風力で動作する作品「ストランドビースト」 / Credit:Theo Jansen
オランダの彫刻家テオ・ヤンセン氏は、風力で動作する芸術作品「ストランドビースト」の製作者として有名です。
プラスチックのチューブで作られた作品は物理学にもとづいており、まるで生物のように滑らかに動きます。
毎年アップデートを重ねているストランドビーストですが、最近では、ついに空を飛ぶまでになりました。
ここでは、まるで生き物みたいなストランドビーストたちと、そのメカニズムを紹介します。
目次
砂浜をうごめく生き物みたいな芸術作品生き物の動きを生み出す「テオ・ヤンセンのリンク機構」
砂浜をうごめく生き物みたいな芸術作品
砂浜の生命体「ストランドビースト」 / Credit:Theo Jansen
ヤンセン氏が生み出す作品は、「ストランドビースト」と呼ばれます。
これはオランダ語の「砂浜(Strand)」と「生命体(Beest)」を組み合わせた造語です。
風の力で歩く / Credit:Theo Jansen
ストランドビーストはその名の通り、砂浜など風の強い場所でまるで生き物のように動作します。
これを構成する材料のほとんどは、一般的なプラスチック材料の1つであるポリ塩化ビニル(PVC)です。
しかし、シンプルな材料で作られているとは思えないほど、なめらか動きが可能。
形状もあいまって、まるで本当に生きているかのようです。
まるで生物のようになめらか / Credit:Theo Jansen
このストランドビーストの製作は、1990年から始まりました。
当初は風を受けてぎこちなく動くだけでしたが、徐々に稼働するパーツが増えていき、現在では多様なストランドビーストが砂浜をうごめいています。
ではヤンセン氏は、どのようにして生物のような動きを作り出しているのでしょうか?
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生き物の動きを生み出す「テオ・ヤンセンのリンク機構」
ヤンセンのリンク機構(1本足のアニメーション) / Credit:MichaelFrey(Wikipedia)_Jansen’s linkage
ストランドビーストのなめらかに動きは、ヤンセン氏が設計した特殊な機構によってもたらされています。
これは「ヤンセンのリンク機構(Jansen’s linkage)」と呼ばれています。
骨組みの比率 / Credit:MichaelFrey(Wikipedia)_Jansen’s linkage
ストランドビーストの足は、11本の骨組みから成り立っており、それぞれが適切な長さで組み合わさることで、円を描くような柔らかい動きが可能になります。
骨組みの適切な比率は、ヤンセン氏がコンピュータシミュレーションの末に発見したもので、彼はこの数字の集まりを「ホーリーナンバー」と呼んでいます。
ヤンセンのリンク機構(6本足のアニメーション) / Credit:MichaelFrey(Wikipedia)_Jansen’s linkage
6本足のアニメーションで示されているとおり、中央の軸を回転させるだけで、全ての足が滑らかに動いて歩行させることが可能。
ストランドビーストでは、中央の軸を回転させるために風力を利用しています。
ちなみに、「ヤンセンのリンク機構」に魅了される人は多く、この機構を模したロボットやおもちゃがいくつもつくられてきました。
ヤンセン氏は現在でも改良を続けており、新しいストランドビーストはどんどん生まれています。
ヤンセン氏の最新作「Volantum」 / Credit:Theo Jansen
ヤンセン氏の最新作「Volantum」は、凧あげの要領で風を捉えて空を舞うこともできるのだとか。
物理と芸術が融合した不思議な作品ストランドビースト。氏が生み出す今後の作品にも期待です。
参考文献
theo jansen’s wind-powered strandbeests evolve into flying creatures
https://www.designboom.com/art/theo-jansen-strandbeests-fly-04-21-2022/
ライター
大倉康弘: 得意なジャンルはテクノロジー系。機械構造・生物構造・社会構造など構造を把握するのが好き。科学的で不思議なおもちゃにも目がない。趣味は読書で、読み始めたら朝になってるタイプ。
編集者
海沼 賢: ナゾロジーのディレクションを担当。大学では電気電子工学、大学院では知識科学を専攻。科学進歩と共に分断されがちな分野間交流の場、一般の人々が科学知識とふれあう場の創出を目指しています。