AMIRAとGFX100 IIでトーンが揃う理由
ARRIはシネマカメラ業界でもっとも支持されていているブランドである。いわゆるARRI標準の物が多い。その中でサブカメラとして対応できることは大きな特徴となりえる。岸氏はGFX100 IIはARRIと近いトーンが実現可能で、サブカメラとして使用できるという。星子氏は、ARRIとGFX100 IIでトーンを揃えられる技術的な背景を解説した。
星子氏:
昨今、ディスプレイリファードと呼ばれるカラーサイエンスから、シーンリファードと呼ばれるACESなどが増えてきています。IDT(Input Device Transform)を使って入力値を変換して、異なるカメラ同士をマッチングするという技術が発展中です。
とはいえ、もともとカメラの持っているカーブや個性は絶対的にあります。もちろん個性をある程度ならして、1からグレーディングするのもいいと思います。しかし僕はフィルム出身ということもあり、フィルムやそのカメラの持っている個性をいかに活かしてマッチングさせるかに重きを置いています。
そうした場合に、シーンリファードの中でもLogベースのDaVinci Intermediateを使っています。それを使うだけでも、個性としてきちんと残しやすいですし、そのうえで親和性は高まります。必ずしもACESがあるからどれを選択しても良いわけではありません。もう一歩踏み出しルックを設ける方が良いですね。もともとの親和性が高い方がグレーディングとして行いやすいですし、質も上がります。
また、今回は、DCTL(DaVinci Color Transform Language)を富士フイルムさんに協力いただき入手することができました。このほかにも、DaVinciがバージョン19にアップデートし、F-Log2をサポートするようにもなりました。
今回は「DCTLを使ったもの」と「DaVinci Resolve 19のF-Logモードのカラースペース変換」ほか合計3つを試すことができました。結果として、DCTLが一番良好でした。
今回の結果を振り返ると、DaVinci Resolve 19の現時点のバージョンでのF-Log2のカラースペース変換はハイライトを叩きすぎるカーブの印象でした。このガンマはARRIのLogC3に変えた時に大変しっくりくる範囲の伸び方をしていました。
いろんなソースを見ていく中で海外のサイトを調べましたところ、F-Log2のカーブはLogC3に結構近い親和性のあるカーブだなっていうことがわかりました。もしDCTLを提供いただけなかったら、及第点レベルの変換はできなかったでしょう。
最終的にDCTLをいただいて、富士フイルムのF-Log2からACESのリニアのカーブに一度変換して、そこからさらに今回使ったDaVinci Wide GamutとDaVinci Intermediateに変換すると、ARRIのLogC3のカーブよりも暗部の伸びが良くなりました。
マスター品質のモニターで見ないとわからないぐらいの差なのですけれども、結構大きい差だなと思いました。恐らく現時点のDaVinciのバージョンやいろいろな状況を鑑みると、この組み合わせが一番という結果となりました。
GFX100 IIを今回のMVで使用感、特にAMIRAとGFX100 IIでトーンが揃う要であるF-Logについてさらに聞いた。
星子氏:
まずLogカーブで本当に優秀なものとして、ARRIがあります。LogCは本当に優れていると思います。それはやはりARRIのフィルムスキャナー時代の時から、フィルムをデジタル化するための規格「Cineon」に対して、ARRIのスキャンはどのようにカーブを作っていくかというところを長年研究して開発してきたからだと思います。
ARRI「D-20」から以降のデジタルシネマカメラにそれらのカーブを搭載してきました。フィルム撮影に親しみのあるカメラマンからすると、すごくやりやすいLogカーブといえます。ハイライトの粘りやアンバランスにも強く、この部分は圧倒的にARRIが優れている点です。
F-Logに関しては先ほどお話ししたように、最初の印象ですとちょっと叩いている印象かなと思いました。Logとして収まっている印象なので、多分そのセンサー性能やLogの仕組みが向上していかないと、そこを開放できないのではないかなと思いました。
それが今回GFX100 IIで久しぶりに富士フイルムのカラーサイエンス使用したのですが、F-Log2という新しいLogカーブもある中で、初めてセンサーと親和性のあるカーブで、ファイルも親和性のある状態で扱えるようになったなっていう印象でした。
これはかなり好印象なカーブだなっていう印象ですね。その変換がDaVinciでも上手くできるといいのですが、F-Log2のポテンシャルは素晴らしいと思いますね。
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シネマカメラのラージフォーマットよりも1歩進んだRAW収録にも期待
最後に岸氏と星子氏に今後のGFX100 IIへの期待を聞いた。
星子氏:
岸さんがおっしゃったように、中判サイズのカメラということもありノイズが少なく綺麗だなと思いました。他の他社製のカメラと合わせてもマッチングはとれます。
最初のMV入る前の岸さんとのテストの中で先ほど説明のありました高感度のテストを行った中でも、ここまでだったら感度上げられるね。というのがのがわかるぐらい成果は良かったです。そこも今回何の不安もなく、今日もグレーディングしていて、特に何も処理をせずに、そのままストレートに作業できたという感じです。
ダイナミックレンジに関しても、遜色ないと感じました。唯一の懸念が普通のDaVinciのカラースペース変換だとF-Logのハイが叩かれてしまう傾向がありますが、それがないピュアなセンサーの情報をDCTLで開放してあげると、かなり綺麗に伸びてきました。そこがダイナミックレンジも非常に扱いやすく、クオリティも遜色なく扱えたなっていう感じですね。
岸氏:
僕も手ごたえはすごく感じていまして、ARRIのカーブと大変親和性高いので、ARRI製品のサブカメラとして扱えるでしょう。今回ミュージックビデオでしたので、撮影の機動性考えて、内部収録が可能なProRes収録したのですけれど、GFXはRAW出力にも対応できます。
Blackmagic Video AssistやATOMOSのSHOGUNを使ってBlackmagic RAWでの記録や、AppleのProRes RAWで記録できます。ちょっと周りの方にも聞いた印象や実際RAW撮影で仕上げた作品とかのデモを拝見すると、もう一歩RAWとしての奥行き感が出ているなという印象でした。
やはり中判のセンサーサイズが持っている、絵の描写力の空気感っていうものは、今のデジタルシネマカメラのラージフォーマットよりもさらにもう1歩進んでいるなっていう印象でした。機会があれば今度はぜひRAWで試してみたいなと思っています。
GFXの魅力といえば、ビスタビジョンクラスのセンサー搭載、8K撮影などに話題が集中しがちだが、岸氏と星子氏の話はまったく違う。岸氏のARRIのBカメになるという話は興味深かった。GFXの新しいプレゼンスとなりそうだ。
星子氏によるトーン統一の考察は大変参考になりそうだ。次第にシネマ業界から注目を集めつつあるGFX100 IIだが、今後ますますいろいろな現場で選ばれそうだ。