スーパーフォーミュラ第6戦で小林可夢偉が3位、第7戦で福住仁嶺が2位と、富士でのダブルヘッダーで躍動したKids com Team KCMG。悲願の初優勝はまたしてもお預けとなったが、“その時”は確実に近付いているように感じられた。
特に今回のレースウィークで収穫だったと言えたのが、ピット作業でのロスによりドライバーのレース展開に影響を与えるようなことがなかったという点だ。
KCMGは小林の1台体制だった頃から、優勝が狙えるようなレース展開に持ち込んでもタイヤ交換などピット作業に手間取り、そのチャンスをふいにするようなことが何度かあった。その代表的なケースが2017年のもてぎ戦。小林がピットで立ち往生し、大量に持っていたはずのリードが失われていくシーンは多くの者の記憶に残っている。そして今季第4戦富士でも、チームに初ポールをもたらした福住がタイヤ交換のロスで順位を下げ、4位になったことも記憶に新しい。
ただ今回の富士戦は、第6戦・第7戦共に福住がグリッド上位から優勝争いに絡む中でピットインしたが、作業時間はそれぞれ8.1秒、7.0秒と大きなタイムロスなく送り出した。小林も今大会のピットストップについて、「2回ともまあまあ悪くないです。もしかすると、それが一番の大きな進歩じゃないですかね」と振り返っている。
福住も小林もレースではトップクラスに高いパフォーマンスを見せていたが、小林は土日の両レースで予選が振るわなかった点が響いて3位、5位止まり。福住は第6戦ではフロントウイング破損が響いて5位、第7戦ではトップに追い付いてきたタイミングでのセーフティカーなど展開に恵まれなかった部分もあり2位。完璧なレースウィークとはいかず悔しさもあるだろうが、ピットストップが敗因とならなかった点については、チームスタッフもホッと胸を撫で下ろしてるはずだ。
8月のもてぎラウンドから今回の富士ラウンドに向けては2ヵ月のインターバルがあったが、福住は第6戦の予選後記者会見の中で、この間に取り組んできたことについて次のように語った。
「チームのスタッフが工場に集まり、チームとは何なのか、どういう風に組織を作るべきかなど、西山社長(チーム総監督でKids com代表の西山悟氏)にたくさんアドバイスをもらいました」
「チームのみんなにとってモチベーションになり、レースまでの準備期間をどう過ごすかも、考え方が変わったと思います」
■富士戦を前に、練習環境をテコ入れ
その中で福住は、ファクトリーでのタイヤ交換の練習について「より実戦に近付いた練習をしている」のを現場に赴いて確認したと話していた。チーム代表兼監督の土居隆二氏は、さらにその詳細を説明してくれた。
マシンのポテンシャルを引き出すことについて、特別なことはやっていないと語る土居監督に、ではタイヤ交換練習についてはどうかと話題を振ると、彼は「これは暴露しちゃうような話になるんですけど……」と苦笑しながら、こう語った。
「これは、とっくの昔にできていないとおかしい話なんですけどね」
「僕らも限られた予算の中で色々とやっていて、練習は基本的には固定機でやっていました。実車での練習はレースウィーク直前にだけ、組み上がった車両でやるという形でした。ただ今回は、もう本当にミスれない。失敗できない。裏切れないという状況でした」
「実はSFの現行車両は、(旧世代車両の)SF14と足回りは同じです。ですから我々はSF14のモノをクラッシュスペアとして(レースウィークにも)持ち込んでいます。それで今回、SF14のモノコックを使って練習用マシンを組み上げました。これはレース用のスペアと兼用です。経費削減です(笑)」
「これで工場で練習する時も、(実際のピットストップ同様に)ちゃんと車両を転がしてきて練習できるようになりました」
野球やサッカー、バスケットボールなどの球技を例に挙げても、バッティングやシュートの練習をする際、静止しているボールを打ったり、静止状態からシュートモーションに入るよりも、“生きた球”を打ったり、試合と同じような動きの中でシュートを打ったりする方がより実戦的と言えるが、タイヤ交換練習もまさに同じと言えるだろう。
また、タイヤ交換の経験が豊富なベテランメカを招聘し、コーチとしてチームの練習に参加してもらっているとも明かした土居監督。若手のクルーにとっても大いに刺激となっているようだ。
KCMGは優勝争いをしている際にピットミスが起こることが多かっただけに、ファンから厳しい批判に晒されることも多かった。しかし土居監督は、そういった“叱咤激励”の声を耳にし、目にする度に奮起してきたと語る。
「タイヤ交換のミスについてガンガン言われるのも、叱咤激励ですよね」
「とっくのとうに見捨てられてもおかしくないですが、まだ言っていただける。そういうコメントを見るたびに、やらなきゃと。その叱咤激励に応えるのは、そのこと(成功)しかないと思わされます」
「確かに緊張します。チームの全員が緊張します。そんな中で今回は(ミスのない作業が)できたので、これがフロックとならないように。次の鈴鹿ではレースリーダーとして入ってきて、リーダーとして送り出せるように、さらに頑張っていきます」