『閃光のハサウェイ』に登場する「Ξ(クスィー)ガンダム」はAE社で作られた最新鋭の「ガンダム」です。そのような機体がどうして環境テロリスト組織の手に渡ったのでしょうか。そこには、彼らの活動の真の目的が見え隠れします。



「Ξガンダム」の入手経緯を疑うと見えてくるものが…? 『機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ』ビジュアル (C)創通・サンライズ

【画像】え…っ? こんな超絶パツキン美少女といい感じに? こちらが『閃光のハサウェイ』に登場したギギ・アンダルシアです(8枚)

最新鋭機を横流し? そんなことできるの?

『機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ』では、環境テロリスト「マフティー」となった「ハサウェイ・ノア」が新型モビルスーツ(MS)「Ξ(クスィー)ガンダム」を駆って、地球連邦政府に反旗を翻します。しかしどうやって新兵器を手に入れたのでしょうか。

死の商人アナハイム・エレクトロニクス

 ハサウェイの「Ξガンダム」は、「アナハイム・エレクトロニクス」で製造された最新鋭の「ガンダム」です。同社は宇宙世紀のガンダムユニバースにおいて、敵味方の区別なくMSを製造、販売していることから「死の商人」と呼ばれています。これまでも地球連邦と取引しながら、戦争中のネオ・ジオンやジオンの残党にMSを供給していたのですから、環境テロリストにMSを供給しても不思議ではありません。

 富野監督による小説『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア ベルトーチカ・チルドレン』(KADOKAWA)によると、同社には月の表側の「フォン・ブラウン工場」と裏側の「グラナダ工場」があり、それぞれ別会社という特殊な体制を取っているとのことです。そのため片方で連邦向けのMSを作りながら、もう片方でジオン向けのMSを作っていても情報が共有されない仕組みです。

 しかし気になるのはコネクションや資金です。ジオン残党がアナハイム・エレクトロニクスと取引できるのは、アナハイムが一年戦争後に解体されたジオニック社の設備や人員を取り込み、多くのスペースノイド(宇宙移民)を抱え込んでいるなど、歴史的な経緯によるものが大きいといえます。

 ところがハサウェイには、アナハイム・エレクトロニクスとの接点がありません。英雄「ブライト・ノア」の息子であるというだけでは取引できないでしょう。いくらテロ組織に資金が集まって経済的に潤沢だったとしても、新兵器を秘密裏に入手するのは無理があります。お金だけで解決できる問題とは思えません。

 また原作小説では「Ξガンダム」のパーツから製造元を特定できなかったとのことですから、綿密な隠蔽工作が仕込まれていることは間違いありません。若さと衝動がまさるハサウェイたちでは考えが及ばないほどの老獪さを感じます。



イラストは美樹本晴彦さん。『小説 機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ(上) 新装版』著:富野由悠季(KADOKAWA)

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謎の黒幕「クワック・サルヴァー」

 劇場アニメ版『機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ』ではまだ登場していませんが、実はマフティーの創設者はハサウェイではありません。「クワック・サルヴァー」と名乗る謎の将軍で、元は連邦政府の高官だったとされています。アナハイム・エレクトロニクスに隠蔽工作をさせながら「Ξガンダム」を作らせることができたのは、まず間違いなく彼のコネクションによるものでしょう。

 そこで気になるのが、組織の本当の存在意義です。ハサウェイはじめ構成員たちは、地球の環境を保護するため、地球に残る人びとを残らず宇宙に上げようとします。その象徴が地球に残って豪奢な暮らしを楽しむ特権階級である連邦高官です。腐敗した彼らを直接、暗殺することで、地球から人類を遠ざけて地球環境を保護しようというのです。

 ある意味では理屈が通っているのかもしれませんが、アニメで描かれたように、一般の人びとに「高邁な理想」は通じません。彼らはただずっとそこに住み続けていただけで、地球を汚そうとかきれいにしようなどと考えたりしないのです。そのズレはアニメ『機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ』で明確に描かれています。

 そして腐敗した特権階級の官僚を直接、暗殺するという手段にも疑念が残ります。何の罪もない多くの人を巻き添えにしながら悪い(悪そうな)官僚を順番に排除していけば、いつか組織がクリーンになってみんな心を入れ替えるのでしょうか。

実は操られているだけでは?

 こうしてハサウェイたちの行動を改めて振り返ると、極めて無理がある活動だということがわかります。理想を信じて命を掛けて活動している構成員は、ただ社会を混乱させているだけかもしれません。

 そして、彼らの活動自体が誰かの手のひらの上、という可能性があります。「Ξガンダム」を秘密裏に用意できるだけの政治力や資金力のある人物が作った組織が、地球環境保護の名目で政府高官の暗殺をそそのかす、というのはかなり怪しいといえます。

 もしかしたらクワック・サルヴァーは現役の連邦高官で、自分の手を汚さずに政敵を排除するためマフティーを作ったのかもしれません。もちろん、そのような本音についてきてくれる人はいませんから、表向きの理由は地球環境の保護です。

 きっと「Ξガンダム」がマフティーの手に渡ったこと、それ自体が高度な政治的陰謀の存在する証明です。戦争で心に傷を負った若者がその善意を逆手に取られて、陰謀のコマにされていると考えるとかなり厳しいリアルを描写しているように見えます。

 細部が改変されているアニメ版が原作小説と同じストーリーを辿るか、現時点では分かりません。まだ見ぬ続編に期待しましょう。