高知の元ヤンから、日本一バズる公務員に。ゆるキャラでふるさと納税額200万から34億へ。

頭に鍋焼きラーメンをかぶったキュートなカワウソ「しんじょう君」。高知県にある須崎市新荘(しんじょう)川で、最後に確認されたニホンカワウソにちなんで生まれた、須崎市の公式キャラクターです。
誕生したのは、2013年のこと。SNSで人気に火がつき、4年後にはゆるキャラグランプリを制覇するなど、ゆるキャラ界のスターダムを駆け上がりました。

その生みの親は、同市の元職員・守時健(もりとき・たけし)さん。手がけた当時は大学卒業直後、新卒26歳のことでした。
入庁当時から、市役所きっての“変わり者”。やがては「ふるさと納税」の額を200万円から34億円に急増させ、「何もない」「終わってる」と言われていた町の景色を一変させるに至ります。
まさに順風満帆なキャリアのように思えますが、実は波乱万丈の過去が隠れていました。

ヤンキーから心機一転、独学で関西大学へ

1986年に広島で生まれ、岡山で育った守時さん。中学・高校時代は喫煙で停学になるようなヤンキーでした。教室に入れてもらえず、図書室で読書をし、バンド活動に明けくれる日々。高校卒業後は、愛知の自動車工場に勤めますが……。

「都会でバンドをやるぞーっつって辞めちゃいました。大阪に行ったけど、付き合う人間がどんどんしょうもなくなっていって。『あっ、自分がバカだからだ!』って気付いたのが20歳のとき。それで、独学で猛勉強して大学に入ったんです」

現役から4年遅れで入学したのが、関西大学の社会学部。推測統計学を学び、まじめに単位をとりながら、廃墟の撮影や探報を行う“廃墟部”も結成します。

「廃墟のつながりで、産業遺産にまつわるNPOにも所属していました。そういう意味では、やや町おこしに近いこともしていたのかな?でも、正直に言えば1ミリも興味がなかったですね、当時は」

これまでのくすぶりを取り返すような、華やかな大学生活に夢中だった守時さん。Twitter(現X)も大の得意で、ちょっとした呟きでバズることも日常茶飯事でした。

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“面接必勝法”で会場をザワつかせた就活

のちに守時さんが大旋風を巻き起こすことになる高知県・須崎市との出会いは、在学中に当時の恋人のふるさとへ遊びに行ったのがきっかけでした。

「そこで、酔ったおばあちゃんが祭りのステージに乱入して捕まるのを目撃し、みんな大学生みたいなノリで生きているぞ!と思ってすぐ気に入りました。楽しい町という印象は今も変わりません」

そして、町の面白さに惹かれて引っ越した須崎市で、就職先として選んだのが市役所でした。

「はたらく場所の選択肢が、須崎市には銀行か市役所しかないって思い込んでいたんですよ。ぼくの“面接必勝法”は、『面接官より詳しかったら勝ち!』。このときは、面接前に市役所で閲覧できる議会の議事録を6年分くらい読んでいきました。

何が起こったかを知っていたから、何を聞かれても答えられたし、なんならこっちから町おこしの提案をしまくりました。『須崎をスゲー町にするんです!』って」

こうして守時さんは、26歳で須崎市役所に入庁を果たしたのでした。