相が送り込んだ「令和の爆弾男」と言ってもいいだろう。

村上氏を閣僚の中でも「総務相」にしたのも訳がありそうだ。石破氏と決選投票で争った高市氏は安倍氏を慕い、前々回の総裁選で安倍氏は高市氏を支援している。その高市氏は総務相時代、政治的公平性を欠く放送法違反を繰り返した放送局に電波停止を命じる可能性に言及している。

政治部デスクは「石破首相は村上氏に対し、高市氏の総務相時代の言動を徹底的に調べさせるのではないか。高市氏は『幹事長なら引き受ける』と話していましたが、首相が幹事長を打診することはなかった。政治家として失脚させることを目論んでいるのだろう」と読んでいる。

ただ、こんなことをしていては10月27日投開票とされる衆院選で安倍氏を支持してきた岩盤保守層が自民党から離れるのは自明の理。早くも高市氏の支持層からは自民を離党し、新党結成を求める声が出始めているが、石破氏も岩盤保守層が離れていくことを分かった上で、旧安倍派にケンカを売っているフシがあり、一世一代の「復讐劇」と言っても過言ではない状況なのだ。

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旧安倍派潰しに躍起

「それもあってか、石破氏は総裁就任当初、裏金事件で処分を受けた議員らを原則公認にするとうそぶいていたが、首相に就任すると旧安倍派幹部の下村博文、西村康稔、高木毅、萩生田光一、三ツ林裕巳ら安倍派幹部らを非公認にすると決定。さらに、10月9日にはこれに安倍派議員6人を追加し、“旧安倍派潰し”が鮮明となったのです」(前出・政治部記者)

一方、立憲民主党代表の野田佳彦元首相は自公過半数割れを狙い、衆院選後は日本維新の会、国民民主党の3党連立政権樹立を目指している。衆院選後、高市新党が結成されれば、自公過半数割れは現実味を帯びるため、石破氏や自民内部の動きから目が離せない状態が続いているという。

また、首相の動向を気にしているのは旧安倍派や高市シンパ、そして野党だけではない。米国も首相の言動を注視していると言われている。

首相はかねて米国内に自衛隊の訓練基地を造るべきだと主張し、そのためには日米地位協定の改定が必要だと訴えてきた。これによって日米同盟は強化されるというのが首相の考えだが、米政府内からは「訓練だけで、米国を守らない基地はいらない」と反発する声が早速上がっているという。

石破氏はアジア版NATO(北大西洋条約機構)の創設も持論としているが、これは集団的自衛権の全面行使が前提になり、憲法9条との整合性も問われることになる。対中国抑止という狙いがあるが、アジア諸国の中国への向き合い方はてんでバラバラだ。

そのため、旧安倍派からは「あまりにも米国に盾突くようだと、高市氏を失脚させる前に首相が米国によって失脚させられてしまうのではないか」と冷ややかな声も上がっているが、これが分裂状態の党内事情、内閣不信任案の提出で一丸となった野党攻勢と連動すれば、来る総選挙で自公が過半数割れに追い込まれる可能性も否めないのである。

「週刊実話」10月24日号より内容を一部変更