セルフレジは期待していたより不利益の方が大きい?顧客の負担の大きさも問題 / Credit: canva

今や日本でも海外でもセルフレジを導入する店舗は急速に増えています。

「近所のスーパーがいつの間にか無人レジに変わっていた」という経験もあるでしょう。

セルフレジは昨今の人手不足や外国人労働者の増加に加え、人件費を削減できるなどのメリットから、多くの業界で採用されつつあります。

しかし自らの生活を振り返ってみて、皆さんはセルフレジを積極的に活用しているでしょうか?

「面倒くさいから結局、店員さんのいるレジに並んでる」という方も多いのではないでしょうか。

実際、セルフレジの導入は期待した通りのメリットを発揮できているのでしょうか? 社会学者の意見も交えて見ていきましょう。

目次

セルフレジは意外と不利益が大きい?顧客の負担や不満が多いのが問題

セルフレジは意外と不利益が大きい?

米ドルー大学(Drew University)の社会学者であるクリストファー・アンドリュース(Christopher Andrews)氏によると、セルフレジが開発されたのは1980年代のことで、1990年代から店舗に少しずつ導入され始めたといいます。

小売業者たちはセルフレジの普及により、コスト削減の新時代の到来を期待していました。

それもそのはず、従来の有人レジであれば一台ごとに店員が必要であり、人件費も高くつきます。

しかしセルフレジであれば、バーコードの読み取りから会計、袋詰めまで、すべての工程を買い物客自身がしてくれるので、人件費を大幅にカットできるのです。

それゆえ、この画期的な装置は小売業界に革命を起こすはずでした。

ところがアンドリュース氏は「ほとんどの場合、セルフレジは事前に予想されていた期待に応えていない」と指摘します。


セルフレジの弱点とは? / Credit: canva

まずそもそも、セルフレジの製造や導入には多大なコストがかかります。

顧客の要求に柔軟に対応するため、従来のレジにはないタッチスクリーンや高度なバーコードスキャナー、それからクレジットカードや電子マネー決済にも対応したハードウェアが必要です。

さらに故障のリスクがあるため、定期的なメンテナンス費用もかかります。

アメリカの小売業界では、数十億ドルとは言わないまでも、数百万ドルをセルフレジ技術に投資しているといいます。

加えて、セルフレジの弱点となっているのが窃盗の増加です。

対面する店員がいないので、バーコードスキャナーに品物を通さずに万引きすることが容易になっています。

英レスター大学(University of Leicester)による2017年の調査では、セルフレジを利用している小売業者の損失率は業界平均の2倍以上に達していることが報告されました(Security Journal Article, 2017)。

しかし最大のデメリットは、顧客に与える負担の大きさにあると考えられます。

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顧客の負担や不満が多いのが問題

セルフレジの大きな問題点は顧客の負担や不満が大きいことでしょう。

セルフレジや機械の操作に不慣れだと、精算に時間がかかってしまいますし、何より品物のスキャンが面倒です。

ユニクロなどのようにRFID(無線自動識別)の技術を用いたICタグを用いていれば、束ねた商品を置くだけで自動で機械が全ての商品を読み取ってくれるため、セルフレジが十分に機能しています。

しかし短い頻度で入れ替えが必要な生鮮食品や、非常に数多くの品目を取り扱うスーパーでは、全ての商品にICタグを付け、一括で読み込ませることは困難です。

また顧客の側も大量の商品をまとめ買いする頻度が高いため、これらの商品のバーコードを手作業で読むとなると、負担が大きくなります。

そのため「とてもじゃないけれど、毎回自分でセルフレジをするのは面倒くさい」という人は多いはず。

加えて、操作の困難や機械のエラー、年齢制限の確認など、結局は店員さんを呼ばなければならないこともあります。

それで結局は「じゃあ、最初から店員さんのいるレジに並ぼう」という人が相当数いるのです。

2021年にアメリカの買い物客1000人を対象に実施された調査では、消費者の60%が店員のいるレジよりもセルフレジを利用したいと回答していましたが、そのうちの67%がセルフレジを利用しようとして失敗し、結局は有人レジに変えた経験があると回答していました(Raydiant, 2021)。


顧客に与える負担が大きい / Credit: canva

米テキサス大学(University of Texas)でマーケティングを専門とするアミット・クマール(Amit Kumar)氏は「セルフレジの技術自体が良い悪いというわけではなく、セルフレジを利用した結果、顧客側がメリットを感じなければ、心理的にセルフレジを使わない方へ切り替えるでしょう」と述べています。

もしかしたら、皆さんの中には「行きつけのスーパーがセルフレジになってしまったから、通うお店を変えた」という人もいるかもしれません。

こうしたいくつもの懸念点から、欧米諸国ではセルフレジの設置数を減らす方針を取っている店舗が増えています。

例えば、イギリスのスーパーマーケットチェーン・Boothsは、顧客から「セルフレジは動作も遅くて信頼できない」という苦情が多く寄せられたため、店舗内のセルフレジの数を減らしました。

またアメリカで急成長している1ドル均一ショップのDollar Generalも2022年にはセルフレジ導入に大きく傾倒していましたが、同社CEOのトッド・ヴァソス(Todd Vasos)氏は2023年の決算発表の場で「我々はセルフレジに頼りすぎていたが、セルフレジはメインではなく、サブのレジとして利用すべきだ」と述べ、方針を転換しています。

とはいえ、アパレルメーカーやレンタルショップ、ファストフード店、映画館など、セルフレジが効果的に機能している業界は多く、今後も普及が進むことは間違いないでしょう。

また店員との接触がないことから衛生面で大きな効果があるとも指摘されています。

セルフレジが今後も幅広く活用されていくのは確かでしょう。ただこのシステムを利用する経営者はそのメリットとデメリットのバランスをよく検討する必要があるかもしれません。

参考文献

‘It hasn’t delivered’: The spectacular failure of self-checkout technology
https://www.bbc.com/worklife/article/20240111-it-hasnt-delivered-the-spectacular-failure-of-self-checkout-technology

ライター

大石航樹: 愛媛県生まれ。大学で福岡に移り、大学院ではフランス哲学を学びました。
他に、生物学や歴史学が好きで、本サイトでは主に、動植物や歴史・考古学系の記事を担当しています。
趣味は映画鑑賞で、月に30〜40本観ることも。

編集者

海沼 賢: ナゾロジーのディレクションを担当。大学では電気電子工学、大学院では知識科学を専攻。科学進歩と共に分断されがちな分野間交流の場、一般の人々が科学知識とふれあう場の創出を目指しています。