1966年に静岡県で一家4人を殺害したとして、強盗殺人の罪などで死刑が確定した袴田巌さんの再審(やり直し裁判)で、静岡地方裁判所は9月26日、捜査機関によって証拠が捏造されたと指摘し、無罪を言い渡した。10月10日の控訴期限が迫っている中、検察当局が控訴を断念する方針を固めたことが10月8日、報じられた。

 再審判決では、自白の調書や犯行時の着衣とされた5点の衣類などの証拠が、捜査機関による捏造と認定された。中でも争点となったのが、事件発生から約1年2カ月後に現場近くのみそタンクの中から見つかった5点の衣類だ。衣類には血痕の「赤み」が付着していたが、判決では1年以上みそに漬ければ赤みは「残らない」と言い切り、捜査機関が発見の少し前に入れたと認定した。

 検察が控訴を断念し、事件から58年後に晴れて無罪となったが、袴田さんが失った時間は戻ってこない。刑事補償法に基づき、袴田さんには億単位の補償金が支払われるとみられるが、もはや金額の問題ではないだろう。

 一方、新たな問題も出てきた。

「検察の捏造が確定されましたが、それならば、誰がみそタンクに血痕がついた衣類を隠したのか。裁判長は『捜査機関によって血痕をつけるなどの加工がされ、タンク内に隠匿された』と判断しています。時効は過ぎていますが、捜査機関が捏造したのであれば、検察は逃げ隠れせず、誰が誰の指示で捏造したのか、袴田さんをはじめ、国民の前で明らかにする義務があるのではないでしょうか。また、真犯人は誰なのか。事件から60年近く経過しており、真犯人を見つけることは至難の業です。ネット上では真犯人を考察するサイトも見られますが、憶測の域を出ていません」(週刊誌記者)

 結局のところ、事件の真相は藪の中だ。

石田英明

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