1996年に統一教会の世田谷進出を阻止、2002年に特殊法人の闇を看破、その年に殺された政治家・石井紘基とは?

2002年10月、右翼団体代表を名乗る男に襲撃され命を落とした政治家・石井紘基(こうき)。当時、石井は犯罪被害者救済活動や特殊法人関連の問題追及等で国会の爆弾発言男として、注目を浴びていた。

そんな彼を師と仰ぐ元明石市長の政治家・泉房穂が語る、特殊法人を石井が国会で追求する一幕を書籍『わが恩師 石井紘基が見破った官僚国家 日本の闇』より一部抜粋・再構成してお届けする。

国会の爆弾発言男

石井さんは、1993年の第40回衆議院議員総選挙で、当時ブームを起こしていた日本新党から立候補して、トップ当選。

当時は政権交代、政界再編でめまぐるしい時期でしたから、石井さんもその後、自由連合、新党さきがけ、民主党と、所属を替えていきますが、不正を許さず、国民のほうを向いた政治姿勢は、生涯変わりませんでした。

国会議員2年目の1994年、石井さんは羽田孜連立内閣において、総務政務次官に就任。特殊法人の住宅・都市整備公団(現・独立行政法人都市再生機構)による、子会社への工事発注操作の疑惑を追及し、メディアでも取り上げられます。

この国会質問を受けて総務庁(現・総務省)は、同公団への行政監察を行ないました。それまで、公共事業の主体として、当たり前のように存在していた特殊法人に、石井さんは初めてメスを入れました。

翌1995年は、阪神・淡路大震災とオウム真理教による地下鉄サリン事件が起きた年でした。石井さんは、カルト宗教問題に取り組んでいる紀藤正樹弁護士と連絡をとり、「オウム真理教問題を考える国会議員の会」を発足。統一教会の世田谷進出に反対する住民運動にも参加します。

1996年、衆議院議員に2回目の当選。1997年、オウム真理教の「地下鉄・松本サリン事件の被害者救済の集い」を開催。そしてこの年、統一教会が世田谷進出を断念して、施設から撤退します。政治家と市民がともに戦い、勝ち得た勝利でした。

1998年には、防衛庁の装備品調達における贈収賄、背任疑惑を国会で追及。共謀して工数の水増し請求を行なった取引先4社と、調達費の過払いに関与した防衛庁の関係者は、のちに東京地検により逮捕・起訴されます。

翌1999年には、衆議院行政改革特別委員会で中央省庁等改革関連法案と地方分権1括法案に対する質疑を行ない、日本道路公団(現・特殊会社NEXCO3社)および、住宅・都市整備公団の不透明な業務内容を例に、特殊法人の問題点を追及。

「特殊法人は1200社以上ある。丸投げするための子会社まで含めたらもっと多い。公益法人にしても職員51万に対し役員49万人。これらが民間と同じビジネスを行なっている。ここにメスを入れなければ、行革の意味がない!」と官業による民業の圧迫、特殊法人と子会社の癒着、そこで起きている官僚の天下りを痛烈に批判しました。

独自の調査で権力の中枢に踏みこみ、国民が知らなかった事実を暴露する石井さんは、「国会の爆弾発言男」と呼ばれるようになります。

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特殊法人とはなにか

特殊法人は、「公共の利益または国の政策上の特殊な事業を遂行する」として、特別法によって設立された法人です(『大辞泉』)。主に第2次大戦後の経済復興のため、道路、住宅、鉄道など基本的な社会資本(インフラ)を整備するために作られました。

公団(旧・日本道路公団、旧・住宅・都市整備公団など)、公庫(旧・住宅金融公庫など)、特殊会社(電源開発株式会社など)などの形態で、戦争によって壊滅的な打撃を受けた日本社会を建て直すため、一定の役割を果たしました。

歴史的には、1960年代から高度経済成長をめざして、重工業主体の産業政策が推進され、この間、民間企業が大きく成長しました。石井さんは、池田勇人内閣(1960〜1964)の国民所得倍増計画がその目標を達成した1970年代前半には、「本来であれば特殊法人は解散して、経済を市場に委ねるべきだった」と考えていました。福祉や教育、外交など、政治は次なる目標に向かうべきであったと。

しかし実際には、政・官・財の癒着が壁となり、民間経済をサポートし、活性化させるという本来の役割を終えた特殊法人はその後も残り、自己増殖を始めました。

政・官・財の権力システムは、「〜開発法」「〜整備法」など後付けの根拠法を次々と作り、公共の投資事業のための「特別会計」を増やし、行政指導の権限と経営規制を拡大して、金融・建設・住宅・不動産・流通・保険などの事業分野、鉄道・空港・道路その他の交通運輸産業、農業・漁業・林業の分野、さらに通信・電力など、ほとんどすべての産業分野で、市場を寡占するようになります。

その後も経済発展とともに特殊法人は増加し、政治家と官僚は、財団法人や社団法人なども含む膨大な数の、子会社、孫会社を作りました。これらのいわゆる「ファミリー企業」は、下請け発注業者である特殊法人から優先的に仕事を回され、事業を寡占します。定年を迎えた官僚は、管轄下の特殊法人やファミリー企業へ続々と天下り、法外な給料や退職金を何度も手にします。

これでは民間にお金は回ってきません。

石井さんが最後に調査した2001年の時点で、特殊法人は77団体。関連会社・法人は約1200社、そしてファミリー企業まで含めると2000社以上、役職者数は少なくとも100万人。

さらに、特殊法人の公益事業や委託業務で生計を立てている民間企業や地方自治体まで含めると、特殊法人関係の実質就業者数は300万人規模で、これは当時の日本の全就業人口の5パーセントになると推定しています。

石井さんの追及はここから「特別会計」に及び、国会での爆弾発言となります。