森保一監督はサウジ戦で“真骨頂”を発揮。敵将マンチーニよりもずっとスマートに隙のない試合を仕上げてみせた

 日本代表は現地10月10日、北中米ワールドカップ・アジア最終予選の第3節でサウジアラビアと敵地で対戦。2-0で快勝を収めた。

 森保一監督の真骨頂とも言える試合だった。常勝の広島時代もアウェーで観る機会が多かったせいか、何も起こらない退屈な試合が目立った。結果を手にするためには、リスクを最小限に抑える。完全に割り切って舵を切れるタイプで、逆に勝利が必要なチャンピオンシップでは見違えるような攻撃性を引き出した。

 こうして状況に応じたカメレオンのような采配こそが、Jリーグで3度戴冠の秘訣だった。常に美しい勝利を目ざすヨハン・クライフやジョゼップ・グアルディオラではないし、革命的なアリゴ・サッキでもない。古典的なイタリアン・テイストを備えたリアリストとも言えるが、それでもアズーリを欧州制覇に導いたロベルト・マンチーニ(現サウジアラビア監督)よりは、ずっとスマートに隙のない試合を仕上げてみせた。

 最終予選全体を俯瞰しても、アウェーのサウジアラビア戦が最も難しいハードルになるのは目に見えていた。サウジは必ずしも相性の悪い相手ではないが、ただし敵地に乗り込むとゴールさえ奪えずに3戦全敗。必然的に森保監督は、手堅いシナリオを用意した。

 前線から優先したのは、ゴールを奪うより、奪われないために戦えて汗をかける選手たちだった。一方でコンタクトに寛大な主審の下で優位に試合を運べたのは、過度に反則をアピールしようと転げまわるサウジの選手たちに比べて、冷静に理知的に闘えたからだった。

 厳しい欧州を主戦場とする日本の選手たちは、闘い続けながらも戦況を把握し、スペースを創出すれば確実にそこを陥れる技術や判断を備えている。右ウイングバックで起用された堂安律には、サウジのエース格であるサレム・アル・ドサリに対峙する役割が課され、実際に序盤は苦戦を強いられた。

 だが攻撃に転じると、逆サイドから走り込む三笘薫へと揺さぶりをかけ、三笘のダイレクトクロスを守田英正が折り返したところに、シャドーで起用された鎌田大地がフリーで走り込む。
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 こうして均衡を破ったことで、日本の意識は一層、堅守へと傾いた。とりわけ前半の中盤以降は重心が落ちて2度の大きなピンチに直面。しかし、ペナルティエリア中央からのアル・ドサリに端を発する3連発のシュートは、3バックと遠藤航や三笘までが身を挺してブロック。前半終了3分前の決定機も鈴木彩艶がスーパーセーブで救う。アジアカップでは賛否が分かれた鈴木の大抜擢だが、このまま快進撃が続けば指揮官の慧眼ぶりが再評価されることになりそうだ。

 逆に追いかけるサウジは、マンチーニ監督が何度かフォーメーションを動かすが、むしろ混乱は深まるばかり。日本に追加点が生まれると、あとは確率の低い前線へのロングボールに一縷の望みを託すしかなくなった。

 結局、森保監督は最後まで前線での守備の強度を保つことに腐心したため、後半に入ると伊東純也や前田大然らの俊足ランナーを送り出し、上田綺世の疲労軽減のために小川航基というカードを切ったので、ソシエダで王様然とした久保建英や、スタッド・ドゥ・ランスで連続ゴールを決め続ける中村敬斗は顔見世だけに留めた。

 率直に日本だけが3連勝で抜け出したグループCは無風だ。日本以外に好調なチームは見当たらず、このままホームでオーストラリアを退けて、11月に控えるアウェーの連戦も乗り切れば、ワールドカップへの切符は当確と言っていい。

 それまで指揮官は勝利のために手綱を締め続けるのだろうが、せめてその先は本大会へ向けての伸びしろ探求や、個々を所属チームで最大限に輝かせるための招集方法の検討などにも、しっかりと目を向けて欲しい。

文●加部究(スポーツライター)

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