トヨタがハースF1と手を組んだキッカケに豊田章男会長の"鶴の一声"? 複数チームと協議も「最善のパートナーを見つけた」

 ハースF1とのテクニカルパートナーシップを締結したと発表したTOYOTA GAZOO Racing(TGR)は、人材育成の場としてF1を活用したいという豊田章男会長の考えから生まれたモノだと説明した。

 この提携の発表日には、スーパーフォーミュラ第6戦・第7戦を控える富士で、豊田会長とGAZOO Racing Companyの高橋智也プレジデント、ハースF1の小松礼雄代表が登壇し記者会見が実施された。

 トヨタが2009年にF1を撤退して以来、ドイツ・ケルンにあるTGR-Europeの施設はマクラーレンをはじめとするF1チームが設備を使用してきたが、主たる関わりは無かった。

 しかし今回、ハースとTGRが複数年契約を結び、両者は専門知識や技術、リソースの共有や人材の交流を行なっていくことに。F1にトヨタという名前が帰って来ることとなった。

 今回のテクニカルパートナーシップでは、TGRがハースに不足していた設計、技術、製造をサポートする一方、ハースはTGRが求めているF1で培った技術的専門知識と商業的利益を提供するとしている。小松代表曰く”Win-Win”の関係だ。

 その一環として、TGRはハースの旧車テスト(TPC)に育成ドライバーやエンジニア、メカニックを送り込むことになった。こうしたF1プログラムが用意されたキッカケには、人材育成の場としてF1を活用したいという豊田会長の想いがあったという。

 そしてその想いを実現するために、TGRはハースだけでなく複数のチームと協議を行なったという。

 富士での記者会見の後、英語メディア用のオンライン会見に出席したTGRモータースポーツ担当部長である加地雅哉は、提携のキッカケについて次のように説明した。

「キッカケは会長の豊田章男さんでした。彼は常にドライバーのことを考えてくれています」

「今年のはじめに章男さんと話をした時に、彼は実際に我々のドライバーやエンジニア、メカニックに、学びや人材育成のためトップカテゴリーへ参加させる方法を探したいと仰っていました」

「その話の後、私はハースを含むいくつかのチームと協議を行ないました。そしてハースが最善のパートナーということになりました」

 2月頃バーレーンで加地部長から話を持ちかけられたという小松代表。レギュレーションで許される範囲内でフェラーリやダラーラなどと提携を結び、コンパクトな体制でF1に参戦するというハースのモデルケースの弱点を克服する上で、この誘いを断るという選択肢は無かったようだ。

 どのようにチームオーナーを説得したのかと尋ねられた小松代表は次のように答えた。

「正直なところ、考えるまでもありませんでした……特に、現在の財務レギュレーションやこのスポーツの現状を見れば分かるはずです。このようなパートナーが欲しかったとしても見つけることはできません」

「加地さんとこの話を始めた時は、単なる思いつきのようなモノでした。しかしだんだん話をするようになって、互いの目的やアプローチ、考え、長所と短所を理解するようになりました。正直に言って、完璧にマッチしています。ジーン(ハース/チームオーナー)を説得するのは難しくありませんでした」

「我々の現在のモデルでは、改善に限界があります。いくつかの領域では改善できましたが、エンジニアリングの他の側面、つまり通常は莫大な投資と大きなリードタイムを必要とする内製エンジニアリングを取り入れない限り時間とコストの両面で効率性を高めることはできません」

「しかし、TGRとパートナーシップを結べば、そのような飛躍を素早く実現することができます。だから、何の問題もありません」

 そして小松代表は記者会見の中で、トヨタとの協業はオーナーだけでなくチーム全体として喜ばしく受け入れたと明かした。

「この話をチーム内で『こういうことができそうだよ』と言ったときに、本当にみんな喜んでくれたんですよ」と小松代表は言う。

「我々に今ないものをTGRの提供で得られて、次に大きくステップでき、本当にポジティブです。互いにちゃんと得るものがあって、一緒に育っていけるっていう確認ができたので、ポジティブで明るい提案だと思います」

「一番根源にあるのは、人を育ててその人でチームをコンペティティブにしたい。それはやっている人たちにとても大きな自信になるはずです」