まるで生物みたいに歩くテーブル / Credit:Giliam de Carpentier(YouTube)_The Carpentopod table being put to use!(2024)

疲れ果てて、「一歩も動きたくない」と感じる時があるでしょう。

思わず、「飲み物や軽食を乗せたテーブルが自分で歩いてきてくれたらいいのに!」なんて口にすることさえあるかもしれません。

最近、エンジニアのギリアム・ド・カルパンティエ氏は、そんな自堕落な願望を現実のものとしました。

12本の足で動く「歩くテーブル」を開発したのです。

過去にも「歩くテーブル」は作られてきましたが、彼の作品では滑らかな動きが追及されており、歩く様子はまるで生物のようです。

目次

生物のような動きを追求する生物のように歩くテーブル「Carpentopod」

生物のような動きを追求する


ストランドビースト / Credit:Theo Jansen

「生物のような動き」を再現する芸術で有名なのは、彫刻家テオ・ヤンセン氏が製作する「ストランドビースト」です。

ストランドビーストは、プラスチック材料で作られた作品ですが、風の力を受けて、まるで生きているかのように歩くことができます。

その「生物らしさ」は、ヤンセン氏が設計した特殊な機構「ヤンセンのリンク機構(Jansen’s linkage)」によってもたらされています。

これは、ヤンセン氏がコンピュータシミュレーションによって発見したものです。

1本の脚につき11本の骨組みがそれぞれ適切な長さで組み合わさることで、円を描くような柔らかな動きを生み出すことができるのです。


ヤンセンのリンク機構(6本足のアニメーション) / Credit:MichaelFrey(Wikipedia)_Jansen’s linkage

そして6本足のアニメーションから分かる通り、中心の軸を回転させるだけで、全ての足が滑らかに動き、歩行させることができます。

ヤンセン氏は、このストランドビーストを改良し続けており、現在でも彼の様々な作品を見ることができます。

一方で、ヤンセン氏のストランドビーストやリンク機構にインスピレーションを受けた人々も多くいます。

例えば、オランダの家具デザイナーであるウーター・シューブリン氏は、ストランドビーストの動きに少し似た「歩くテーブル(ウォーキングテーブル)」を開発しました。

彼の開発したリンク機構は、ヤンセンのリンク機構とは異なるものの、どこか生き物らしさを感じます。

ちなみに、このウォーキングテーブルは、自力では歩くことができず、人間が押すことで「生き物みたいに」移動してくれます。

またストランドビーストのような作品の別の例として、エンジニアのギリアム・ド・カルパンティエ氏が作成した歩くテーブル「Carpentopod」が挙げられます。


カルパンティエ氏が開発した歩くテーブル「Carpentopod」 / Credit:Giliam de Carpentier(YouTube)_The Carpentopod table being put to use!(2024)

彼の作品は、ヤンセンのリンク機構を用いつつ、進化させたものであり、シューブリン氏のウォーキングテーブルよりもいっそう滑らかな動きが可能です。

さらに人間が押す必要は無く、モーター駆動により自力で歩くこともできます。

まさに、「疲れているから動きたくない。テーブルが歩いてきて」なんて言ってしまう人にぴったりなアイテムです。

では、カルパンティエ氏の「Carpentopod」は、どのようにして生み出されたのでしょうか。

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生物のように歩くテーブル「Carpentopod」


歩くテーブル「Carpentopod」 / Credit:Giliam de Carpentier(YouTube)_The Carpentopod table being put to use!(2024)

カルパンティエ氏の歩くテーブル「Carpentopod」の名称は、古いラテン語とギリシャ語「carpentum(乗り物)」と「pod(足または脚)」の組み合わせから来ています。

そして、Carpentopodもまた、ヤンセン氏のストランドビーストからインスピレーションを受けています。

Carpentopodのリンク機構が、「ヤンセンのリンク機構」と非常によく似ていることから、そのことが理解できるでしょう。


Carpentopodのリンク機構(左)とヤンセンのリンク機構(右) / Credit:Giliam de Carpentier(YouTube)_Carpentopod – Side-by-side with Jansen’s Strandbeest linkage(2024)

ただし、Carpentopodでは、ヤンセン氏のリンク機構と比べて、各骨組みの比率が異なっており、ジョイントも追加されています。

またCarpentopodのつま先は丸みを帯びています。

これらつま先の丸みや骨組みの比率は、カルパンティエ氏が作成したソフトウェアによって生み出されました。

このソフトウェアは、数々の脚のバリエーションを互いに競わせ、歩行速度や材料、滑らかさ、上下動の観点で、最善の脚のパラメーターが生き残るようにしました。

このパラメーターはいわば「遺伝子」のようなものですが、ソフトウェア上では、数あるバリエーションのうち優れた遺伝子が混合され、新しい世代が生み出されます。

そして新たな世代では、同様の過程により再び優れた遺伝子だけが選び出され、混合。より優秀な遺伝子を作り出しました。

また定期的に、「遺伝子変異」とも呼べる新たなバリエーションが導入され、進化の幅を広げるようにしました。


Carpentopodのリンク機構における数千のバリエーションをまとめた動画。進化の過程。 / Credit:Giliam de Carpentier(YouTube)_Carpentopod – Real-time evolution of walk linkages.(2024)

最終的に、動画で示されるように、ソフトウェア上で何千もの仮想世代が過ぎた結果、1つの「最適解」が生み出されました。

このCarpentopodにはこの「最適解のリンク機構」が導入されており、ヤンセンのリンク機構と比べて、つま先の接地面のズレやスピードの不一致からくる「足の滑り」が少なくなっています。

この足の滑りがあると、それぞれの脚において互いを減速させる動きが発生するため、歩行がスムーズになりません。

Carpentopodでは、その無駄な動きができるだけ排除されており、より滑らかで生物のような動きが生み出されます。

(ストランドビーストの脚では、この影響を低減するために、硬いつま先ではなく、柔らかいつま先、もしくは転がるタイプのつま先で作られていることが多いようです)

さらにCarpentopodでは、つま先が優しく地面に触れて、下方向に強く押さないよう設計されています。

これはCarpentopodが歩き回る時、テーブルがあまり上下動しないことを意味します。

上に物を置くテーブルである以上、たとえ歩いたとしても揺れないことが大切なのです。


Wiiのリモコンで操作できる / Credit:Giliam de Carpentier

そしてCarpentopodは2つのセクション(1セクションに6本の脚)に分かれており、それぞれ独自のモーターによって駆動します。

この異なったモーターを使い分けることで、向きを上手に変更することも可能です。

Carpentopodの操作には、ゲーム機「Wii」のコントローラー「ヌンチャク」が利用されており、ゲームのキャラクターを操作するかのように自由に行えます。

まるで生きているかのように滑らかに動くテーブルの存在は、私たちの生活をいっそう楽しく、ワクワクさせてくれますね。

いずれテーブル以外にも、生き物のような家具が誕生するかもしれません。

椅子、本棚、冷蔵庫、食器棚にも命が吹き込まれ、それらが歩いている世界を見てみたいものです。

参考文献

say hello to carpentopod, a 12-legged walking wooden table that can serve drinks or snacks
https://www.designboom.com/technology/carpentopod-12-legged-walking-wooden-table-giliam-de-carpentier-09-20-2024/#

Carpentopod: A walking table project
https://www.decarpentier.nl/carpentopod

ライター

大倉康弘: 得意なジャンルはテクノロジー系。機械構造・生物構造・社会構造など構造を把握するのが好き。科学的で不思議なおもちゃにも目がない。趣味は読書で、読み始めたら朝になってるタイプ。

編集者

ナゾロジー 編集部