過去に犯したズルいことを紙に書くだけで、目の前の誘惑に強くなる / Credit’ Unsplash
自分が過去に犯したズルを紙に書くと目の前の誘惑に強くなるようです。
米ラトガース大学ビジネススクールのオリバー・シェルドン氏(Oliver Sheldon)らの研究チームは、倫理に反する行動を起こす確率を低下させる方法を調べています。
彼らは、参加者を「結果的に上手くいったズル」について紙に書き出す人と、別の事柄について紙に書き出す人に分け、相手を騙すと得をする状況に置き、嘘をつく確率を比較しました。
実験の結果、別の事柄について紙に書き出した人が買い手になった場合には、売り手に嘘をついた割合が約67%だったのに対し、事前に「過去に犯したズル」を書き出した人は約45%と低くなったのです。
事前に過去のズルを思い出すことで、誘惑に負けた時の影響を予測し、倫理的な行動を取るという理想的な自分のイメージを保持することにつながったものと考えられます。
この研究は、学術誌「Personality and Social Psychology Bulletin」にて2015年5月22日に掲載されたものです。
目次
誘惑に負けてしまうのは性格のせいだけではない自分のイメージを守れる限り不正を犯してしまう
誘惑に負けてしまうのは性格のせいだけではない
誘惑に負けてしまうのは性格のせいだけではない / Credit: Unsplash
脱税、賄賂、ドーピング使用、カンニング。
ニュースや新聞を見てみると、日常的に倫理に反する行動が行われていることが分かります。
不正を犯す誘惑に屈するか、抵抗するかを分ける要因は何なのでしょうか。
所属する組織の文化や個人の責任感、価値観などさまざま考えられます。
特に悪人が倫理的に悪いことをし、善人が良いことをする、つまり非倫理的な行動は性格によるものであると考えてしまいがちです。
しかしほとんどの人は、性格そのものではなく、その場の状況や自分の非倫理的な行動をどのように解釈するのかに左右される可能性があるのです。
また善良な人物が時折倫理に反する行動を取ってしまう理由のひとつとして、自制心の弱さ、あるい自制心の欠如である可能性も考えられます。
そこで米ラトガース大学ビジネススクールのオリバー・シェルドン氏(Oliver Sheldon)らの研究チームは、過去に犯したズルを思い出すことで、倫理的な行動を行う自制心が喚起されるのではないかと考え、実験を行っています。
実験に参加したのは大学生196名で、以下の2つのグループに分けられました。
実験群:「過去に犯して、結果的に上手くいったズル」について紙に書き出す
統制群:「人生の上手くいかなくなった時の計画」について紙に書き出す
その後、歴史的建造物の買い手と売り手どちらかの役割を担当し、自身の利益最大化を目指す不動産取引のロールプレイをしてもらいました。
不動産取引の売り手は、歴史的建造物の保存を肯定的な売り手に探しており、買い手は歴史的建造物を保存しいたと考えているものの、ひそかにホテル建設のための取り壊しを計画している設定になっていました。
このようなジレンマを抱えている状況で、買い手の参加者はホテル建設の計画を売り手に正直に伝えるのか、嘘をつき、値段交渉に行うのかを調べました。
実験の結果、人生の上手くいかなくなった時の計画を書き出した人が買い手になった場合には、売り手に嘘をついた割合が約67%だったのに対し、事前に「過去に犯したズル」を書き出した人は約45%と低くなったのです。
実験の結果を改変。 / Credit: Sheldon & Fishbach, (2015).
つまり事前に過去のズルを思い出すことで、誘惑に負けた時の影響を予測し、倫理的な行動を取るという理想的な自分のイメージを保持することにつながったものと考えられます。
研究チームは別の状況でも、過去のズルを書き出す行為が倫理に反する行動を抑制するかを検討しています。
(広告の後にも続きます)
自分のイメージを守れる限り不正を犯してしまう
彼らはオンラインで募集した135名を①「過去に犯して、結果的に上手くいったズル」について紙に書き出す人と、②「人生の上手くいかなくなった時の計画」について紙に書き出す人の2つのグループに分け、以下の文章を読んでもらいました。
「ある日、あなたは仕事終わりに個人的な書類をコピーし、CDと一緒に郵送する必要がありました。しかし帰り道に封筒等を購入する店舗がないことに築き、会社のコピー機、封筒を使用しました。」
この行為は会社の備品を私的に利用・持ち帰ることは、業務上横領罪や窃盗に該当する可能性があります。
参加者にはこの行為に対し「あなたはどれだけする確率がありますか?」という問いに答えてもらいました。
実験の結果、人生の上手くいかなくなった時の計画を書き出した人と比較して、事前に「過去に犯したズル」を書き出した人は上記の不正行動を行う可能性が低いであろうと回答したのです。
実験の結果を改変。 / Credit: Sheldon & Fishbach, (2015).
この倫理に反する行動を抑制する傾向は、ほかの実際に病気でないのに仕事を休む、追加の仕事を避けるために意図的に作業ペースを落とすなどの場合にもおいても確認されました。
これらの結果は、事前に過去のズルを思い出すことで、道徳的な気持ちが芽生えたかのように思われますが、研究チームはこの効果が生まれる理由について次のような見解を述べています。
「私たちは、誘惑が自分のイメージを壊さない限り、倫理に反する行動を避けようとは思わない。多くの人は、気づかぬうちに自分の行動を正当化する心理が働いてしまう。」
「不正が他人に見つかり、それで疑いの目を向けられるかどうかは問題ではない。誘惑に負け、自分のイメージが壊れるのが問題なのだ。」
つまり、あくまでも大事なのは自分のイメージで、それが守られるのであれば目の前の誘惑に弱くなるということです。
しかし事前に過去のズルを思い出すことで、自分のイメージを長期的な視点で捉えることができ、結果的に倫理的な行動を取ることができるようです。
もしかすると「過去のズル」を書き出す機会を、旅行先の買い物など誘惑に負けそうな場面の手前に行なうことで自分の衝動に打ち勝つことができるかもしれません。
参考文献
Anticipating temptation may reduce unethical behavior, research finds
https://www.sciencedaily.com/releases/2015/05/150522083509.htm
Make Better Decisions By Prepping For Temptation
https://bigthink.com/surprising-science/make-better-decisions-by-prepping-for-temptation/
Why good people do bad things
https://www.eurekalert.org/news-releases/665969
Why good people do bad things: Anticipating temptation may improve ethical behavior, study finds
https://phys.org/news/2015-06-good-people-bad-temptation-ethical.html
元論文
Anticipating and resisting the temptation to behave unethically
https://www.researchwithrutgers.com/en/publications/anticipating-and-resisting-the-temptation-to-behave-unethically
ライター
AK: 大阪府生まれ。大学院では実験心理学を専攻し、錯視の研究をしていました。海外の心理学・脳科学の論文を読むのが好きで、本サイトでは心理学の記事を投稿していきます。
編集者
海沼 賢: ナゾロジーのディレクションを担当。大学では電気電子工学、大学院では知識科学を専攻。科学進歩と共に分断されがちな分野間交流の場、一般の人々が科学知識とふれあう場の創出を目指しています。