日本代表は10月15日、ワールドカップ・アジア最終予選でオーストラリアと埼玉スタジアムで対戦。後半にオウンゴールで先制を許すも、オウンゴールで追いつき、1-1の引き分けに終わった。
アジアカップの敗退以降、日本が磨いてきた3-4-2-1の布陣。攻守の肝になるスペースを初期配置で埋められる効果的なシステムだが、効果的なだけに動きにくい。今まではこのシステムのメリットが際立つ試合が多かったが、オーストラリア戦ではデメリットが露呈した。相手がそれを仕組んだ、とも言える。
日本の3-4-2-1に対し、オーストラリアも同じ3-4-2-1で、鏡合わせのマッチアップとなった。数日前に戦ったサウジアラビアはあえて4-3-3でかみ合わせを外し、そのズレから攻撃を組み立ててきたが、オーストラリアはむしろ、かみ合った膠着を望んだ。クリンチして日本の得意な攻撃を封じ、ひたすら耐える。別にウソの痛がりで時間を浪費するわけでもなく、正当な方法で、オーストラリアは日本を泥沼に引きずり込んできた。
キックオフ直後、重要なシーンがあった。日本の3バックのビルドアップに対し、オーストラリアは3枚の前線がプレスをかけて追い込んだ。堂安律が左足のワンタッチで前線に叩いたが、オーストラリアの出足が良く、ボールを回収されてしまう。
すると、守田英正が動いた。谷口彰悟と板倉滉の間に下り、4枚回しに変形してビルドアップを行なうようになった。4枚に対して3枚のプレスでは追い込みきれないので、オーストラリアもそれ以上は来ない。5-2-3のハイプレスを止め、5-4-1のミドルブロックに移行した。
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ここから、膠着が始まる。守田が下がるのは、相手のハイプレスをけん制するためであり、それ以上でもそれ以下でもない。中盤のビルドアップを考えれば、背後やライン間を取れる守田を最終ラインに下ろすのは、損失に他ならない。また、4枚回しに変形してサイドバック化した板倉も町田浩樹も、相手の両サイドハーフを引きつけたり、横を取ったり背後を取ったりしないため、後ろが重いだけになる。
相手の両サイドハーフを困らせるアクションがなければ、オーストラリアのダブルボランチの両脇は、両サイドハーフにがっちり固められてしまう。そのため真ん中を通すパスコースを窺えず、スペースもないため、上田綺世や南野拓実らがボールを持つと、すぐに囲まれた。2シャドーに多くのスペースが与えられたサウジアラビア戦とは、様相が全く異なる。
後ろが重くて加勢がなく、中も封じられたら、あとは必然、大外から個で攻めるしかない。ただし、三笘薫や久保建英のドリブルに対し、オーストラリアはわざと縦を空けていた。マイナス方向を切りながらドリブル応対し、クロスのコースを限定しながら、分厚く構えた中央ではね返す。これを徹底した。ポケットまで切り崩せば、大きなチャンスになるが、オーストラリアは左右のCBが鋭くカバーに目を光らせた。
結局、前半の日本に得点の匂いが感じられたのは、カウンター、ロングボール、CKのサインプレー。前半はオーストラリアのポゼッションが不安定で、ボールをさらっと奪ってショートカウンターが何度も発動した。ロングボールも、相手は中盤を封じる代償としてラインを高く上げるので、早めにスペースに蹴るボールは有効だった。
ただし、カウンターは偶発的、ロングボールは単発的だ。カウンターは主体的に繰り出せない。ロングボールはあまり増やすと支配力が弱まって疲労が増す。また、サインプレーは一度見せたら終わりで、15分の堂安のシーンは決まらなかった。
日本にチャンスがなかったわけではない。だが主体性で言えば、オーストラリアの掌の上にある0-0。前半はそんな印象だった。
後半、日本は動いた。大きな変更点は2つ見られた。
