ハースF1を率いる小松礼雄代表は、TOYOTA GAZOO Racing(TGR)と技術提携を結んだことで、これまでチーム規模の問題で実現できなかった旧車テスト(TPC)を通じた人材育成が可能になったと説明。ドライバーだけでなく、エンジニアやメカニックといった人材獲得の面でもTGRから引き抜く可能性もあると示唆した。
10月11日(金)、ハースとTGRは富士で記者会見を実施し、公式テクニカルパートナーとして複数年契約を結び、協力体制を築くことを発表。トヨタが設計、技術、製造の面でハースをサポートする一方、ハース側はF1で培った技術的専門知識と商業的利益をトヨタに提供することになった。
その一環として、TGRの育成ドライバー、エンジニア、メカニックがハースのTPCに参加。ドライバーは将来的にハースのレギュラードライバーとしてF1に参戦することを目指し、エンジニア・メカニックは走行データなどの膨大なデータの解析ノウハウを学び、効果的な運用を目指すという。
一見すると、TPCに関してはTGR側に大きなメリットがあるように捉えることもできる。しかし300人強とF1グリッド最小規模のハースにとって、これまで実施できていなかったTPCプログラムを開始できることの利点は大きいという。
「実際、我々はこれ(TPC)を実施できていませんでした。我々がやりたかったことなので、これも技術提携のもうひとつの利点です」
「TPCは人材育成という意味でも非常に重要です。周知の通り我々はたった300人強という規模です。人員に不測の事態はありませんが、例えばレースエンジニアやパフォーマンスエンジニアがひとり抜けることになったり、問題が起きてレースに出られなくなったりした場合、我々は本当に苦労することになります。常に限界に直面しているんです」
「そうなると、組織を改善するために、そういう“生き残り段階”をベースにしているわけにはいきません。組織を構築していく必要があります。TPCを通じて、エンジニアやメカニックのトレーニングを始め、バックアップ人材を確保することができます」
「組織の構築、不測の事態への備え、能力ある若手の確保、トレーニング機会の提供という点でTPCは最高です」
また、小松代表はこうも説明した。
「自分たちでやるには多くの投資が必要です。しかしTGRはそれを大いにサポートしてくれています。そして彼らは『若いドライバーをこのプログラムに参加させて、F1でのマイレージを稼ぐというアイデアはどうだろう?』と言っていました。我々の要求と彼らの要求が本当に合致しているんです」
そして適切な人材がいれば、TGRから各グランプリに帯同するレースチームへエンジニアやメカニックなどを引き抜くと小松代表は明かした。
「現時点ではレースチームのスタッフに入れていません。しかし、それは我々が望んでいないからではありません。適切な人材がいれば、誰でもレースチームに入れます」
「知っているかもしれませんが、我々はレースチーム上級職の採用で本当に苦労しています。仮にTGRにその条件に合う人材がいれば、すぐにでも採用するはずです」
なお、ハースはドライバーも同様のアプローチを取るという。
これまでハースは基本的に、チーム創設期から技術提携を結ぶフェラーリの若手ドライバーをリザーブとして起用してきた。来季のレギュラーシートを獲得したオリバー・ベアマンもフェラーリ・ドライバー・アカデミー(FDA)出身だ。
TPCを行なうトヨタドライバーが経験を積むためにリザーブになる可能性はあるか? と訊かれた小松代表は「その可能性は間違いなくあります」と答え、次のように続けた。
「来年のリザーブドライバーについては、フレッド(フレデリック・バスール/フェラーリ代表)と『誰がなるべきか』あるいは『誰が候補に挙がっているか』まだ話していません」
「ただ念の為言っておくと、トヨタのドライバーであろうとなかろうと、ペイドライバーの話をしているわけではないということはハッキリしています。我々は常に、スポーツとしての結果を出す上で最高のドライバーを選びます。リザーブドライバーも同じです」
「我々はまだ何も決定していませんが、ドライバーの能力に基づいて決定しています」