[本田泰人の眼]サウジ戦の勝因はチーム全体の高い守備意識。先制点を演出した2人が一生懸命に走って守る。その姿に気迫を感じた

 北中米ワールドカップのアジア最終予選第3戦で、日本はサウジアラビアと敵地で対戦し、2-0で快勝。3試合を終えて計14得点で無失点。無傷の3連勝を飾った。

 サウジ戦では、まさにアウェーでの戦い方!といったプレーを見せてくれた。

 日本は初戦で中国に7-0、続くバーレーン戦は5-0で勝利したが、これまでの試合に比べて、サウジアラビア戦は最も緊張感のあるレベルが高い試合だった。

 サウジアラビアのサポーターも、この試合の重要性を理解していた。およそ6万人収容のスタジアムはチケットが完売で満員だった。熱気にあふれたスタジアムの雰囲気は、画面越しからも十分に伝わってきた。

 中東のアウェーは昔から独特の雰囲気がある。私が日本代表で戦ってきた時から、それは感じていた。

 会場となったキング・アブドゥラー・スポーツシティで、サウジアラビアは過去14試合で11勝3分と無敗を誇っていると聞く。ご存知のとおり、ワールドカップの最終予選で日本は3大会連続でサウジアラビアと同じグループに入っており、過去2回の戦績は2勝2敗。アウェーではいずれも0-1で敗れている。

 サウジアラビアはホームに強いという見方もできるが、私自身の経験から考えても、アウェーチームがその雰囲気にのまれてしまうという見方が正しいだろう。

 もっとも、サウジアラビア戦に限らず、アウェーゲームというのは「ドローでもOK」という姿勢で基本臨むべきだ。こと最終予選で言えばなおさらで、絶対に負けられない戦いなのだから、負けない戦い方、分かりやすく言えばリスクを負わない守備重視の戦い方をすべきだ。
 
 日本にとってグループの中で最強のライバルと目されるサウジアラビア、そのアウェー戦となれば、なおさらだろう。

 そんななか、この日の日本はアウェーの雰囲気にのまれることなく、攻守に隙を見せない落ち着いた試合を展開。前半と後半で1ゴールずつ奪って、“聖地”で初めて勝利したのだ。

 勝因は、まさにチーム全体の守備意識の高さにあった。象徴していたのは、ウイングバックの堂安律と三笘薫の2人だ。

 日本のシステムは3-4-2-1。サウジアラビアは4-3-3を採用したが、ウイングバックの堂安と三笘が何度も最終ラインの位置まで帰陣。守備時は5-4-1となってサウジアラビアにサイドの起点を作らせなかった。一生懸命に走って守る堂安と三笘の姿には、一瞬の隙さえも与えないという気迫が感じられた。

 攻撃に目を移しても、堂安と三笘のコンビネーションが冴えた。

 先制点もこの2人が演出したものだ。14分、堂安のサイドチェンジを三笘がダイレクトで折り返す。ゴール前で守田英正がヘッドでつなぐ――。そして鎌田大地が左足で流し込んだ。

 グループ最大のライバルとのアウェー戦で、相手に一度もボールを触らせない、見事な連係での先制点。その瞬間、“鬼門”ジッダのおよそ6万人のサポーターも静まり返ったのも無理はない。

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 2点目は81分。伊東純也のコーナーキックから小川航基がヘッドで叩きこむと、サウジアラビアのサポーターはゾロゾロと席を立ち、スタジアムを後にした。つまりトドメを刺したわけだが、その2点目を演出したのは途中出場の2人。森保一監督の采配もハマった。

 その2点目を奪えなくても、日本の勝利はほぼ確定していただろう。

 なぜなら、1点目を奪ったあとも苦しい時間帯があったものの、日本は終始主導権を握り続けていた。最終局面でも1対1のデュエルでも負けず、守備陣も安定していた。3バックの谷口彰悟、板倉滉、町田浩樹の対応力も見事だった。

 いつどこで何をすべきか。日本はチーム全体で理解し、それぞれが役割をまっとうし、戦前にイメージしていた「90分」を戦えたのではないか。

 それを実現させたのは、舵取り役の遠藤航と守田の2人。中盤の底でスペースを埋め続けながら、時間に応じてチームをチューニングしていた。マン・オブ・ザ・マッチはこの2人になるが、巧みなゲームメイクでボールに絡み、先制点に絡んだぶんを加点して後者を推す。

 もっとも、遠藤はリバプールで出場機会が減ったのか、ボールロストするシーンが目立った。コンディションがベストではなかったはずだが、悪いなりにも的確なコーチングでチームに落ち着きをもたらし、あいかわらずの危機察知能力の高さを見せてくれたのはさすがだった。

 アジアカップでは守備が崩壊したが、6月シリーズから3バックを導入して以降、明らかにチームは自信を取り戻した印象だ。

 かつてのイタリア代表や鹿島アントラーズは鉄壁の守備が生命線だった。今年はFC町田ゼルビアがそう言われているが、堅実な試合運びで1-0で勝利する。まさに“ウノゼロ”のサッカーを体現できる今の森保ジャパンは、アジア最終予選レベルではもはや敵なしだろう。

 油断は禁物だが、この日のようなしたたかな戦い方ができれば、次のホームゲーム、オーストラリア戦も取りこぼすことはないはずだ。警戒すべきはオーストラリアのパワープレーか。GK鈴木彩艶、谷口・板倉・町田の3バックを含めたデュエルに期待したい。
 
 基本的には日本が主導権を握る展開になるだろうから、サウジアラビア戦のスタメンから鎌田を久保建英に代えて、久保と堂安のパス交換でリズムを作りながら、粘り強くオーストラリアの隙を突くイメージだ。

 つまり、予想スタメンは以下のとおりだ。

GK:鈴木
DF:板倉、谷口、町田
MF:堂安、久保、遠藤、守田、南野、三笘
FW:上田

 いずれにしても、オーストラリアに勝てば予選突破が見えてくる。早めに本大会へのチケットを手に入れて、ワールドカップに向けて新戦力を試したい。

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 本田泰人氏のサウジアラビア戦の採点は以下のとおり。

▼先発
GK 1鈴木彩艶 6.0
DF 3谷口彰悟 6.5
DF 4板倉 滉 6.5
DF 16町田浩樹 6.5
MF 6遠藤 航 7.0
MF 5守田英正 7.5 MOM
MF 8南野拓実 6.0 
MF 10堂安 律 6.0
MF 7三笘 薫 6.5
MF 15鎌田大地  7.0
FW 9上田綺世 7.0
▼途中出場
FW 11前田大然 6.0
MF 14伊東純也 6.5
FW 19小川航基 6.0
MF 14中村敬斗 ―
MF 20久保建英 ―

森保一監督 7.0

※採点は10点満点で「6」を及第点とし、「0.5」刻みで評価。
※MOM=この試合のマン・オブ・ザ・マッチ
 
【著者プロフィール】
本田泰人(ほんだ・やすと)/1969年6月25日生まれ、福岡県出身。帝京高―本田技研―鹿島。日本代表29試合・1得点。J1通算328試合・4得点。現役時代は鹿島のキャプテンを務め、強烈なリーダーシップとハードなプレースタイルで“常勝軍団”の礎を築く。2000年の三冠など多くのタイトル獲得に貢献した。2006年の引退後は、解説者や指導者として幅広く活動中。スポーツ振興団体『FOOT FIELD JAPAN』代表。

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