東京都は「黒塗り」、神戸市は「白塗り」…行政が秘匿し続ける公文書“のり弁”問題の理不尽さ

「民間でできることは民間に」の掛け声のもと、全国の公共施設の運営が次々と民間委託される一方、公文書が黒塗りで情報開示される事態が多発している。公文書は「すべて公開」が大原則だが、情報公開とは名ばかりの制度になっている。その実態とは一体どうなっているのか。

『「黒塗り公文書」の闇を暴く』 (朝日新書)より、一部抜粋、再構成してお届けする。

約9割が「改築反対」だった葛西臨海公園。開示された公文書はほぼ黒塗り

東京湾に面した水辺の豊かな緑が体験できる葛西臨海公園。その中核施設である水族園の建て替え計画が進んでいるのをご存じだろうか。

2018年11月、開園から30年を迎え、施設の老朽化が進んでいるとして、東京都が「葛西臨海水族園の更新に向けた基本構想(素案)」を公表したのだが、この素案に対して寄せられた意見の約9割は「改築反対」だった。

ニューヨーク近代美術館(MoMA)を手がけた世界的建築家の谷口吉生氏の設計による、敷地と海を一体化させたガラスドームは、公園のシンボルとして親しまれており、壊さずに残すべきで、建て替えの必要はないというのが大方の意見だったのだ。

しかし、それでも都の建て替えのスタンスは変わることはなかった。2020年10月、都は「事業計画」を公表し、2022年1月に事業者の公募を開始。

4回の技術審査委員会を経て、8月に落札者が決定。12月都議会で承認され、トントン拍子で契約の運びとなったのである。

順風満帆だった建て替えのシナリオに危険信号が灯り始めたのは2023年2月10日のこと。都議会環境・建設委員会で、建設局担当者は、新水族園の建設エリアにある樹木の本数について「約1400本」とし、「移植を前提に設計を進めている」と答弁(その後、計画敷地内1700本のうち600本を伐採し、800本を移植する方針が判明)。

日本建築家協会メンバーが2022年11月、入札時の提出書類を都に開示請求したところ、落札グループの案は全85ページのうち76ページが黒塗り(提案に企業ノウハウが含まれ、公表すれば競争性に差し障るため)で開示されたが、樹木への影響の考え方も公開されず、落札できなかったグループの案はすべて非開示だった。

それから1年後の2023年11 月、筆者が改めてその公文書の現物を独自に開示請求で入手してみると、落札した事業者グループの詳細な提案が記された321枚の文書は、イメージ画像と備品・什器リストの品目が書かれた表の数枚を除いて、すべての文書が黒塗りだった(画像1)。

ご丁寧にヘッダーやフッターまで黒く塗られている。選定委員会で選定されて、これからこの提案を実施していくはずの事業者の提案内容はすべて「企業秘密」というわけで、ここまで行政が死守しないといけないものかと呆れるような黒塗りぶりだった。

提案内容を評価した選定委員会の採点結果に関する文書23枚も、審査項目と配点欄を除く、審査員の評価点数コメント欄はすべて真っ黒になっており、いくら穴をあくほど紙をみつめても、何ひとつわからない、完全無欠の黒塗り公文書といってもいいような情報開示だった。

都が説明してきた樹木保全の具体策や樹木への影響の考え方が書かれた箇所は、どこにもみあたらない。

市民がいちばん知りたいことは、民間の企業秘密を盾に、行政が秘匿し続けるという理不尽さを、見事に浮き彫りにしたケースといえよう。

(広告の後にも続きます)

小中学生は500円から1800円?…神戸市立須磨海浜水族園の建て替え計画

同じく水族館の建て替え計画が問題になっているケースが、もうひとつある。関西在住の人なら一度は聞いたことがあると思われるのが、兵庫県神戸市の水族館騒動である。

2017年、神戸市は、長年「スマスイ」の愛称で親しまれていた市立須磨海浜水族園を完全民営化して建て替えることを決定した。

1957年に開設されてから60年が経過し、施設の老朽化によって修繕費が多額にのぼることが見込まれることから、思い切って新しい施設の建て替えを決断。

その際に、周辺の公園や宿泊施設も含めて民間事業者に再整備を委ねることで、自治体の負担を最小限に抑えつつ、市民が楽しめる最新の設備やアトラクションを導入することで、より大きな成果が得られる民活のお手本となるケースだとみられていた(2024年6月「神戸須磨シーワールド」としてオープン)。

公募の結果、2つの事業者グループから提案を受けた神戸市は、2019年9月にサンケイビルなど7社による共同事業体を優先交渉権者に決めた。

優先交渉権者の提案によれば、周辺の約10万㎡に約370億円をかけ、西日本で唯一シャチがみられる水族館、イルカと触れ合えるプール付きホテル、子育て支援施設を備えた松林の公園などを整備。

開業時の水族館の総水量は改修前の約3倍の約1万5000トンとなり、全国5位の規模。年間の入場者数は18年度の110万人に対し、開業時の24年度は250万人、25年度以降は平均200万人を想定しているという(2019年11月28日・毎日新聞)。

ところが、そんないいことずくめの計画には、とんでもない落とし穴が潜んでいた。まもなく、市民が負担する入館料が建て替え前の3倍前後になることが判明したのだ。

リニューアル後、18歳以上は1300円から3100円へ、15〜17歳は800円から3100円へ、小中学生は500円から1800円へ、無料だった未就学児のうち4〜6歳は1800円へと、それぞれ大幅値上げ。小中生が公共施設などを無料で利用できる「のびのびパスポート」の対象からも外れることになった。

小中学生が現行の500円から4倍近くの1800円になることについての市民の反発は大きく、料金見直しを求めて、署名活動がさかんに行われる事態にまで発展したのだった。

そうした市民の声に対して神戸市は、集客力のある施設にしようとすれば、入館料はある程度高くても仕方ないとして、値上げ分は、市民向けの割引プランの導入を事業者と協議していくことで対応したいとしていた。

筆者は、神戸市に対して、入館料設定の根拠となった情報を開示請求してみたところ、優先交渉権者に選定された民間事業者グループの提案書がまるごと開示された。