イタリア代表がベルギーと2ー2ドローも…「38分まで試合を一方的に支配し、10人で勝点1を守った側面に焦点を当てるべき」【現地発コラム】

 10月10日に行なわれたUEFAネーションズリーグ第3節、ホームのスタディオ・オリンピコ(ローマ)にベルギー代表を迎えたイタリア代表は、最初の25分で2点を挙げて完全に主導権を握りながら、38分に退場者を出したのをきっかけに守勢を強いられ、セットプレーから2点を喫して2ー2の引き分け止まり。グループA首位の座は保ったものの、貴重な勝点2を失う結果に終わった。

【動画】ディマルコとカンビアーゾの両WBが猛威を振るったイタリア対ベルギー戦のハイライト!

 9月の2試合でフランス代表、イスラエル代表をそれぞれ敵地で破ったのに続く3戦目は、FIFAランキング6位のベルギーだった。ロメル・ルカク、ケビン・デ・ブライネのほか、故障のアマドゥ・オナナ、そして招集拒否のティボー・クルトワと複数の主力を欠いていたとはいえ、イタリアにとっては同格というよりも格上に近い強敵であることに違いはない。

 そのベルギーを率いるドメニコ・テデスコ監督は、2連勝と好調のイタリアをリスペクトしたのか、守備的な方向にシステムを修正してきた。本来の左ウイングではなく右で起用されたジェレミー・ドクが、ボール非保持の局面で実質的なウイングバックとして振る舞う3ー4ー2ー1の配置を敷くことで、同じ3ー4ー2ー1のイタリアとシステムを噛み合わせてきたのだ。しかし、開始わずか1分に決まったイタリアの先制ゴールは、逆にその策が抱える弱点をあらわにするものだった。

 キックオフからの流れで一旦GKに戻し、後方からビルドアップしようとするイタリアに対し、ベルギーはマンツーマンのハイプレスで追い込もうと試みる。イタリアはそれをかわして中盤左サイドに縦パスを展開。MFサンドロ・トナーリからライン際に張っていた左WBフェデリコ・ディマルコにボールが渡った時、そのディマルコとマッチアップする関係にあったドクはマークを見失っていた。
  大きく開いた前方のスペースを持ち上がったディマルコは、ロレンツォ・ペッレグリーニとワンツーを交わして敵陣ペナルティーエリア左角まで前進。そこからベルギーの最終ラインとGKの間に絶妙なロークロスを送り込むと、ファーポスト際には逆サイドのWBアンドレア・カンビアーゾがしっかりと詰めていた。

 先月のフランス戦(やEURO2024のアルバニア戦)とは反対に、開始直後に「得点」を挙げたイタリアは、その後もベルギーにチャンスらしいチャンスを与えることなく、攻勢に立って試合を進めていく。そして迎えた24分に2ー0としたシーンでも、左サイドのビルドアップでドクを釣り出し、レテギのポストプレーからディマルコとカンビアーゾの「WBホットライン」が発動。先制ゴールとまったく同じメカニズムから生まれた。

 この2点目の白眉は、レテギの落としをダイレクトで逆サイドの裏スペースに通したディマルコのサイドチェンジだ。1点目のようにGKと最終ラインの間のスペースに送り込むクロスボールは、所属するインテルと同様、イタリア代表にとってもメインウェポンのひとつと呼んでいいほど決定的な武器となっている。これを受けたカンビアーゾがそのままゴール前に切れ込んで左足で打ったシュートはGKに阻まれたものの、そのこぼれ球に詰めたレテギが押し込んだ。

 その後もイタリアは30分にやはりディマルコのクロスからMFダビデ・フラッテージがシュートを放つなど、主導権を握って試合をコントロールする。その流れががらっと変わったのは38分、イタリアがゴールキックからのビルドアップで犯した小さなミスがきっかけだった。

 自陣ペナルティーエリア左端でプレスを受けたCBアレッサンドロ・バストーニが、周囲の味方が全員マークされている状況から強引に、中央に下がってきたペッレグリーニにパス。しかしそのパスを先読みしてカットを試みたベルギーのCBアルトゥール・テアテをペッレグリーニが背後からスライディング。ボールではなくテアテのアキレス腱を足裏で削ってしまった。
  ペッレグリーニのファウルに最初はイエローカードが出されたものの、直後にVARが介入して一発レッドに判定を変更。イタリアはひとり人少ない10人になっただけでなく、このファウルがもたらした直接FKから失点して2ー1とされてしまう。ここから試合終了までの50分間は、それまでとはまったく違う試合になった。

 ベルギーのテデスコ監督は、数的優位のメリットを最大限に活かそうと、後半開始からドクを左サイドに移し、システムを本来の4ー2ー3ー1に変更して攻勢に出る。10人のイタリアは、ベルギーにボールを委ねて低い位置に5ー3ー1のブロックを敷き、防戦に徹する展開を強いられた。

 守勢一方になりながらも、中央を固く閉じた堅守のおかげで、最後までオープンプレーから決定機らしい決定機を作らせなかった点は評価に値する。とはいえ、61分に再びセットプレー(今度はコーナーキック)からレアンドロ・トロサールにゴールを許して、結果は2ー2の引き分け。10人になるまではほぼ一方的に試合をコントロールしていたことを考えれば、たったひとつのミスで勝点2を取り逃したのは痛恨事と言えるかもしれない。

 ただ、総合的に見れば、結果が引き分けに終わったというネガティブな側面よりも、11人で戦った最初の35分はほぼ一方的に試合を支配し、10人になってからも大きく崩れることなく勝点1を守り切ったというポジティブな側面に焦点を当てるべき試合だったことは確かだ。
  ペッレグリーニの退場をもたらした場面は、厳しいプレッシャー下にあっても後方からパスをつないで攻撃をビルドアップするという、このチームの主要なプレー原則に忠実であろうとした結果だ。

 しかし、パスを出すべき味方が全員マークされている状況では、リスクの少ないサイドや前線へのパスを選択するというのも、重要なプレー原則のひとつ。その点で、ペナルティーエリア角付近から中央に戻すパスコースを選んだバストーニは、後方から危険なタックルを試みたペッレグリーニと同じかそれ以上に軽率だったと言える。

 とはいえチームは、こうしたネガティブな経験を通しても成長していくものだ。この試合でも、多くの決定機に絡んだディマルコとカンビアーゾの「WBホットライン」、中盤の底からゲームを作るレジスタとしてますます自信に満ちたプレーを見せたMFサムエレ・リッチ、最前線で攻守両局面のハードワークを厭わず、フィニッシュでもいい仕事を見せるレテギ、最終ラインから中盤に上がってビルドアップに絡む「ジョン・ストーンズ・ロール」が冴え渡るリッカルド・カラフィオーリと、収穫は少なくなかった。

 そして何よりも、このネーションズリーグ初戦からルチャーノ・スパレッティ監督が導入した「インテルモデル」の3ー5―2がチームにしっかり定着し、全員が適材適所で効果的に機能している点は、今後に大きな希望を抱かせる。次の試合は14日のイスラエル戦。そして11月にはホームでフランス、アウェーでベルギーという勝負の2連戦が待っている。引き続き「アッズーリ」の成長ぶりを見守っていきたい。

文●片野道郎

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