〈中野・劇団員殺人事件2〉「俺のことわかる?」鋭く睨みつけ…被害者の恋人が犯人と面会し、“直接対決”に

同窓会にも参加

周囲への聞き込みから浮上したのは、事件前はもちろん、事件後もそうであった、決して逃走犯とは思えぬ生活ぶりである。自宅近くのパチンコ店で頻繁に目撃されていたばかりか、同窓会にも参加し写真にまで収まる。彼の地元で暮らす知人によれば何食わぬ顔で普通に暮らしていたようだ。

「東京で頑張っていたけど、親も年だし長男だから戻ってきたんだって言ってました。フェイスブックには、充実した東京での暮らしぶりを示した写真が多く載っていました。実際に会うのは久しぶりでしたけど、写真のように楽しそうにしてましたよ」

彼が縁がない土地ではなく実家での逃亡生活を選んだのは、事件前から親の庇護をアテにしていたからだ。戸倉の祖父は税理士として運転手を抱えるほどの人物だった。運転手は言う。

「厳しい家でしたよ。祖父はきっちりしていたというか、税理士そのものだった。少しでもあやふやなことを許さない性格でしたね。高広の親父さんはそうやって育てられ、孫でもある高広の教育にもいろいろと口を出していた。でも、最終的には溺愛してたけどね」

父親は祖父の仕事を手伝っていたという。孫である戸倉も当然、その後継者として期待されていた。高校での成績は良かったが、難関大学の受験に失敗。逃げるようにして親元を離れ1人暮らしを始めた東京でのカラオケ店やゴミ収集のアルバイトを経て、不動産業界に就職する。宅建の資格を取ろうとしていたが、結果、試験に落ち続けたことを機に会社を辞め無職に。それでも長年連れ添った彼女の存在が救いになった。

挫折を繰り返しながらも異常性が見えなかった戸倉が豹変したのは、その彼女と別れ、のちに復縁を迫るも断られたからである。

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行きずりの犯行?「LINEを交換したかった」

事件前日、彼はマンション引き渡しの手続きを理由に親から現金6万円を受け取り、上京していた。久しぶりに戻ってきた都会で、まず元カノに「会いたい」と連絡するも、相手にされなかった。

会うぐらいはいいのでは。何もそこまで冷たくあしらわなくてもいいのでは。元恋人に会うことが叶わなかった彼は、母親から受け取っていた金で性風俗店に行く。性欲処理を済ませたかどうかはわからないが、その後、当初の目的だった引き渡しの手続きのため中野新橋に降り立った。

深夜、帰宅途中の理沙をどこかで見かけたのだろうか。後をつけ彼女が玄関を開けた瞬間、押し入ったとされている。

「東京での思い出にLINEを交換したかった」

戸倉は裁判でそう語ったが、LINEを交換するだけなら道端で声をかければいいことだ。本当のことを話していないと見るのが自然だろう。ともかく、理沙との接点は近隣住民という以外に全くない。当初疑われていた怨恨や痴情のもつれの類による犯行ではなかったことだけは、確かだ。

戸倉は殺害後、彼女の自宅から舞台の衣装やリュック、エアコンのリモコン、シーツなど複数の私物を奪い逃走する。泰蔵が、躍起になってマンションのベランダを中心に捜し回っていたのは、このためだ。

しかし、戸倉は、翌日には引き払うことになっていた自宅マンションのゴミ捨て場に捨てたと供述している。実際に奪ったものは今も見つかっていない。顔見知りの犯行だと思わせたかったのだろうか。

2016年2月、実家に舞い戻り、両親の庇護の下で自堕落な生活を続けていた戸倉に突如として捜査の手が迫る。東京から来た捜査員にDNAのサンプル提出を求められたのだ。意外にも戸倉は素直に応じたという。が、内心は驚いていたことだろう。フェイスブックを削除するなど、迫る捜査に備えて証拠隠滅を図るような動きをしていたことも明らかになっているからだ。

ちなみに逮捕後、警察が戸倉の自宅を家宅捜索するも、事件に関するものは何一つ出てこなかった。