いつまでも目を逸らせなかった自身の薄毛問題に悩む漫画家・トリバタケハルノブ氏が描く『東京ハゲかけ日和』。最新話では、薄毛治療と美容整形、アラフォー男女の外見にかける気持ちを考えてみたら…。
髪の毛が生えたところで、数年前の自分に戻るだけ
薄毛治療のことを調べだしてまず驚いたのは、「クリニックで処方された薬を使用し発毛に成功したとしても、その状態を維持するためにはずっと薬を飲み続けなければいけない」ということだった。
当時の僕は、風邪や腹痛が収まればそのあと病院に行く必要がなくなるように、一旦発毛に成功すればその後は通院したり薬を飲んだりしなくてもいいものだと思っていたのだ。
はたしてこれが治療と言えるのか?と疑問を持ったが、周りを見渡せば定期的に病院に通い、処方された薬を飲みながら日常生活を送っている人はけっこういる。
「治療」の意味を辞書で調べると、<病気や怪我を治すこと。病気や症状を治癒あるいは軽快させるための医療行為>とある。
なるほどクリニックで薬を処方してもらい、薄毛という症状が軽快するのならばこれは治療なのだろう。
では、美容整形で顔にヒアルロン酸やボトックスを定期的に注入することも治療と言うのだろうか?
ネットで検索してみたところ、どうやら言うらしい。
注射という医療行為によってシワや顔パーツのコンプレックスが軽快しているのだし、薄毛治療を治療というならこれも治療といっていいのだろう。どちらも保険が効かないのがつらいところだけど。
…というようなことを別の仕事でご一緒している女性と雑談の中で話したところ「薄毛治療より美容整形のほうがよっぽど高い。化粧品も高いし下着も高い。女性はなにかにつけ時間とお金がかかる」と言われ、その迫真の表情に笑ってしまった。
一昔前にSNSで「女性は化粧やスキンケア、服などにお金がかかるのだから、男性は女性に食事を奢るべき(か否か)」という、わりとしょうもない論争があったけれど、内容はさておき「女性はなにかにつけ時間とお金がかかる」というのは事実だろう。
このときの雑談でもうひとつおかしかったのは、いつのまにか自分が「薄毛治療」と「美容整形」を同じジャンルのものとして語っていたことだ。
オジサンの薄毛治療と女性の美容整形が同じジャンルのものだなんて、この漫画を描くようになるまで思いもしなかった。
とはいえ薄毛治療と美容整形には大きな違いがあるとも思っている。美容整形は鼻が高くなったりエラが小さくなったり、今までとは違う自分になることができる。
しかし薄毛治療の方はどうか。髪の毛が生えたところで、数年前の自分に戻るだけなのだ。
だからなんなのだ、である。しかしこの「だからなんなのだ」に、この漫画の深いテーマが潜んでいるような気もしている(気のせいかもしれません)。
文/トリバタケハルノブ
とりばたけ・はるのぶ
まんが家/イラストレーター。まんが業→「トーキョー無職日記」「ことわざたずね旅(朝日小学生新聞にて隔週連載中)」「酒場はじめます(作画)」など。
イラスト業→「のぞき見探偵が行く!(月刊ジュニアエラ)」「ぶらぶら美術博物館おさらいイラスト(BS日テレ)」「戦国ベースボール」「こども戦国武将譚」 ほか。