体を作りながら伸びていくロボット / Credit:Emanuela Del Dottore(IIT)et al., Science Robotics(2024)

ガードレールに絡みつく「つる植物」や、家の塀や廃ビルの壁に張り付く「ツタ」を見たことがあるでしょう。

あれらの植物は、重力屈性や光屈性という作用で重力に逆らったり光を追いかけて伸びる方向を決定しています。

誰かに逐一指示されたわけではないのに、あらゆる環境に適応し、戦略的に体を成長させていく植物たちには驚かされますが、こうした特性は最新のテクノロジーにも応用可能かもしれません。

最近、イタリア技術研究所(IIT)に所属するエマヌエラ・デル・ドトーレ氏ら研究チームは、そんな植物に触発されたロボット「フィロボット(FiloBot)」を開発しました。

フィロボットはまるで植物のように、光や重力を感知して進行方向を決定し、他の構造物に巻き付きながら体を伸ばしていくことができます。

研究の詳細は、2024年1月17日付の科学誌『Science Robotics』に掲載されました。

目次

光や重力を感知して成長する植物たち植物のように環境に合わせながら成長していくロボットを開発

光や重力を感知して成長する植物たち


あらゆる環境に適応・成長するつる植物たち / Credit:Canva

植物は、視覚も、情報を処理する脳さえも、持っていませんが、森林などの複雑で変化しやすい環境に適応して成長していきます。

例えば彼らは、「光屈性」という性質を持っており、光の方向に向かって成長していきます。


光の刺激を受けた結果、光を受けてない側の成長が促され光の方向に向かう / Credit:Wikipedia Commons_光屈性

光の刺激を受けると、光を受けていない側の成長が促され、結果として光の方向に向かっていくのです。

また、これとは逆の性質「負の光屈性」を持つ植物も存在します。

例えばつる植物は、大きな木の幹に巻き付いてよじ登っていきますが、木の幹(根元)を見つける際に、光とは逆側に伸びていく性質である「負の光屈性」が役立っていると言われています。

また植物は重力方向を感知して成長方向を調節する性質「重力屈性」もあり、根を地中に向かわせたり、茎を光合成に有利な上方に向かわせたりするのに役立っています。


重力屈性の例。根は重力方向に、茎は重力方向とは逆に伸びる / Credit:Wikipedia Commons_Gravitropism

こうした柔軟性のある性質は、森林だけでなく、人工物であふれる人間社会で生きる植物にも見られており、自然の偉大さと植物の適応力の高さを感じさせます。

もし、これらの性質をロボットに与えることができるなら、「どんな環境にも適応して移動できる自律型ロボット」を生み出すことになるでしょう。

そこで今回、ドトーレ氏ら研究チームは、植物の様々な屈性を模倣したロボットの開発に取り組みました。

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植物のように環境に合わせながら成長していくロボットを開発


植物の屈性を模倣したロボット「フィロボット」 / Credit:Emanuela Del Dottore(IIT)et al., Science Robotics(2024)

研究チームが開発したロボット「フィロボット(FiloBot)」は、植物からインスピレーションを受けた自律成長ロボットです。

全体像を見ると、ミミズもしくはヘビのような見た目ですが、重要な要素が詰まっているのは、円錐型の頭部です。

この頭部には3Dプリンタような仕組みが内蔵されていて、絶えず胴体部分を生成しています。そして光センサーや重力センサーも内蔵されており、植物のように光、影、重力などの外部刺激を受け取って進むべき方向を決定します。

事前にプログラムされた動きをしたり、計画済みの経路で進んだりするのではなく、環境に合わせて自律的に進行方向を決定していくのです。


植物のように、光・影・重力に反応して進行方向を決定する / Credit:Emanuela Del Dottore(IIT)et al., Science Robotics(2024)

例えば、つる植物のように、木が作る日陰を認識して、その木に向かって伸びていきます。

また、その木に巻き付きながら、光で明るく、重力方向とは逆の方向へ伸びていくことができます。

そしてフィロボットは、移動する方法さえも植物に似ています。

フィロボットの頭部では、筒状の胴体を一層ずつ生成することができ、進行方向に向かって毎分約7mmという非常にゆっくりとした速度で成長していくのです。


頭部が一層ずつ体を形成し、進行方向へ伸びていく / Credit:Emanuela Del Dottore(IIT)et al., Science Robotics(2024)

生成された胴体はその場に残るので、頭部は絶えず「移動」するものの、全体としては「成長」や「伸びる」といった表現が適切かもしれませんね。

そしてフィロボットは環境に合わせて成長していくため、複雑な地形でも活用でき、しかも「環境を破壊しない」というメリットを持っています。

さらにフィロボットには、複雑なプログラムや機能は搭載されておらず、事前に地形図を読み込ませる必要もありません。

こうした特徴から研究チームは、変化しやすい環境や危険地域における監視・救援活動、未知の環境におけるルート開拓・インフラ構築に役立つ可能性があると考えています。

「つる植物のようなロボットが、自分の体をあらゆる場所に張り巡らしていく」

もしかしたら、そんなSFチックな将来もありえるのかもしれませんね。

参考文献

Watch a plant-inspired robot grow towards light like a vine
https://www.newscientist.com/article/2413133-watch-a-plant-inspired-robot-grow-towards-light-like-a-vine/

元論文

A growing soft robot with climbing plant–inspired adaptive behaviors for navigation in unstructured environments
https://www.science.org/doi/10.1126/scirobotics.adi5908

ライター

大倉康弘: 得意なジャンルはテクノロジー系。機械構造・生物構造・社会構造など構造を把握するのが好き。科学的で不思議なおもちゃにも目がない。趣味は読書で、読み始めたら朝になってるタイプ。

編集者

海沼 賢: ナゾロジーのディレクションを担当。大学では電気電子工学、大学院では知識科学を専攻。科学進歩と共に分断されがちな分野間交流の場、一般の人々が科学知識とふれあう場の創出を目指しています。