鹿島の監督交代に「またか」が本音。でも中田浩二は強化責任者として逸材だと思っていた【OB名良橋晃の見解】

 J1の鹿島アントラーズは10月6日、ランコ・ポポヴィッチ監督とミラン・ミリッチコーチの契約解除、強化責任者を務めていた吉岡宗重フットボールダイレクター(FD)の退任を発表。9日には中後雅喜コーチが新監督に就任、プログループマネージャーの中田浩二氏が新FDとして強化部のトップに就いた。また、本山雅志アカデミースカウトとクラブOBの羽田憲司氏のコーチ就任も合わせてリリースされている。

 大きな岐路に立つ鹿島に、クラブOBは何を思うのか。1997年から2006年まで所属した間に数多くのタイトル獲得に貢献した元日本代表の名良橋晃氏が、古巣への本音を語ってくれた。

――◆――◆――
 
 ポポヴィッチ監督とミリッチコーチの契約解除、吉岡FDの退任を知って、率直にめちゃくちゃ衝撃を受けました。確かに26節から6試合勝利なしと、スタメンを固定してしまった弊害が終盤戦に出て結果が伴わなくなっていましたが、リリース前日の10月5日に行なわれたJ1リーグ33節のアルビレックス新潟戦では4-0で勝利。練習でもトライしていた3バックのシステムで久しぶりの白星を掴み、チームを立て直せる兆しが見えた矢先だっただけに、驚きが大きかったです。

 新たな3-4-2-1のシステムと、従来の4バックを併用すれば、今後への期待感も膨らんでいました。前半戦は2位と首位争いに食い込んでいましたし、夏に佐野海舟選手が欧州移籍したのも後半戦に苦戦した一因かもしれませんが、それは海外挑戦が活発化した現代では鹿島に限った話ではありません。

 むしろ、知念慶選手のボランチ抜擢や大卒ルーキーである濃野公人選手の台頭、名古新太郎選手や師岡柊生選手の活かし方も評価すれば、ポポヴィッチ監督の貢献は大きかったのではないでしょうか。

 ただ、これはあくまで個人的な見解なので、クラブとしてはポポヴィッチ体制を継続した場合の明るい未来が見えなかったのかもしれません。契約解除のタイミングとしても、インターナショナルマッチウィークでリーグが一時中断する今しかなかったんだと思います。

 クラブ上層部の決断に、内部の人間ではない自分は何とも言えませんが…鹿島アントラーズが大好きなだけに、「またか」という本音は正直、否めなかったです。

 2020年のザーゴ監督から始まり、相馬直樹監督、レネ・ヴァイラー監督、岩政大樹監督、そしてポポヴィッチ監督と、結果が伴わないと監督交代が繰り返される近年は、鹿島を応援する僕としても歯痒い気持ちが続いていました。

【画像】鹿島アントラーズの歴史を彩った名手たちと歴代ユニホームを厳選ショットで一挙紹介!
 また今回はポポヴィッチ監督の契約解除だけではなく、吉岡FDも同日に退任ということは、ふたりは大分トリニータでも一緒だったので、吉岡FDなりに今シーズンへの覚悟もあったのかもしれません。今季からは中田浩二も強化部に関わってくれていましたけど、以前は吉岡FDがひとりで強化を担当していた時もあり、正直、負担が大きかったのでは? と個人的には感じていました。

 監督と強化責任者が同日にクラブを去る決断。これにはチームを立て直して、もう一度新しい鹿島アントラーズを作っていくんだ、という強い覚悟を感じます。そしてフットボールダイレクターの後任は中田浩二。いずれ強化部のトップに就くであろう逸材だと感じていたので、ついにこの日が来たかと僕は思っています。

 中田浩二には人を惹きつける力があります。現役時代から先輩・後輩問わずチームをまとめる力があり、コミュニケーションも上手。ピッチ内外で視野がすごく広いんですよね。

 たとえば、食事の時に足りないものに気づいて持ってくるような、気配りの人です。他の人には気づかない部分が見えていて、気が利くので周囲からの信頼も厚いですし、だからこそ「中田浩二のために頑張りたい」という想いで帰ってくるOBも出てくる。
 
