レッドブル対マクラーレン、マイアミで勢力図が逆転したのはなぜ? アップデート失敗、陰謀……FIAの秘密裏の介入なんて説も

 2024年シーズンのF1は、レッドブルが圧倒的な強さを発揮してスタートさせた。開幕5戦中4戦でマックス・フェルスタッペンが勝利。第5戦中国GPはスプリント・フォーマットだったが、そのスプリントもフェルスタッペンが優勝。第3戦オーストラリアGPはリタイアに終わったが、これはブレーキトラブルに見舞われたから……もしこのトラブルがなければ、開幕5連勝を達成していた公算が強い。つまり、昨年に引き続き、レッドブルは無敵であるように見えた。

 しかしその2週間後、状況が一変する。マイアミGPではレッドブルRB20の弱点が突然露呈。フェルスタッペンも、マシンのバランスに満足できなかった。

 結果的にマクラーレンのランド・ノリスに勝利を譲ることになった。マクラーレンは大規模なアップデートを投入し、勢いづいていたのだ。

 このグランプリから、2024年のストーリーは一変した。レッドブルとフェルスタッペンはその後、イモラ、バルセロナ、モントリオールでも勝利を収めた。しかし、開幕直後のような圧倒的な強さは発揮できなかった。

 マクラーレンだけがレッドブルに近付いたというならば、アップデートの成功だけで説明することができるだろう。しかしマクラーレン以外のチームも接近。レッドブルだけがずるずると後退し、その後は勝利に手が届かないレースが続くまま今に至っている。

 レッドブルのチーム代表であるクリスチャン・ホーナーは、この状況についてmotorsport.comに語った。そして、突如状況が変わったことについて、明確な答えがないと明かした。

「もし皆さんが懐疑的であるなら、何かが変わったと言うべきだろう。だってそれまでは、レースに楽に勝つことができていたんだからね」

 そうホーナー代表は語った。

「マックス・フェルスタッペンとレッドブルが今年も優勢だと、テレビの視聴率が下がると、毎週ステファノ(ドメニカリ/F1のCEO)から苦情を言われたよ。20秒差で勝つのはやめてくれというプレッシャーが、かなりあった」

「何かが変わったと、言う人もいるだろう。例えば中国で使っていたようなマシンの構成に戻したとしても、我々が経験したのと同じ問題がいくつか残っているんだ」

「しかしそうは言っても、何かが変わったのだ。誰にとってもね。しかしシーズン中に、これほど極端に変わったのを見たことがない。我々はこれを克服しなければならないし、理解しなければいけない」

■一体何が変わったのか?

 勢力図が変わった原因については、様々な説が浮上している。しかし、まだ的を得たモノはない。

 FIAからはいくつかの技術指令が発信されたが、これが順位に影響を与えることはなかったと見られる。

 レッドブルが、違法な非対称ブレーキシステムを使っており、それを外さなければならなかったことが、パフォーマンス急落の原因だとする意見もある。しかしこれはFIAによって否定されているし、ライバルチームもそういうことはなかったはずだと考えている。

 レッドブルとしても、マシンに何は大きな変更を加えたことはないと言っている。マイアミGP当時にはまだエイドリアン・ニューウェイがチームで働いていたものの、副作用をもたらす可能性があるアップデートは施されていなかった。タイヤのちょっとした調整により調子を崩したという意見もあるが、これについても決定的な証拠はないようだ。

 マイアミGPで秘密裏にタイヤの構造が変更された可能性も考えられる。低速域でのアンダーステアに苦しんでいたチームにとっては、フロントが強化されれば、歓迎すべきものだったはずだ。逆にレッドブルにとっては、こういう変更が加えられると、フロントに負担がかかりすぎることになり、バランスが崩れてしまう。しかしこれはあくまで、壮大な想像という域を出ないお話である。レギュレーション上も、このような変更は許されていない。

 レギュレーションでは、タイヤ構造は前の年の9月1日、コンパウンドは前の年の12月15日までに決定されなければならないと規定されており、しかもF1委員会の同意なしに変更することはないとも定められている。FIAとしては「安全上の理由」により、シーズン途中に予告なく変更する権限を有しているが、もし構造に変更が加えられたなら、さすがに何らかの発表があるだろう。

 もうひとつ考えられるのが、タイヤの内圧の制限値が変わったということだ。安全上の理由により、F1タイヤの最低空気圧は、ピレリによって各グランプリごとに定められている。しかし、何か明確な変更が加えられた形跡はない。

 ピレリのF1およびカーレース部門責任者のマリオ・イゾラは、最低空気圧の制限値はできるだけ上げないように務めているが、それでもマシンのパフォーマンス向上と常に戦っていると語る。

「毎年、新しい構造をホモロゲーションする際の目標は、より強力なタイヤを作るために、新しい素材と新しいコンセプトを組み込んだ、新しい構造にするということだ」

 そうイゾラは語った。

「それは重くするわけではなく、同じ内圧でより強いタイヤにするということだ」

「できるだけ内圧は低くできるようにしている。タイヤの内圧が低ければ、タイヤのフットプリント(接地面)が最適化されるのは明らかだからだ。しかし各チームは毎年、タイヤをホモロゲーションしている間に、パフォーマンスを向上させている」

「シーズンの初めは内圧を下げられるかもしれないが、シーズン中にタイヤの最低内圧を上げ、マシンのパフォーマンス向上に対応する必要がある」

 内圧の小さな変化が、マシンのパフォーマンスに影響を与える可能性があるかと尋ねられたイゾラは、「それはマシンの設計次第だ」と語った。

「マシンのデザインは重要なんだ。マシンの機械的な部分とエアロパッケージは、タイヤの挙動に少しずつ異なる影響を与える。そのため、新しい構造のタイヤをホモロゲーションする際には、チームに大量のデータを提供する。FIAが提供する技術指令にはデータのリストがある。それは翌年のマシンを設計するために必要な、膨大な情報なんだ」

■RB20の空力面が、何らかの影響を及ぼした?

 マイアミでレッドブルのマシンに何が起きたのか、そのはっきりとした答えはまだ出ていない。しかしRB20の感度に関する答えをチームが理解するにつれて、シーズン後半に真実が明らかになるかもしれない。

 マイアミでレッドブルが行なった唯一の調整は、軽量化のためにフロアエッジウイングのサポートを取り除いたことだった。しかし、マシンのデータや風洞でのシミュレーション結果を深く掘り下げていくと、何が起きたのかということに対する説明がつく、何か別のモノが出てくるかもしれない。

 レッドブルはこの解析を、確実に進めているようだ。ホーナー代表は、次のように説明する。

「我々が持っていたツールのいくつかには、不十分な部分があったと思う。またこのレギュレーションにおける空力特性を推し進めていった時に、コースとマシンの相関関係が失われてしまったんだ」

「モンツァでダウンフォースを削り取るまで、問題がどこにあるのかが本当に明らかになることはなかったと思う」