トヨタ、ハースF1との提携でさらなる”良いクルマづくり”目指す。「人づくりから始める決意をぜひとも応援いただきたい」

 TOYOTA GAZOO Racingは10月11日、ハースF1チームとの提携を発表。TOYOTA GAZOO Racingはテクニカルパートナーとして、様々な面でハースと協力することになる。

 トヨタは2009年までF1を戦っていたが、今回の発表は”F1復帰”ではないと念押しされていた。SNSでは今回の発表をそういった文脈で捉えた方や、「F1に戻って来るな」といった批判をするファンも散見された。

 豊田会長自身、2009年のF1撤退時に社長だったこともあって、F1について複雑な心境を持っていたという。しかし今回の提携が、ドライバーだけでなくエンジニアや、それを見るファンにとっても夢につながるはずだと語った。

「F1が世界最高峰のモータースポーツだということは皆さん、そして我々も認めているところであります。そういう中で一番速く走りたいというドライバー、そしてそんな仕事に関わりたいというエンジニアがたくさんいると思います」

「トヨタはかつてF1チームを自社で持っておりましたけれども、私が社長のときに撤退を決定いたしました。ただその後に、やはりこの十数年の間、道を閉ざしてしまったなと私自身思っていましたし、ドライバーたちもそう思っていたと思います」

「その後にハースの小松(小松礼雄/チーム代表)さんと出会いきっかけをいただいて、そんな人たちに夢と希望を与えられる道筋ができるんじゃないのかなというのが今日の発表だというふうに私は思っています」

「ですからF1再参入とかではありません。いろいろなステークホルダーがこの今日のハースとGAZOO Racingのニュースをベースに、何か自分なりに夢ができたなら、我々としてはそんなに嬉しいことはない」

 豊田会長は2023年のF1日本GPに訪れ、温かい声援を送られた際のことを振り返り、次のように付け加えた。

「鈴鹿に行ったときの話しですけども、平川亮選手と小林可夢偉選手、中嶋一貴選手と歩いていたんですけど、”モリゾウさん”としか言われないんです。そのとき、3人に『君たち大丈夫? 現役でしょ』と。そこで思ったのは、私よりもハンドルに近い人間が幸せにならなきゃいけない、主役の場所を作って上げなきゃいけないなと思ったことは事実です」

「それとF1の会場に行ったときにですね、皆さんご存知のように私はトヨタでF1をやめた人間ですよね。ウェルカムな雰囲気で迎えられるとは正直思っておりませんでした」

「ですから(声援を受けて)余計にその世界への道、そして若い人たちが夢を追える勉強の場みたいなものがどこかにないかなと思っていました。そのときにこういうお話がありましたので。ただあの時は、こういう提携になるとは、お互いに全く思っていませんでした」

 トヨタが設計、技術、製造の面でハースをサポートする一方、育成ドライバー、エンジニア、メカニックがハースのテスト走行に参加。ドライバーは将来的にハースのドライバーとしてF1に参戦することを目指し、エンジニア・メカニックはチームのノウハウを学ぶ。

 トヨタのエンジニアおよびメカニックは空力開発にも参画。世界最高峰のレースの現場で活躍し、培った技術や知見を市販車に反映できる人材の育成を目指すとしている。

 豊田会長は”大恐竜”と例えたF1のビッグチームと、コンパクトな体制で戦っているハースで、トヨタが常日頃標榜している”良いクルマ作り”を担う人材を育成していきたいと語った。

「ドライバーだけにその道を作れば良いわけじゃなくて、それぞれを作るエンジニア、レース活動を支えるメカニック、それからいろんなスタッフでモータースポーツは成り立っています」

「ハースさんは言葉を選ばずに言えば、非常にコンパクトなチームだと思うんです。なのに大恐竜に向かって戦ってるわけです。そういうチームであるがゆえに人が学べる環境がものすごくあるんじゃないかなということで今回の一歩を踏み出させていただいたということです」

「人が育つにも、世の中が変わるのにも時間がかかります。ぜひ皆様にはまずモータースポーツに興味を持っていただき、そしてその最高峰であるF1というものに対してリスペクトする。その中で長期的な応援体制をぜひよろしくお願いをしたいなというふうに思っております」

「(F1から撤退した)当時はもっといいクルマを作ろうよというよりは、もっと大きな会社にしようというトヨタ自動車だったような気がします。会社の目的が売上高とか利益とかにあって、ああいう活動がですね、あまり適さないということを当時社長として判断いたしました。今はモータースポーツからもっと良いクルマ作りをするという会社に変革してきております。そのためにはそれを担う人が必要なんです」

「この14年間というか長い間、その人材をモータスポーツに絡ませてこなかったということでもありますので、本当にゼロから、ちょっとマイナスになるかもしれませんが、人づくりから始めるトヨタの決意をぜひとも応援いただきたいです」