アドビの動画編集ツールに、足りなかった動画カットの長さを2秒だけ延長して生成する『生成拡張(ベータ)』という機能が追加された。なぜ、『わずか2秒』なのか? そこに、プロフェッショナルクリエイターツールを作るアドビの、生成AIに対するスタンスが見える。米マイアミで開催された、Adobe MAX 2024からレポートする。

Adobe MAX

https://max.adobe.com/

注目の、動画を延長する『生成拡張(ベータ)』

Adobeは生成AIの活用に取り組んでおり、数多くのアプリケーションで生成AIを利用出来るようになってきた。生成AIのプロジェクトのもっとも先鋭的な部分は、実験場であるFireflyとして開発されている。Photoshopで扱うようなビットマップの画像を生成するFirefly Image 3 Model。 続いてIllustratorで扱うようなベクターデータを扱う Firefly Vector Model。 デザインを扱うFirefly Design Model。

そして、今、成果が表われつつあるのが動画を扱うFirefly Video Modelだ。

その中でも、今年のAdobe MAX最大の注目機能が、動画を延長する『生成拡張(ベータ)』だ。

(広告の後にも続きます)

成果物に使って不自然ではないのは2秒。2秒でも十分に効果

この機能は、編集している中で、音楽とのタイミングを合わせる時に、どうしても使ってる素材を延長したい……他の素材を入られない、スローモーションにするわけにもいかない……という時に、動画を2秒まで延長できるというもの。

『2秒』というと短いようだが、動画編集においては少なくない時間だ。ご自分で映像を編集しない人は、一般に流通している編集された動画を見ていていただきたい。案外と数秒の細い動画が繋ぎ合わされている。1分も2分も同じ画角の動画が続いたら、その映像は案外に退屈に感じてしまう。だから、そこにおいては2秒は大きな時間なのだ。

しかし、機能として追加するなら、10秒でも20秒でも伸ばせた方がいいような気がする。プロフェッショナルフィルム&ビデオ製品マーケティングディレクターのミーガン・キーンさんによると、「その時間には多くの試行錯誤があり、先行した使用したユーザーの意見から決定した。私たちは実際に利用するクリエイターの意見を重視する。彼らの意見を聞いたところによると「2秒が適当だろう」となった」とのことだ。

生成AIで動画を作れば何秒だって伸ばすことができるはずだ。しかし、2秒以上は不自然だったのだろう。

2秒なら、同じアクションを続けても不自然ではない。たとえば、同じ方向に歩いていく。同じ姿勢でいる。同じアクションを続けている。しかし、2秒以上になると、何かしら不自然が生じてくる。

実際に生成された動画を見ると、『同じ動作を続ける』『影なども違和感なく生成させる』など違和感がない。パルクールのようなアクションでも、2秒間違和感なく生成されていた。

2秒なら同じアクションでも不自然ではないが、10秒になると、次のアクションが必要になる。その際に、それまでのシーンから推測して次のシーンを作る生成 AIでは、不自然になるのだということだ。

別に、生成AIだけで動画を作ろうというわけではない。ただ、クリップが2秒伸びると便利だし、生産性を向上させる。だから2秒なのだ。ちなみに、音は10秒延長できる。もちろん、音楽は権利上生成できないし、会話も無理だ(次に何を話すべきなのかはわからない)。背景音、空間音などを伸ばせるということだ。

デジタルメディア事業部門代表のデイビッド・ワドワーニさんは「生成AIはツールであり、人の創造性を置き換えるものではない」と言っている。この点が、他の画像生成AIと大きく異なる点だ。

だから10秒ではなく、2秒なのだ。