『破墓/パミョ』(10月18日公開)

 巫堂(ムーダン=朝鮮半島のシャーマン)のファリム(キム・ゴウン)と弟子のボンギル(イ・ドヒョン)は、跡継ぎが代々謎の病気にかかるという家族から、高額の報酬と引き換えに変った依頼を受ける。

 すぐに先祖の墓が原因であることが判明し、金のにおいをかぎつけた風水師のサンドク(チェ・ミンシク)と葬儀師のヨングン(ユ・ヘジン)も合流。4人はおはらいと改葬を同時に行うことにするが、墓を掘り返す儀式を始めたとたん、不可解な出来事に襲われる。

 掘り返した墓に隠された恐ろしい秘密を描き、韓国で観客動員1200万人の大ヒットを記録したサスペンススリラー。監督・脚本は『プリースト 悪魔を葬る者』(15)のチャン・ジェヒョン。

 一見、ホラー映画のようにも見えるが、ジェヒョン監督は「ホラー映画としてのアプローチはしていないつもり。なぜかというと、ホラー映画というのは、基本的にその95パーセントが被害者中心の物語であり、そうであってこそ恐怖感が増す。だから、僕の映画はほとんどの場合、主人公が専門家のような人になっていて、幽霊の立場からすれば加害者になる」と語る。

 だからこの映画の見どころは、怪異に対する専門家たちのチームプレーであり、若い世代と古い世代との融合の様子ということになる。演じる4人の個性的な演技も見どころだ。

 また、数年前に取材で韓国を訪れた際に、ガイドさんが「韓国では母の胎内に帰る意味もあって、丸く土を盛った土まんじゅうのような土葬が多く、今では土地問題に発展している」と教えてくれたが、この映画を見ると、日本とは違う韓国独特の墓事情を改めて知らされた。

 日本についての描写をはじめ、いろいろとお知らせしたことはあるのだが、ネタバレになるのでここでは多くは語れない。

 ジェヒョン監督が「コロナ禍の時に、純粋に映画館で楽しめる映画、面白くて見たらうれしくなるような直感的で体験的な映画、映画館にぴったりするような映画を作りたいという気持ちが湧き上がってきた。この映画は、そんな思いを生かした映画だ」と語る本作の魅力をぜひ映画館で確かめてほしい。

『徒花 ADABANA』(10月18日公開)

 舞台は、最新技術を用いた延命治療が国家によって推進されるようになった近未来。裕福な家庭で育った新次(井浦新)は妻との間に娘も生まれ理想的な家庭を築いていたが、重い病に侵され病院で療養している。

 手術を控えて不安にさいなまれた新次は、医師(永瀬正敏)と臨床心理士のまほろ(水原希子)の提案で自身の過去についての記憶をたどり始め、海辺で知りあった謎の女性(三浦透子)や、幼い頃に母からかけられた言葉を思い出していく。

 記憶がよみがえったことでかえって不安を募らせた新次は、“それ”に会わせてほしいと懇願する。“それ”とは、上流階級の人間が病に侵された際に身代わりとして提供される、“全く同じ見た目のもう1人の自分”=自分の細胞から作られたクローンのことであった。

 長編デビュー作『赤い雪 Red Snow』(19)で国内外から高く評価された甲斐さやか監督が、20年以上の歳月をかけて構想し脚本を執筆して撮り上げた日仏合作映画。編集を『落下の解剖学』(23)でアカデミー編集賞にノミネートされたロラン・セネシャルと、『ドライブ・マイ・カー』(21)の山崎梓が共同で担当している。

 多少観念的で難解なところもあるが、SF的な要素を用い、クローンを「咲いても実を結ばない徒花」や鏡像に例えて、死とは何か、アイデンティーとは何かを静かに問い掛ける問題作。井浦の一人二役が見事だ。

(田中雄二)