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か弱い生き物が厳しい自然界を生き抜くには避難場所が必要です。

しかし「何もそんな場所に避難しなくても…」と言いたくなる魚がいます。

それがカクレウオです。

カクレウオは安全な避難先として「ナマコのお尻の穴の中」に逃げ込む習性があります。

なぜカクレウオはナマコの肛門に逃げ込むのでしょうか?

目次

カクレウオは「ナマコの肛門」を隠れ家にするどうやって「お尻の穴の中」に入り込む?

カクレウオは「ナマコの肛門」を隠れ家にする

カクレウオ科(学名:Carapidae)はアシロ目に属する海水魚の一グループで、これまでに7属31種ほどが見つかっています。

彼らはインド洋から太平洋、大西洋の熱帯〜亜熱帯にかけて広く分布し、沿岸の浅い海から水深2000メートルの深海に至るまで、生息範囲も非常に広いです。

カクレウオは細長く伸びた円筒形の体型を持ち、最大種だと全長40センチほどになります。


カクレウオの一種(Carapus acus)/ Credit: ja.wikipedia

そんな彼らの最大の特徴は、ヒトデや二枚貝といった他の底生生物の体内に隠れ住む習性を持つことです。

英名の「パールフィッシュ(Pearlfish)」は、カクレウオ類の1種がカキの殻の中に潜んだ状態で発見されたことに由来しています。

特にカクレウオの最良の隠れ家となっているのがナマコのお尻の穴です。

カクレウオは天敵に見つかりやすい昼間はナマコのお尻の穴に潜み、夜間になると外に出て甲殻類などの餌を食べに行きます。

では、彼らはどうやってナマコのお尻の穴に入り込むのでしょうか?

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どうやって「お尻の穴の中」に入り込む?

カクレウオは身を守るためのウロコを持たず、非常に無防備な状態の魚です。

そのため彼らは安全な隠れ場所を見つけだし、そこに潜む必要があるのですが、多くの場合彼らは不毛で見晴らしのいい海底近くに生息するため、自分たちを狙う大きな魚から隠れる場所がありません。

こうした場合、砂に埋もれるなど様々な隠れ方を魚たちは試していますが、彼らは非常に大胆で驚くべき隠れ場所を選びました。

それがナマコのお尻の穴の中なのです。

しかし一体どうやってそんな場所に隠れるのでしょうか? その方法を見てみましょう。

まず、カクレウオは手頃な大きさのナマコを見つけると、肛門近くに顔を近づけてお尻の匂いを嗅ぎ始めます。

ナマコはお尻の穴を開いたり閉じたりして呼吸をするので、匂いで穴が開くタイミングを伺っているのです。

そして「あっ、開くぞ」と感じたら、カクレウオはすばやく尻尾の方からナマコのお尻の穴に身をすべり込ませます。

その実際の様子がこちら。

(※ 音声はありません。お尻の穴に入り込む様子は動画の40秒あたりからご覧いただけます。)

お尻の穴に顔をべったりと付けておき、穴が開きそうになったら尻尾を顔の方まで折り曲げて、開いた瞬間にシュルッ!と滑り込ませる。

実に見事なものですね。

頭からお尻の穴に入り込む場合もありますが、それはナマコの肛門の大きさによって決まります。

カクレウオの頭が十分に入るほど大きければ、そのまま頭から入ることもあります。

ただ外の様子を逐一チェックするには尻尾から入って、頭を肛門から出し入れする方が便利なようです。

ナマコは餌としても便利?

カクレウオはナマコのお尻の穴に入り込むと、腸の両側で呼吸器として枝分かれしている管の中に入り込みます。

そのため、ナマコの排泄などに直接影響を受けることはありません。

それからナマコは肛門を開閉しながら水を出し入れしているので、ちゃんと酸素も供給され続けています。

また基本的にはナマコ1匹に対してカクレウオは通常1匹ですが、過去の研究では1匹のナマコの中に15匹のカクレウオが潜んでいた事例も報告されたことがありました。


Credit: commons.wikimedia

さらにカクレウオは基本的にはナマコのお尻の穴をシェルターとして使うだけなのですが、時々、ナマコの生殖腺を餌として食べる種もいます。

そうなるとカクレウオはナマコにとって繁殖まで妨げる恐るべき寄生生物のように思えますが、ナマコは驚くべき再生能力の持ち主であり、自らの失った器官をトカゲの尻尾のように再生させることができます。

そのため、一時的にカクレウオに生殖腺を食べられても、ナマコには特に影響がありません。

お尻の穴に住まわれてもあまり害がないからこそ、ナマコの方も特別手を打たないのでしょう。


ナマコのお尻の穴から出てきたカクレウオを標本化したもの/Credit: commons.wikimedia

このようにカクレウオにとってナマコは厳しい自然界を生き抜くための最良の隠れ家となっています。

身を隠すだけなら海草や岩場の間でもよさそうですが、そうした場所はカクレウオの天敵も徘徊しているので少なからず危険が残っています。

しかしナマコのお尻の穴であれば、体にもピッタリとフィットしますし、頭まですっぽりと隠れてしまえば天敵に見つかる心配がありません。

また酸素も常に供給されていますし、小腹が空けばナマコの生殖腺を食べることもできます。

こうした理由からカクレウオはナマコのお尻を隠れ家として愛用し続けているのでしょう。

ただナマコにとっては何のメリットもないようなので、この共生関係は一方的なものと見られています。

多くの専門家は現在のところ、共生というよりナマコは特に気にするほどの影響がないためカクレウオのことは無視していると解釈しています。

参考文献

Pearlfish: The eel-like fish that lives up a sea cucumber’s butt
https://www.livescience.com/animals/fish/pearlfish-the-eel-like-fish-that-lives-up-a-sea-cucumber-s-butt

This Fish Burrows Up A Sea Cucumber’s Anus For Safety (And Food)
https://www.popsci.com/this-fish-burrows-up-sea-cucumbers-anus-for-safety-and-food/

Pearlfish from a Sea Cucumber
https://ocean.si.edu/ocean-life/fish/pearlfish-sea-cucumber

ライター

大石航樹: 愛媛県生まれ。大学で福岡に移り、大学院ではフランス哲学を学びました。
他に、生物学や歴史学が好きで、本サイトでは主に、動植物や歴史・考古学系の記事を担当しています。
趣味は映画鑑賞で、月に30〜40本観ることも。

編集者

ナゾロジー 編集部