森保Jを「史上最強」と煽る必要はない。過程の評価はどうでもいい。最終予選を強化の一環に。だとすれば、なおさら気になるのが――

 スポーツメディアにとって「史上最強」というフレーズは、麻薬のようなものだ。使い勝手が良くてインパクトも強いから、ついつい手を出したくなる。

 どこか軽薄なニュアンスが滲み出るのは、「結果」ではなく「過程」に対する評価として使われるケースが多いからだろう。2006年ドイツW杯のジーコジャパンしかり、14年ブラジルW杯のザックジャパンしかり。要するに、過程を煽るだけ煽り、結果にはなんら責任を負わない軽薄さだ。

 それは、多くのメディアがこぞって「日本代表史上最強」と持ち上げる現在の森保ジャパンにも当てはまる。彼らに求められる、そして彼ら自身が目ざす結果が、26年北中米W杯におけるベスト8以上の成績であるならば、まだそこにたどり着いたわけでもないチームを必要以上に賛美するのは、いかにも無責任だ。

 22年のカタールW杯でベスト16入りを果たし、大きな自信を手にしたメンバーの大半が引き続き主力を担い、しかもこの2年、それぞれがヨーロッパの主要リーグで研鑽を積み、目覚ましい進化を遂げてきた。

 クラブチームとの比較で、「個の総和」がより大きなウエートを占めるのが代表チームであるならば、いまや欧州組が9割近くを占める森保ジャパンの実力は、アジアのレベルを超越していると言っていい。
 
 はっきり言って、従来の「4.5」から「8.5」に大幅に出場枠が拡大された北中米W杯のアジア予選など、余裕綽々で突破してもらわなくては困るのだ。最終予選の3連勝スタートは順当な結果。これをもって「史上最強」などと煽る必要はないし、むしろホームでオーストラリアに勝ち切れなかったことを猛省すべきだろう。

 もちろん、慢心が招く落とし穴もある。目の前の1試合、1試合を制した先にW杯の舞台があることも理解している。ただ一方で、日本と他のアジア諸国との実力差がかつてないほど大きくなった今、最終予選の戦いからかつてのようなひりひりとした緊張感が薄れつつあるのも事実だ。

 W杯は出て当たり前。この最終予選を、1年半後の本番に向けた強化の一環と捉えるくらいの余裕があってもいいと思う。

 だとすれば、なおさら気になるのが、森保一監督の判で押したような選手起用だ。小学生でもスタメンはもちろん、交代カードの切り方もほぼ当てられる。それほどまでに、森保ジャパンの序列は明確だ。

 その弊害が表面化したのがオーストラリア戦であり、大黒柱・遠藤航の体調不良による欠場の影響が小さくなかった。キャプテンの不在が、鉄板コンビを組む守田英正の推進力を減退させ、いわゆる“攻撃的な3バック”の核となる両サイドを警戒されると、著しく攻め手を欠いた。

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 過去を振り返れば、W杯のようなビッグトーナメントで結果を残してきたのは、その多くが世代間の融合に成功したチームだった。分かりやすい例が、08年のEURO、10年W杯、12年のEUROとメジャートーナメント3連覇を成し遂げた当時のスペイン代表だ。

 シャビ、イケル・カシージャス、シャビ・アロンソ、ダビド・ビジャの1980~81年生まれ世代と、アンドレス・イニエスタ、フェルナンド・トーレス、ダビド・シルバの84~86年生まれ世代が奇跡的な融合を果たしている。

 遠藤、南野拓実らのリオデジャネイロ五輪世代と、堂安律、三笘薫らの東京五輪世代が融合した現在の森保ジャパンだが、リオ世代が軒並み30歳の大台を迎える1年半後を見据えれば、さらに下の世代、つまりパリ五輪世代の融合にも、早々に着手しておくべきだ。

 鈴木彩艶を正GKに抜擢した一方で、この10月シリーズでA代表に招集された同じくパリ五輪代表チームのキャプテン、22歳の藤田譲瑠チマは結局一度もピッチに立てなかった。
 
 仮に遠藤不在のオーストラリア戦で、すでに実力を把握している田中碧ではなく、藤田を起用していたら──。もちろん失敗していた可能性はあるし、なにもこの大一番でテストする必要はないという考え方が一般的なのかもしれない。

 しかし、経験の浅い若手をひとり加えただけで揺らぐほど、今の日本代表の基盤は脆弱ではない。それは間違いなく、W杯に向けての大きな財産になったはずだ。

 乱暴な言い方をすれば、「過程」での評価などどうでもいいのだ。大切なのは「結果」であり、それを得るためにこのアジア最終予選という場をいかに活用するか、ではないか。

 なにしろ、手のひら返しが得意なメディアは、本番で結果が出なければ、華々しかった過程などなかったかのように忘れ、「史上最強」のフレーズをこっそりと引き出しの奥にしまい込んでしまうのだから。

文●吉田治良

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