ラッキーアイテムは自尊心を高め、パフォーマンスを向上させる / Credit’ Unsplash

ラッキーアイテムを持ったり、幸運を呼ぶと言われる迷信的な行動を取るだけで、目標を遂行できるという自信が高まり、パフォーマンスが向上するようです。

独ケルン大学のライサン・ダーミッシュ氏(Lysann Damisch)らの研究チームは、迷信が本当にパフォーマンスを高めるかを検討しました。

実験者は「これは幸運のゴルフ・ボールです」と伝えたうえで、参加者に普通のゴルフ・ボールを渡し、1 mのゴルフ・パットの成功率が高くなるかを調べるという興味深い実験を行っています。

実験の結果、「普通のボールです」と実験者からボールを渡された人と比べて、「幸運のボールです」と実験者からボールを渡された人はゴルフ・パットの成功率が約17%高くなったのです。

後続の実験の結果から、迷信がパフォーマンスを高める現象は自尊心(いわゆる自信)が高まることで生じていると考えられています。

研究の詳細は、学術誌「Psychological Science」にて2010年7月14日に掲載されました。

目次

ラッキーアイテムは本当に効果があるのかラッキーアイテムは、できるという感覚を高め、パフォーマンスを上げる

ラッキーアイテムは本当に効果があるのか


ラッキーアイテムは本当に効果があるのか / Credit: Unsplash

皆さんはラッキー・アイテムやお守り、ジンクスなどの迷信は信じますか。

昔もらったぬいぐるみを幸運のお守りとして持っていたり、過去の成功体験から試験前に同じものを食べたり。

おそらく多くの人が何かをきっかけにこれらの行動を取っていると思います。

しかし多くの人はこれらが望む結果との間には因果関係が存在しない不合理な行動だということはどこかで理解しているのではないでしょうか。

冷静に考えてみれば、ラッキーアイテムやジンクスは何の意味も成さないと思うことは間違いではなさそうです。

ところが、近年の研究によると迷信は実際にパフォーマンスに影響を与えることが報告されました。

独ケルン大学のライサン・ダーミッシュ氏(Lysann Damisch)らの研究チームは、迷信が本当にパフォーマンスを高めるかを検討しています。

実験には大学生28名が参加しました。

参加者は以下の2つのグループに分け、1 mのゴルフ・パットを10回挑戦しています。

実験群:実験者から「これは幸運のボールです」とボールを渡される

統制群:実験者から「これは普通のボールです」とボールを渡される

そして実験者から渡されたボールの違いでパットの成功率に差があるのかを比較しました。

実験の結果、「普通のボールです」と実験者からボールを渡された人と比べて、「幸運のボールです」と実験者からボールを渡された人はパットの成功率が約17%高くなりました。


実験の結果を改変。 / Credit: Damish et al., (2010).

また参加者の約80%が迷信の存在を信じていたことも確認されています。

この結果は、多くの人が不条理と感じながらも迷信を信じ込んでいる場合が多いということ、そして実際に「幸運」に関連する迷信がパフォーマンスを高める可能性を示唆しています。

次に研究チームは、課題に取り組む前の迷信的な行動を取ることで、パフォーマンスが高まるかも検討しました。

彼らは大学生51名に親指を他の4本の指で包むように握ってもらい、この行動に対して、以下の3つのグループに分けそれぞれ別の意味を教えました。

実験群:親指を巻き込んで握る動作は「悪運を払う」という意味があると伝える

統制群1:「時間的に余裕がある」という意味があると伝える

統制群2:「すぐに始めよう」という意味があると伝える

このように親指を巻き込んで握る動作が「幸運」に関連することを知る人と、「幸運」とは関連がなく、ただのジャスチャーであることを知る人で同じ動作に対する意味づけに違いを設けています。

そして36の穴の中に決められたボールを1つずつ詰める課題をできるだけ早くこなしてもらいました。

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ラッキーアイテムは、できるという感覚を高め、パフォーマンスを上げる

実験の結果、親指を巻き込んで握る動作がただのジェスチャーであると知った人と比較して、「幸運」に関連する迷信的な意味合いがあると知った人は課題のやり遂げるまでの時間が短くなりました。


実験の結果を改変。 / Credit: Damish et al., (2010).

この結果は、課題の前に全く同じ動作を行ったとしても、その行動に迷信的な意味合いを感じているかどうかで、次に行うパフォーマンスが向上する可能性を示唆しています。

ではなぜこれらのラッキーアイテムや迷信的行動はパフォーマンスを高めるのでしょうか。

研究チームは迷信がパフォーマンスを高めるこの現象は、自己効力感が関係しているのではないかと考えました。

自己効力感とは、簡単に言うと「自信」のことで、ある課題をこなすにあたって、自分が適切な行動を選択し遂行する能力があると認識することです。

彼らは、大学生42名に自分が持っているラッキー・アイテムを実験室に持参してもらいました。

ここでのラッキー・アイテムは普段から幸運のお守りとして持ち歩いてる指輪や、大切な人からもらったペンダントなど、自分が持っている時に良いことがあると感じる物でした。

まず実験者は撮影する目的で一度それらをを回収し、返却のタイミングに違いを設け、参加者を以下の2つのグループに分けています。

ラッキー・アイテムあり群:次の課題実施前にラッキー・アイテムを返却し、課題に取り組むときには手元にある

ラッキー・アイテムなし群:次の課題実施後にラッキー・アイテムを返却し、課題に取り組むときには手元にない


実験室に持参したラッキー・アイテム / Credit: Damish et al., (2010).

そして次に行う記憶課題にどれだけ自信があるか、またどれくらい不安かを尋ね、ラッキーアイテムの有無で成績がどう変わるかを比較しています。

実験の結果、ラッキー・アイテムを課題遂行時に持っていた人の方が、持っていなかった人と比較して、自己効力感が高く、記憶課題の成績が優れていることが分かりました。


実験の結果を改変。 / Credit: Damish et al., (2010).

しかし不安に関してはラッキー・アイテムの有無で変わりませんでした。

つまり、ラッキー・アイテムが課題のパフォーマンスを向上させる理由は、自分自身に対する自信を高めるからだと考えられます。

個人的な意味のあるぬいぐるみを持つ、お参りに行くなどの行動は、科学的に考えれば、不合理的で、何の意味も成さないと思ってしまいがちです。

しかしお守りやジンクスは、「自分はできる」という自信を高め、パフォーマンスを向上させる可能性を秘めているのです。

受験シーズンでは特にお守りやジンクスを気にする人は多いかもしれませんが、それはちゃんとあなたの役に立つものになるかもしれません。

ぜひ今回の記事を読んだのを機会に自分なりのラッキー・アイテムやジンクスを作ってみてください。

【編集注 2023.01.25 18:00】
誤字を修正しております。

参考文献

Keep your fingers crossed: How superstition improves performance
https://www.eurekalert.org/news-releases/920979

Very Superstitious
https://www.psychologytoday.com/intl/blog/presence-mind/201810/very-superstitious

元論文

Keep your fingers crossed! How superstition improves performance.
https://psycnet.apa.org/record/2010-15435-019

ライター

AK: 大阪府生まれ。大学院では実験心理学を専攻し、錯視の研究をしていました。海外の心理学・脳科学の論文を読むのが好きで、本サイトでは心理学の記事を投稿していきます。

編集者

海沼 賢: ナゾロジーのディレクションを担当。大学では電気電子工学、大学院では知識科学を専攻。科学進歩と共に分断されがちな分野間交流の場、一般の人々が科学知識とふれあう場の創出を目指しています。