ヤングケアラーを描いた映画『若き見知らぬ者たち』 磯村勇斗と福山翔大が社会の理不尽を煮詰めたような物語を演じ切る

【弟・壮平の人生に少しだけ光が見える理由】

彩人は職質を受けていた青年を助けたことがきっかけで、逆に警察官の逆鱗に触れてしまったり、親が経営していたカラオケバーで半グレ軍団に絡まれたり、ずっと負の連鎖が続いている人生。

映画を観ながら「逃げちゃえばいいのに」と何度も思いました。でもそれができないのが彩人なんですよね。

いっぽう、壮平は働きながら総合格闘技のトレーニングに打ち込む日々です。壮平は警察官だった父親から、格闘技の才能を認められていました。今の彼はタイトルを獲得することが最優先。

母親のことはほぼ兄がやっているので、あまり家族のほうを向いている感じはしません。でもそれは彩人も望んでいることであり、自分にできなかったことを弟に託していたんですね。壮平もそれに応えるために頑張っているのです。

壮平の人生は目標を持って歩んでいく人生なので、その視線の先に小さな光が見えるんです。でも彩人の視線は目の前の真っ暗な現実だけ。そこに兄弟の明暗があると思いました。

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【超力作だけどヘビー級なので、覚悟して観てください】

本作は、内山拓也監督の商業長編映画監督デビュー作です。自主映画として制作された長編映画『佐々木、イン、マイマイン』(2020年)が高評価を受けた内山監督。本作はご自身の知り合いの体験がきっかけとなったそうです。

世の中には理不尽なことがたくさんあり、闘う人もいれば諦める人などさまざまですが、声を上げないと多くの人に知ってもらえないのはたしかです。

この映画はフィクションとはいえ、彩人のようなヤングケアラーは現実にもいるし、助けを求めたほうがいい状況でも、どうしたらいいのかわからない、途方にくれることもあると思います。そんな人たちの声が詰まった映画なのかなと思いました。

多くの人に届いてほしいと思いつつも、正直、観ているほうもしんどい思いを抱えてしまうので、心身ともに元気なときに観てください!

執筆:斎藤 香(c)Pouch

Photo:©2024 The Young Strangers Film Partners

若き見知らぬ者たち

10月11日(金) 新宿ピカデリーほか全国公開

原案・脚本・監督:内山拓也

出演;磯村勇斗 岸井ゆきの 福山翔大 染谷将太

伊島空 長井短 東龍之介 松田航輝 尾上寛之 カトウシンスケ ファビオ・ハラダ 大鷹明良

滝藤賢一 / 豊原功補 霧島れいか