「僕たちは前回大会(22年カタールW杯・最終予選)で良いスタートを切れなかったことで、ここホームでのオーストラリア戦に絶対勝たないといけないなか、死に物狂いで勝利を目ざして戦いました。相手も今回、そういった気持ちで来ると思う。それを跳ね返すだけのメンタリティが必要になると思います」
体調不良のキャプテン遠藤航(リバプール)に代わり、10月14日の公式会見に出席した守田英正(スポルティング)が改めて闘志を燃やした通り、15日のオーストラリア戦で日本代表は攻撃・守備・メンタル面を含めて、敵を凌駕する必要がある。
森保一監督は前節サウジアラビア戦のスタメンを踏襲すると見られるが、遠藤の出場が難しいため、ボランチには田中碧(リーズ)が入る公算が大。そして予想の難しいシャドーは、南野拓実(モナコ)と久保建英(レアル・ソシエダ)か鎌田大地(クリスタル・パレス)のいずれかで行くはずだ。
過去を遡ると、日本はオーストラリアに2011年1月に勝利して以降、13年間無敗で来ている。その間に日本が勝利した公式戦では、毎回のようにラッキーボーイが現われているのだ。
まず2011年アジアカップ決勝の李忠成。延長の後半4分に劇的ボレー弾を叩き込み、日本をアジア王者へと導いている。「あのゴールのおかげで年俸も上がったし、親に家を建ててあげられた。人生が大きく変わりました」と本人も後日談で語っていたほど、強烈なインパクトを残している。
次が2018年ロシアW杯の切符を獲得した17年8月の一戦。本田圭佑、岡崎慎司、香川真司ら当時の「ビッグ3」を先発から外して挑んだ試合で、浅野拓磨と井手口陽介が得点。若い世代の台頭を強烈に印象付けたのだ。
その浅野は2021年10月の前回最終予選の大一番でも値千金の働きを見せている。スタメン抜擢された田中碧が先制弾を奪い、後半にリスタートで追いつかれた終盤、ジョーカーとしてピッチに立った浅野が相手のオウンゴールを誘発。日本は辛くも2-1で勝ち切り、最大の窮地を脱した。浅野の名は相手に深く刻まれたことだろう。
そして最後はカタールW杯出場を決めた2022年3月のアウェー戦。急成長していた三笘薫(ブライトン)が84分から出てきて、瞬く間に2ゴールをゲット。凄まじい活躍で一気にスターダムにのし上がった。
「当時は本当によく分からないくらいな感じで、アピールするだけという感じでやっていました」と三笘本人は述懐している。無欲な方が案外、結果を出せるのかもしれない。
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こうした系譜を見ても分かる通り、オーストラリア戦は新たなスターが生まれやすいカードなのかもしれない。しかも今回は“キラー”浅野が不在。誰が名乗りをあげるか。
期待が寄せられるのは田中か。彼は今回の最終予選ではここまで中国戦の71分からしかピッチに立っておらず、「遠藤と守田の控え」という立場に甘んじてきた。
オーストラリアは、自身が最終予選デビューし、初得点を挙げた記念すべき相手。このタイミングで出番が巡ってくるところが“持ってる男”だ。
「自分が持ってるものを出したい」と本人も語気を強めていたが、それは決定力以外の何物でもない。他のボランチが持ち合わせていないフィニッシュの精度と確率の高さを発揮するなら今しかないのだ。
後半からの途中出場が濃厚な面々に目を向けると、浅野と同じスピードスター前田大然(セルティック)は有力候補の1人ではないか。
「3バックだったら、たぶん、あそこ(左ウイングバック)が一番適してるのかなと。センターフォワードはチームでもほとんどやってないので、サイドの方が(印象が)強いかなと思います」とこの日、髪色を黒にチェンジしてきた男は自身の起用法について言及していた。
左ウイングバックに入ったとしても、相手をぶち抜いてゴールは奪えるし、チャンピオンズリーグのドルトムント戦での一撃のように、右クロスに飛び込む形も考えられる。この1~2年、前田は所属クラブで左サイドプレーヤーとして得点能力に磨きをかけてきたのだ。その地力を存分に発揮し、浅野に続く“キラー”になってほしい。そうすれば、代表内の序列も一段階上がるだろう。
そしてもう1人、候補者を挙げるとすれば、中村敬斗(S・ランス)。2023年の代表デビューから11試合8ゴールという数字は驚異的で、直近のリーグ・アンでも4戦連発中。そういう逸材がオーストラリア相手にゴールを奪えないはずがない。
「少しの時間でももらえたら、試合展開によりますけど、自分の武器であるゴール前のところは出したい」と本人も意気込んでいた。
前回の最終予選を経験していない若い世代が爆発すれば、チームに新たな活力が生まれるのは間違いない。本来なら藤田譲瑠チマ(シント=トロイデン)らにその役割を担ってほしいところだが、ベンチ入りできる保証はない。その分、中村の最終予選初ゴールの重要度が高まるはずだ。
いずれにしても、日本は本拠地・埼玉で確実に宿敵を撃破しなければならない。誰がその起爆剤になるのか。そこに注目しつつ、大一番の動向を見てみたい。
取材・文●元川悦子(フリーライター)
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