【対談連載】和泉流狂言師 石井康太(下)

●こぼれ話



 「足のサイズを教えてください」。取材前にこんなメールをいただいた。もちろん初めての質問である。お稽古場には白足袋で上がる必要があるとのことで、サイズを教えていただければお貸しますという気遣いのメールだった。早速、しまい込んでいた足袋を引っ張り出して家で履いてみた。洋服に足袋。ちょっと違和感があるけどOK! 神聖な舞台に上がらせていただくのだから、大変貴重でありがたいお話である。バッグに足袋を入れて、ワクワクしながら和泉流野村万蔵家の稽古場「よろづ舞台」へと向かった。とても暑い日だったが、「道がわかりにくいから」と、石井康太さんがわざわざ最寄りのコンビニまで迎えに来てくださった。その温かいお人柄に触れ、取材前の緊張がほぐれていくのを感じた。

 石井さんの軽妙な語り口で繰り広げられるトークショー。終始、笑いに包まれた対談であった。お笑いの世界で鍛えられた、エンターテイナーとしての顔がのぞく。芸能の世界に身を置いているのは、家族、親戚を見渡しても誰もおらず、石井さんだけなのだそう。身近にはいなかったけれど、テレビの影響を強く受けたとのことであった。石井さんは、“真面目なサラリーマン”であるお父様を見て、ちょっとつまらなく感じていた時期もあったとか。しかし、「コツコツ稽古に取り組むことができているのは、父親の姿を見てきたからかもしれない。そうかー、似たのかぁ」と、少し驚いた表情でしみじみ語った。

 取材を終えると、「ちょっと練習してみましょうか」と石井さん。膝と足首をやや曲げて腰を低くおろし、腰の位置を変えずにすり足をする。少しすり足をしただけで、下半身がぷるぷる震えてくる。すぐにギブアップ。ここにさまざまな動作が加わるのだから、なんと体力がいることか。

 石井さんは「すり足体験会」も行うなど、狂言の世界に触れてもらうきっかけをつくっている。30カ国以上に行ったことがあるというそのバイタリティーで、日本だけでなく全世界へ狂言の魅力を伝えてくれることだろう。オールドルーキーへの期待が募る。(奥田芳恵)

心にく人生の匠たち

 「千人回峰」というタイトルは、比叡山の峰々を千日かけて駆け巡り、悟りを開く天台宗の荒行「千日回峰」から拝借したものです。千人の方々とお会いして、その哲学・行動の深淵に触れたいと願い、この連載を続けています。

 「人ありて我あり」は、私の座右の銘です。人は夢と希望がある限り、前に進むことができると考えています。中学生の頃から私を捕らえて放さないテーマ「人とはなんぞや」を掲げながら「千人回峰」に臨み、千通りの「人とはなんぞや」がみえたとき、「人ありて我あり」の「人」が私のなかでさらに昇華されるのではないか、と考えています。

奥田喜久男(週刊BCN 創刊編集長)

※編注:文中に登場する企業名は敬称を省略しました。