ミドリムシは将来的にジェット機燃料として期待されています / Credit : Canva
ユーグレナと言えば、サプリメントや健康食品を思い浮かべる人も多いでしょう。
これは、鞭毛(べんもう)を持ち光合成を行う原生動物ミドリムシを含む藻類グループの名称です。
ミドリムシは、栄養素が多く、抗酸化作用等があるとされ、これまで健康食品、化粧品、医薬品等に使われてきました。
また、ミドリムシは油脂成分をみずから作り出す機能を持っていることから、バイオ燃料の製造に向けた培養や適用に関する研究、開発が続けられてきました。
バイオ燃料の開発に関しては、既に実証レベルまで到達し、2021年にユーグレナ社のバイオ燃料製造実証プラントがASTM認証(米国試験材料協会の規格認証)を取得しています。
また、実証試験に関しても、2022年に静岡県の民間航空会社が試験飛行を行い、2023年に東京都の都バスが一部の区間で試験走行を行っています。
今後、このミドリムシ由来のバイオ燃料は、化石燃料の代替燃料として救世主になるのでしょうか。
株式会社ユーグレナによる「ミドリムシ由来のバイオ燃料を開発するための基盤技術」については『生物物理学会誌』に掲載されています。
目次
ミドリムシは動物?植物?ジェット燃料への適用ミドリムシの品種改良に重イオンビームを使う
ミドリムシは動物?植物?
ミドリムシは、小中学校の理科の授業でミジンコなどと一緒に顕微鏡で観察されることが多い、よく知られた微生物です。
ミドリムシは約50マイクロメートルの大きさの単細胞生物で、植物のように葉緑体を使って光合成を行う一方、体の形を柔軟に変えて動物のように動き回る性質も持っています。
このため、長い間、植物と動物の両方に属する特殊な生物として分類されてきました。
しかし近年の研究では、ミドリムシのような生物のいくつかは「元々は動物細胞だったものが藻類を飲み込むことで光合成能力を獲得した」とする考えが一般的になりつつあります。
かつては、どっちつかずだったミドリムシも、少しずつ進化の系譜がわかってきたと言えるでしょう。
現在、ミドリムシの仲間は120種以上が知られており、多くは水田や沼、湖など、流れの少ない淡水や、わずかに塩分を含む水域に生息しています。
ほとんどのミドリムシは紡錘型(細長い形)をしており、ペリクルと呼ばれるタンパク質でできた膜に覆われていて、らせん状の溝が刻まれています。
細胞の端には、鞭毛(べんもう)という細いひも状の構造があり、これを回転させて水中を動きます。
また、光、温度、酸素濃度に応じて、好ましい方向に進む「走性」を持っています。
しかしなぜ、このミドリムシがジェット燃料として注目されるようになったのでしょうか。
ミドリムシの画像 / Credit : 科学技術振興機構公式Webサイト
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ジェット燃料への適用
ミドリムシが生成する油脂成分は、炭素数が14前後の脂肪酸やアルコールから構成されており、既存のジェット燃料や軽油の成分に近いとされています。
既存の化石燃料と同じような特性を持つため燃焼時のエネルギー効率も十分です。
また、注目すべきなのは、ミドリムシがバイオ燃料に用いる他の生物と比較して油脂生成を効率よく行えるということです。
それでは、なぜミドリムシは細胞内で油脂を生成できるのでしょうか。
通常、ミドリムシは光合成や有機炭素源を利用してエネルギーを得ていますが、窒素や酸素が不足するような環境ストレスにさらされると、細胞内にエネルギーを蓄えるために、特有の代謝経路であるワックスエステル発酵回路が活性化します。
バイオ燃料になるワックスエステルは、ミドリムシがエネルギーを必要とする際に分解して、再利用する貯蔵エネルギーとしての役割を果たしています。
ミドリムシにとっては、環境が悪化すればするほどこのワックスエステルを細胞内で多く生成しようとするわけです。
言い換えれば、バイオ燃料へ活用するには、このミドリムシの自己防衛機能をできるだけ強化すればいいのです。
そのためには、細胞内に油脂成分を多く含むミドリムシの品種を改良することが必要になります。
ワックスエステル発酵回路:ミドリムシの細胞内にある貯蔵物質であるパラミロン(エネルギー貯蔵物質)が糖分であるグルコースを経て酸化し、ピルビン酸になり、最終的に脂肪酸とアルコールが結合してワックスエステルが作られます。 / Credit : 岩田修ら, 生物物理学会誌(2017)