『ONE PIECE』ルフィたちの冒険の舞台は、巨人の国「エルバフ」へ向かいます。本作のヴァイキングのような巨人たちには、北欧神話の要素が数多く見られます。もしかしたら、『ONE PIECE』ワールドは、北欧神話がモチーフになっているのかもしれません。



エルバフで崇められる太陽神「ニカ」の姿になったルフィ「フィギュアーツZERO ONE PIECE [超激戦]モンキー・D・ルフィ -ギア5 “巨人”」(BANDAI SPIRITS) (C)尾田栄一郎/集英社・フジテレビ・東映アニメーション

【画像】え…っ?「ユグドラシル(世界樹)ってこんなデカいの」「エルバフの構造もこうなってる?」 こちらが独特な「北欧神話」の世界観図です(3枚)

出番のわりにあまり語られなかった巨人たち

※この記事では単行本未収録の最新展開の話題に触れています。

 最終章に突入し衝撃の展開から目が離せない『ONE PIECE』では、ついに「巨人族」たちの国、「エルバフ」での冒険が始まりました。そこには「北欧神話」を連想させるキーワードが数多くみられ、ネット上でもさまざまな考察が繰り広げられています。もしかしたら『ONE PIECE』世界の秘密の鍵はエルバフにあるのかもしれません。

北欧神話に由来する名前が数多く登場

 さまざまな種族が登場する『ONE PIECE』のなかでも、序盤から登場していたのが巨人です。彼らはヴァイキングのような角兜(歴史的事実としては角がなかった)を身につけ、戦斧を操り、何よりも名誉を重んじる戦士たちです。これらはまさに死をも恐れぬ、ヴァイキング的な特徴と言えるでしょう。

 そして、彼らの国エルバフの王子の名前は「ロキ」といいます。北欧神話にはいたずら好きの神ロキと、巨人の王である「ウートガルザ・ロキ」がおり、現状では王子のロキはどちらがモチーフになっているかは不明です。ちなみに、神と巨人の間に産まれたロキ(いたずら好きの方)は、北欧神話の最終戦争「ラグナロク」で巨人たちを率いて神々に反旗を翻しました。『ONE PIECE』の最終章で、大きな役割を担っていそうなネーミングです。

 また「ドレスローザ編」で登場した巨人「ハイルディン」と彼が率いる「新巨兵海賊団」にも、北欧神話由来の名称が数多くみられます。彼の必殺パンチ「英雄の槍(グングニル)」は北欧神話の主神「オーディン」の槍、彼らの船「ナグルファル」はラグナロクの際に巨人たちが乗り込む死者の爪で作った巨船です。新巨人海賊団の船医「ゲルズ」は豊穣神「フレイ」の妻となった女巨人(ゲルダとも言う)の名前でしょう。

 ドリーとブロギーがレッドラインのことを、「血に染まる蛇」と呼んでいた点も気になるところです。北欧神話の世界蛇「ヨルムンガンド」は海の底に横たわり、自らの尾をくわえて人間の世界「ミドガルズ」を囲んでいます。そういえば、改心した「天竜人」の名前は「ドンキホーテ・ミョスガルド聖」でした。悲しいことに「フィガーランド・ガーリング聖」に処刑されてしまいましたが、彼は天竜人という神から人間になった、という意味が込められていそうです。

 さらに2024年10月時点では単行本未収録となる1127話、1128話に「世界樹(ユグドラシル)」と呼ばれる巨樹や「ヒル(昼)ムンガンド」という蛇が登場しました。ヨル(夜)ムンガンドをもじったのでしょう。もちろん、どちらも北欧神話由来の名称です。



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ONE PIECEのクライマックスは最終戦争ラグナロク!?

 北欧神話には大きな特徴があります。それは主神オーディンがやがて訪れる終末を知っており、避けられない運命として受け入れた上で準備している点です。北欧神話において、神々はラグナロクが起きて自分たちが滅ぶことを知っているのです。

 もしも『ONE PIECE』が北欧神話をモチーフにしており、文字通り天竜人を神とするのなら、最終決戦は天竜人(と海軍)VSロキに率いられた巨人と怪物の軍団ということになるでしょう。天竜人は自らが滅ぶ最終決戦を避けるため、メチャクチャな権力で世界を統治しているのかもしれません。

 とはいえ「Dr.ベガパンク」が発表した通り『ONE PIECE』の世界は海に沈みつつあり、革命軍や海賊、古代兵器、異種族、ひとつなぎの大秘宝など、さまざまな要素が複雑に絡み合っています。単純な大決戦ですべての決着がつくとは思えませんが、1点、北欧神話つながりで気になる要素があります。

実はラグナロクのあとの世界だった?

 オーディンやロキなどの神々だけでなく、巨大なオオカミ「フェンリル」やヨルムンガンドのような怪物たちまでもが次々と倒れていく最終戦争ラグナロクにおいて、最後まで生き残ったのは巨人「スルト」です。スルトが炎の剣を振るうと世界は瞬く間に燃え上がり、海の底に沈んでしまいます。

 その後、静寂だけが支配する時間が長く続いた後、突如として緑の大地が浮上しました。神々と巨人の戦いは終焉を迎え、ここから新たに人間の世界が始まるのです。ラグナロクで死んだ神々はというと、消滅したのではなく天上の黄金に輝く「ギムレーの館」で幸福に暮らします。これが北欧神話の締めくくりです。

 この展開からすると、もしかしたら『ONE PIECE』世界はこれからラグナロクを迎えるというよりも、ラグナロクが終わったあとの世界がモチーフになっているようにも思えます。大陸は以前より200m近く水没していますし、神々(天竜人)は天上の館(聖地マリージョア)で何不自由なく暮らしているからです。

 ラグナロクが不完全に終わった結果が、現在の『ONE PIECE』世界だと考えると、空白の100年こそが大決戦だったと考えられます。その続きが、これから起きるであろう「ワンピース(ひとつなぎの大秘宝)」争奪戦ではないでしょうか。

 大戦争で沈んだ世界、高所で贅沢の限りを尽くす天上人、しぶとく生き残った巨人族や人間たちなど『ONE PIECE』世界はラグナロクのifの展開のようです。もしかしたら「ひとつなぎの大秘宝」とは水没した巨大な大陸のことであり、それが浮上することで、北欧神話の締めくくりのように新時代が到来するのかもしれません。