本号を皆さんが手に取る頃には、自民党の新総裁も、野党第一党である立憲民主党の新代表も決定しているに違いない。しかし、「自民9人の総裁候補の誰が首相になっても頼りない。万一政権交代があった場合の立憲4人の代表候補にしても同じだ」と思ってしまうのは、決してわたしだけではあるまい。それほど政治家に対する信頼を、我々は失っているのだ。

 なぜ、こんな有様になり果てたのか。

 それを、高度経済成長が終わった50年前にまで遡り「失われた50年」と名付け回顧することで解明しようとするのが本書。50年前の首相といえば田中角栄、その前が佐藤栄作、池田勇人‥‥。その時代を知る者からすれば、今の「首相候補」たちとの力の差は歴然としている。半世紀かけてここまで劣化した原因をきちんと探らねば、この国はダメになっていく一方だ。

 強い危機感を持ってこの間の歴史をたどる政治学者の著者は、この20年ほど、市民運動にも携わり、09年の民主党への政権交代を支えたことで名高い。しかし、決して民主党政権を全面肯定するわけではない。その失敗に対しても手厳しく批判するなど、偏った立場ではなく与野党問わず問題点を指摘するのは、憂慮がそれほど深いわけだ。

 戦後の経済成長と並行して作り上げられた「日本型社会主義」とさえ言われる共助システム。それを否定する動きが始まったのが50年前だったと、著者は突き止める。後に「自己責任」「自助」と強調する小泉純一郎首相の新自由主義的改革の思想は、既に1970年代から80年代にかけて芽生えていたのだ。

 東西冷戦終結をよそに、日本がバブルの狂乱から消費税導入へ至る90年代を迎える中、政治改革が叫ばれ細川護熙首相を擁する初の政権交代が実現したのは、その後の社会の在り方を根本的に議論するチャンスだった。それが、小選挙区制度導入など政治の仕組みを変える政争にとどまり、なすところなく崩壊したのも大きなつまずきだったというのが、当時この政権に期待した著者自身の反省をこめた分析なのである。

 そして「自己責任時代への転換」「構造改革をめぐる狂騒」と題した各章を経て、民主党政権の自滅から安倍長期政権へと続く「失われた30年」になるのだ。この30年についての論評は多数出ているが、本書のようにその前の20 年を含めた50年史と捉えると「悪夢の民主党政権」や「安倍一強の弊害」では片付けられない。国民全体が「道を誤った」のだと認識できれば我々の手で社会を正道に戻せるはずだ。

 本書はあくまで、我々読者が正しい政治選択をしていくための材料として、政治史の流れと政治家たちのナマの発言を提供してくれているのだ。

《「日本はどこで道を誤ったのか山口二郎・著/1012円(インターナショナル新書)》

寺脇研(てらわき・けん) 52年福岡県生まれ。映画評論家、京都芸術大学客員教授。東大法学部卒。75年文部省入省。職業教育課長、広島県教育長、大臣官房審議官などを経て06年退官。「ロマンポルノの時代」「昭和アイドル映画の時代」、共著で「これからの日本、これからの教育」「この国の『公共』はどこへゆく」「教育鼎談 子どもたちの未来のために」など著書多数。

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