復帰をめぐる動き
復帰に動いているのはヒルシャーだけではない。
2020年にゼルデンでワールドカップ初優勝し、2022/23シーズンにスラロームのタイトルを獲得したルーカス・ブラーテン。翌2023/24シーズンの開幕直前に引退を発表したが、今季より、国籍をノルウェーから、母の出身国のブラジルへ変えてワールドカップへの復帰を決めている。
そもそも、この引退の発端は自身の肖像権をめぐっての連盟との対立と報道されており、ブラーテン自身は、復帰も視野に入れての引退だったのではなかろうか。
これが影響しているかどうか定かではないが、FISはマーケティングルールの改定し、今季から各選手がヘルメットに付けられるヘッドスポンサーを一つから二つに増やしている。
選手に有利なルール改定となったが、ノルウェーのようにヘッドスポンサーを個人の権利にはせずに、チーム全体として統一している国はどうするのか。
ブラーテンの件もあるのでノルウェースキー連盟の対応は慎重にせざるを得ない。
ブラジルから出場するブラーテンは、自身の肖像権使用やスポンサー選定の自由度が増し、レッドブルをヘッドスポンサーとして、ゼルデン復帰が決定している。
ワールドカップから5シーズン離れていたヒルシャーとは対照的に、ブラーテンのブランクはたったの1シーズン、身体もメンタルも万全の状態でゼルデン入りしてくるだろう。
また、FISの新ルール「ワイルドカード」の決定により、ヨーロッパでは女子選手の復帰も噂レベルではあるが報道されている。ワールドカップで82勝した40歳のリンゼイ・ボン(USA)が、人工膝関節を入れて復帰に向けてトレーニングを始めている。また、総合優勝2回で2020年に引退したアンナ・ヴェイス(オーストリア)は、先日ケスレスキーと契約したことで、復帰に向けて動いているのではないかとの噂が出てきた。真相は定かではないが、噂レベルでも話が広がるというのは、ヨーロッパでのアルペンスキーワールドカップが注目されている証拠だろう。
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日本チームは期待の加藤聖五が登場! その他の出場選手は?
さて、気になるのが日本チームの動向だ。とくに男子チームの今季前半戦、GSではワールドカップで国枠を含めた、4人の出場枠を獲得している。
GS種目別ワールドカップポイント60位以内で出場権利獲得の加藤聖五(野沢温泉SC)、国枠で出場するのは日本人でGSのFISポイントランキングトップの若月隼太(ホテルロッソ・スキークラブ)、そしてファーイーストカップで出場権利を獲得した佐藤慎太郎(置環)と片山龍馬(東海大学)。
後者の2人はまだワールドカップ未経験だが、合計4人の選手がゼルデン開幕戦に出場予定だ。
そして女子チームは、ファーイーストカップのGS種目別優勝の石橋未樹(ガスワンスキーチーム)が、2022年1月以来、2度目のワールドカップに挑戦する。
日本選手はこれまでに、岡部哲也と佐々木明の2位を最高位として、SL種目で活躍した選手は多い。しかし、GS種目となると、未だ世界との差は大きく、男子では、昨年オーストリアのシュラドミングで加藤聖五が獲得した20位が最高。
これは、2004年に24位だった佐々木明以来の成績だ。
しかし明るい兆しもある。とくにエースの加藤にとって、このゼルデンのコースは大きなチャンスだ。
2020年は30位まで0.18差の35位、2021年は0.09差の33位と、2本目進出まであと僅か、ここ2シーズンは怪我やレースの中止で出場はなかったが、比較的得意なコースと言えるだろう。
シード選手(ワールドカップポイント30位以内)以降のスタート順を決めるFISポイントが悪いため、スタートが遅いというハンデはあるものの、昨年の男子GSワールドカップ日本人過去最高となる20位で自信のついた今季。
開幕戦から結果を残し、シーズンを通して活躍することを期待したい。
そして、イタリアを拠点としたプライベートチームWRA(ワールドレーシングアカデミー)に身を置き、ヨーロッパのレースで着実に実力をつけてきた若月隼太。
靭帯断裂の怪我から復帰し、昨季後半で一気に世界ランキングを上げてきた。身体が小さいハンデを克服するために、夏にはフィジカルトレーニングで新しい取り組みもできたようだ。
誰よりも苦しみながら成長し、心身共に充実してきた若月の活躍も楽しみだ。
▼若月隼太選手のInstagram@hayata_wakatsuki_waky
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そして、ファーイーストカップで出場権利を獲得した佐藤慎太郎と片山龍馬。
彼らにとって、今回のゼルデンがワールドカップ初出場となるが、未だヨーロッパで目立った結果のない2人にとって、大きな壁を感じることになるだろう。
女子の石橋も、ワールドカップ出場は2回目となるが前回は1本目でコースアウトしており、ヨーロッパでのレース自体まだ経験が少ない。
しかし、この3人にとって、個人でワールドカップの出場権利を持つことは大きなアドバンテージだ。世界最高峰のコースでトップレーサーと滑ることで、技術とフィジカルの差をしっかりと確認し、自身のレベルアップに活かして欲しい。