野尻智紀、戦略判断の遅れが「見えかけた」勝利を奪う。ビンカンなMUGENのマシンに重要な”クリーンエア”も失い致命傷に

 野尻智紀(TEAM MUGEN)はスーパーフォーミュラ第6戦富士の決勝レースを6位でフィニッシュ。レース前半は首位を走っていたものの、ダーティエアを走ることになった中盤以降は苦労したと、レース後に明かした。

 野尻はチームメイトの岩佐歩夢と並び、2列目のグリッドからスタート。しかしフロントロウのふたりの蹴り出しが鈍かったため、TEAM MUGENのふたりが一気に先頭に躍り出て、岩佐→野尻の順で1-2体制を築いた。

 特に野尻のペースは良く、すぐに岩佐を交わして首位に浮上。その岩佐を抜いた坪井翔(VANTELIN TEAM TOM’S)を抑え続けた。その間に、3番手に落ちていた岩佐が真っ先にピットに飛び込み、タイヤ交換義務を消化。アンダーカットされるのは確実となってしまった野尻としては、タイヤ交換を遅らせるしか選択肢はなかった。

 結局21周目を走り切った段階でピットストップした野尻は、岩佐と太田格之進(DOCOMO TEAM DANDELION RACING)に先行され、小林可夢偉(Kids com Team KCMG)とのバトルに巻き込まれた。この間に、2周後にピットストップを完了していた坪井に抜かれてしまい、その後は小林らにもオーバーテイクされ……結局6位でのフィニッシュとなった。

「前半は非常に調子が良くて、優勝まで狙えるかというのは、僕も思ってました。観ていたみなさんも、そう思ったところがあったんじゃないかと思います」

 そう野尻は語った。

「ただ、乗っている側としては結構いっぱいいっぱいで、勝利を狙うのが難しそうだなという雰囲気も感じ始めていました。坪井選手も後ろに迫っていましたし」

「変に彼を意識してしまいました。僕らは、チーム内でも先手を打てるはずのポジションにいたはずですが、そういうのをみすみす手放してしまった。戦略の決定において、だいぶ後手後手に回ってしまった」

「最小限の周回数でピットインした方がよかったかもしれません」

「前回の富士でのレースを見たら、ドライバーの間でもチームの中でも、坪井くん2連勝でしょうという見方が強かったんです。でも、つい彼を見て戦ってしまったなという感じです。それでこういう結果になってしまいました」

 このポジションを落としたことが、野尻にとって致命的になった。野尻のマシンはクリーンエア、つまりは前に他のマシンがいない状況でこそ、強さを発揮できるのだという。逆に前にマシンがいると、乱れた空気を浴びて、弱点が露呈してしまう……そのことが今回の敗因のひとつではないかと、野尻は語る。

「ちょっと硬めのクルマ作りをしているというところもあり、ロングランになると他車に劣る傾向は、元々持っていました。その中で、予選に向けたセットアップをトライしてきたんです」

 そう野尻は言う。

「クリーンエアでこそパフォーマンスを発揮できる。後ろに回ると劣勢になってしまうんじゃないかということですね。それが他のチームよりも顕著に出ると思います」

「自分たちのパフォーマンスを常に発揮し続ける戦略を取ることもできたと思います。岩佐選手は、最小限の周回数でピットに入って、クリーンエアで走ったことによりあの順位でゴールできたわけですからね」

「今あるモノをしっかりと結果に繋げられるためにどうしたらいいか、それをチームと徹底的にシェアしていくのが必要だと思います」

 そして野尻は、SFgoで無線が公開されてしまう今は、戦略面でやりづらくなっていると明かした。つまり無線での更新はライバルチームにも筒抜けであり、細かい戦略判断を交信でやりとりするのが難しい時代になっていると野尻は言う。

「コミュニケーションをとりたい場面ではあったわけですが、SFgoの存在によって、それがやりにくくなっています」

「ざっくばらんに、『パフォーマンスが低いから、早めに入った方がいい』と本来ならば言えるんですけど、SFgoがあることによって、そういうことがしにくくなっているんです」