「実力を確かめられたら先発で使う」評価上昇のバルサ指揮官フリック。その特異な“若手起用術”【コラム】

 FCバルセロナを新たに率いることになったドイツ人指揮官、ハンジ・フリックの采配が評価を高めている。

 ラ・リーガでは8勝1敗。結果もさることながら、その中身が充実している。激しくゴールに迫りながら、守りも整備され、90分間をハイテンションで戦える。エースのロベルト・レバンドフスキは、ほとんどゴールショー。昨シーズンは攻撃的なチームに打ち負け、格上クラブに抑え込まれていただけに、目覚ましい変化だ。

 フリックが起こした変革は、様々なディテールの積み重ねだろう。

 その一つが、「若手を先発で使う」という点である。

 ほとんどの監督は、経験の浅い若手を抜擢するとき、「まずは少ない出場時間で何ができるか」と終盤の途中交代で投入する。試合がほとんど決まって、選手も入れ替えた後、ストレスが少ない状況が選ばれることが多い。10分、15分間のテストだ。

 それは一つの定石だろう。

 しかし、フリックは違う。しばしば、いきなり先発で起用している。
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 今シーズン開幕戦、17歳のMFマルク・ベルナルをいきなりデビュー先発させたのは、度肝を抜いた。ベルナルのプレーメイクは落ち着き払ったもので、一気に称賛を浴びることになった。その後、前十字靭帯断裂で戦線離脱を余儀なくされたが…。

 同じく20歳、MFマルク・カサドも過去に先発したことはなく、トップでのプレーは数分に過ぎなかったが、開幕戦でいきなり先発している。フル出場で、能力の高さを披露。「お試し」などなくても、プレーできることを示したのだ。

 若手の起用について、指導者は改めて考えるべきだろう。

 若い選手に試練を与えるため、出場時間を短くして試したり、控え選手たち中心のチームに混ぜたり、そこで力を測る。それは一見、論理的な取り組みに映るが、必ずしもそうではない。

「数分間で、結果を残せ」

 そのストレスが余計な負荷をかける場合もあるだろう。それは「信用されていない」ことの証だ。その状況が得意な選手も、そうでない選手もいる。

 あるいは、サブ組とプレーさせることは本当に上策か。周りは主力より能力が劣っている上、彼らもレギュラーになるためにアピールのプレーが多くなるだろう。若手は、どうしても戸惑う。さらに言えば、主力に混ざった時のプレーは、控え組とは全然違うものだ。

 フリックは二人だけでなく、若手選手たちの能力を見極め、大胆に起用している。「実力を確かめられたら、頭から使う」という方がロジカルなのだろう。実力が達していなかったら、サブで使うよりもベンチにとどめるべきかもしれない。

 ピッチに選手を送り出す時、年齢など数字でしかないのだ。

文●小宮良之

【著者プロフィール】
こみや・よしゆき/1972年、横浜市生まれ。大学在学中にスペインのサラマンカ大に留学。2001年にバルセロナへ渡りジャーナリストに。選手のみならず、サッカーに全てを注ぐ男の生き様を数多く描写する。『選ばれし者への挑戦状 誇り高きフットボール奇論』、『FUTBOL TEATRO ラ・リーガ劇場』(いずれも東邦出版)など多数の書籍を出版。2018年3月に『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューを果たし、2020年12月には新作『氷上のフェニックス』が上梓された。

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