ひとつは守田と田中碧、ボランチの1枚を左サイドへ広げ、左サイドバック化させること。後半の序盤は守田が、途中からは田中がその役割を担った。左ウイングの三笘、左シャドーの南野に、守田や田中が加わり、3人の三角形でサイドを攻める。4バック時は普通にやっている攻撃型だ。
これは効果的な変更だった。シャドーが裏へ走りやすくなり、その動きに釣られて空いた中盤で、守田や田中がフリーでボールを持つ場面が多く、前半よりも深く押し込むことができた。
76分に同点に追いついた場面も、その恩恵を受けたものだ。左シャドーに移った三笘が裏へ走り、田中がサポートして配球し、途中から左ウイングに入った中村敬斗がドリブルで仕掛けた。三笘のブロックと中村のドリブル突破により、それまで中々陥れられなかったゴール脇を深くえぐり、オウンゴールを誘発した。ボランチの立ち位置の修正が、後半の攻撃をスムーズに変えたのは明らかだ。
ただ一方で、もうひとつの変更点は、悲劇を招いた。
前半の日本は相手GKまではプレスをかけず、敵陣でハイブロックを構え、ひとつボールが出た先に襲いかかるプレッシングを実践した。親善試合のドイツ戦をはじめ、カタール・ワールドカップ以降の日本が主に行なってきた守備でもある。オーストラリア戦も同様だった。
ところが、前半のオーストラリアはGKがボールを持つと、のらりくらりと時間を使っていた。0-0で後半を迎えてしまった以上、ホームで勝ちたい日本としては、これ以上相手のペースに付き合いたくない。そこで前半とは異なり、相手GKまで、上田がプレスに行くようになった。
はまった場面もあったが、結果は皮肉なほうに出た。この日本のハイプレスを受けると、オーストラリアはロングボールを蹴り飛ばすことになる。58分、自陣深くから大きく蹴り出すと、FWミッチェル・デュークが頭でフリックし、背後を突いてきた。
これは町田がカバーしたが、GK鈴木彩艶へのバックパスが跳ね、追い詰められた鈴木は利き足ではない左足でロングキック。相手DFのヘディングで一発ではね返ってきたボールは、すぐに日本陣内を陥れ、対応がバタついた中から、最後はクロスへの対応を誤った谷口のオウンゴールとなった。行ったり来たりの展開は、日本にとっては悲劇的な失点に。
前半はオーストラリアの一発目のパスをつながせていたので、相手のパスミスを突き、ショートカウンターを仕掛けることができた。一方で後半は一発目からプレッシャーに行った分、ロングボールを蹴られる展開が増えた。追い続ける分、日本の疲労も増している。積極的な守備修正ではあるが、前半よりもオープンになったことが、オーストラリア側の得点につながったのは皮肉だ。
この試合のオーストラリアは、シュート1本、CK0本。その1本のシュートも、7分にFKからデュークが戻りながらのヘディングで大きく枠を外した、ほぼノーチャンスの場面しかない。ホームの日本としては、勝ちたい試合に決まっている。
だが、どこまでリスクをかけるか。どこでリスクを許容するか。
CBを1枚減らし、3バックから4バックにしてサイド攻撃の厚みを増す選択肢もあったが、相手の高さを考えれば、3バックの解体はリスクが大きすぎる。だけど、勝ちたい。ボランチのサイドバック化、ハイプレスには踏み込んで修正したが……結果は一進一退の1-1。
このじれったさよ。これが最終予選。5-0、7-0で勝つとか、アウェーで強豪サウジアラビアに2-0で勝つとか、そんなものではなく、このじれったさこそ、最終予選だ。
日本のスローインはほとんど相手に奪われたし、細かい修正点は山ほどある。価値ある試合だった。負けていれば、何の共感もない言葉かもしれないが、中村のゴールのおかげだ。勝点を取ったうえで、反省、修正できれば、それに越したことはない。この引き分けは、大きな学びになるはずだ。
文●清水英斗(サッカーライター)
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