 思い起こされるのは、鹿島で長く強化責任者を務めていた鈴木満さんの姿です。練習を見ているなかで、サブメンバーや調子を落としている選手に声をかけるタイミングが絶妙でした。

 満さんからちょっとしたコミュニケーションがあるだけで、選手は「見られているんだ」と思い、モチベーションが上がる。サッカーに限らず、プライベートの話でもいいんです。よく会話してくれる満さんが、選手にとってはありがたい存在でした。

 満さんからのコミュニケーションがあったおかげで、サブメンバーがモチベーションを落とさずにキープできると、それは分厚い選手層の維持にもつながっていました。プロだとしても選手はロボットではないので、クラブにおいては人と人が心で向き合うのが最も大事。そうして求心力が生まれ、チームとしての基盤が構築されていくと思うんです。

 多くのタイトル獲得に貢献した満さんが、欠かさなかった選手へのコミュニケーションは、中田浩二にも絶対できると思っています。彼には人の心を惹きつける力がありますし、勝つために組織の結束力も大事にできる男。中田浩二を先頭に、鹿島アントラーズが再び良い方向に向かってくれるだろうと、僕は信じています。
 
 鹿島がこれから改善に向かっていくためのキーポイントは「我慢」だと思います。現代サッカーでは相手の長所を消す戦術も基本となっているなかで、結果が伴わなくなるとすぐ監督交代を繰り返すようでは、指揮官が掲げる理想のサッカーも構築されにくい。戦術浸透が難しくなれば選手間の共通理解も希薄になるので、そうなると当然、優勝も厳しくなるでしょう。

 たとえば、アンジェ・ポステコグルー監督(現トッテナム)が横浜F・マリノスをJ1優勝に導いた2019年も就任2年目で、1年目はリーグ12位と結果が出ていません。今、J1で首位のサンフレッチェ広島でも、ミヒャエル・スキッベ監督は就任3年目です。

 現代サッカーではある程度、監督の戦術を浸透させるために我慢の期間は必要で、指揮官が理想とするサッカーが構築されてきたら、相手の対策を上回る次の手段も作っていく。そうして、ようやく花開いたチームがタイトルを獲得できるのではないでしょうか。

 なので、中後新監督、本山&羽田新コーチが就いて再出発となりますが、これからは我慢の時間を与えてほしいと、僕は願っています。

 強いアントラーズを取り戻すためには、あとはアカデミーの充実も必要だと思います。活躍した選手がすぐに海外移籍してしまう今のJリーグでは、良い素材を育て、どんどんトップチームに上げていくのも大切です。
 
 もちろん、才能ある若手を発掘するスカウトも重要ですし、好タレントが「鹿島でプレーしたい!」と思ってもらえるクラブにもならなければなりません。

 若手に憧れてもらうクラブになるためにも、ファン・サポーターのためにも、やっぱり勝利は必要です。2018年のACL優勝、国内では2016年のJ1&天皇杯制覇を最後にタイトルから遠ざかっていることを考えれば、最近はチャンピオンとしての喜びを味わっているサポーターが少なく、勝つゲームをもっとたくさん見たいと思っているはずです。

 でも、忘れてはならないのは、勝利というのはチームを強化した先にあるもので、そこの順番を疎かにしてしまうと、今の良くない流れをズルズルと引きずってしまうリスクがあります。

 言いたいことはたくさんあると思いますけど、クラブだけではなく、ファン・サポーターも、みんなで我慢することが大切です。勝利をもたらしてくれる選手ファーストの心持ちで、またみんなが笑顔になれる日が来ることを願っています。僕も、自分にできることがあるなら、大事にしているクラブなので、最大限サポートしていくつもりです。

構成●志水麗鑑(フリーライター)

【記事】批判も覚悟のうえ――新FDには思い切って“中田浩二色”を前面に押し出し、新たな鹿島のカラーを作ってほしい

【記事】鹿島の根深い問題、複数のOBが口にしているのは? 大胆なアクションで閉塞感を打破したい【識者の見解】

【記事】「未来が見えなかったのかな」指揮官解任で激震の鹿島、OB名良橋晃も驚き隠せず「吉岡さんも覚悟を持ってたと思う」