これまではレッドブルと共にドライバー育成プログラムを進めてきたホンダ。その中で角田裕毅はF1ドライブのチャンスを掴み、岩佐歩夢もFIA F2で好成績を残してスーパーライセンスの発給条件をクリアした。
しかしホンダが傘下のHRC(ホンダ・レーシング)を介してレッドブル・グループの2チーム(レッドブルとRB)にパワーユニット(PU)を供給するのは2025年シーズンいっぱいまで。2026年からホンダはアストンマーティンを新たなパートナーとして組むことになっており、レッドブルもフォードと組んで自社製PUを開発している。
これに伴い、ホンダとレッドブルのパートナーシップは、様々な部分で解消されることになる。ドライバー育成のプログラムも、レッドブルとホンダの協力関係は終了する。
では前述の角田や岩佐らの立ち位置は、今後どうなっていくのだろうか?
「マルコ(ヘルムート・マルコ/レッドブルのモータースポーツ・アドバイザー)さんと私で議論した時に、2025年まで育成をやって、2026年からは分かれるということになれば、育成ドライバーを活かすことができないので、2024年までは一緒にやって、2025年にそのドライバーを使うというのが最後だよねということで基本合意しています」
HRCの渡辺康治社長は、レッドブルとのドライバー育成プログラムについてそう説明した。では、今レッドブルの契約・育成下にある日本人ドライバーたちはどうなるのか? まずは角田の今後について聞いてみた。
■レッドブルに乗せるよう「ホーナー代表にプッシュしている」
「角田に関しては、まずはレッドブルへの昇格を目指して頑張ってほしいという段階ですね」
「我々としては、彼には十分に実力があるのではないかと見ています。もちろん、いつも申し上げている通りドライバーの選択はチーム側の権限なのですが、チームのパートナーとして、角田をレッドブルのマシンに乗せる、テストで乗せるという強いリクエストを出しています。それで、彼の実力を見極めるということは、最低限でもやりたいなと思っています」
「私もクリスチャン(ホーナー/レッドブル代表)と、直接そういう話をしています。彼も、それについてはノーではないと言っています。まだ、決まったことはないですがね。しかしそこはちゃんとやっていかなきゃいけないと思います」
「それがうまくいき、実力が認められれば、我々が離れる2026年以降も彼はレッドブルに残って、チャンピオンを目指してもらえると思っています」
角田はこれまで、ホンダともレッドブルとも契約があったドライバーである。渡辺社長は、今後はもっとレッドブル寄りのドライバーになっていってほしいと語った。
「今説明したスタンスで言えば、もっとレッドブルの人になってもらっていいと思います。永遠に離れるというわけではないですから。今狙うべきはレッドブルのシート。であるならば、それを狙うべきだと思います」
■岩佐については「マルコさんと議論している」
一方で、今F1を目指している段階にある岩佐は、少し状況が異なるようだ。岩佐は今年、スーパーフォーミュラにTEAM MUGENからフル参戦しながら、レッドブルの姉妹チームであるRBのシミュレータドライバーを務め、そのパフォーマンスを支えている。
「岩佐に関しては、来年はRBのリザーブドライバーというのが基本的なポジションになると思います。彼も、そこからRBのレギュラーを目指すというのが基本線だと思います」
前述の通り、レッドブルとホンダの育成プログラムは今年で終了という筋書きになっているが、岩佐に関する部分だけは、来季もレッドブルとホンダの協力関係が残る可能性があるという。
「マルコさんと、岩佐の件で色々を議論しているのは事実です。岩佐歩夢にとって、来シーズンどういうステップを踏むのが、彼の将来に繋がるのかということも含めてです。リアム・ローソン(現RB)のようにリザーブとして全てのF1のレースに帯同するというのもやり方のひとつでしょうし、来年もスーパーフォーミュラに乗りながらということも選択肢としてあります。乗った方がいいかな……とは思っているんですけどね」
■ホンダの次なる期待……フランスF4王者加藤大翔
なおホンダ育成のドライバーとしては、もうひとり有望株がいる。それが、暫定ながら今季のフランスF4でチャンピオンに輝いた加藤大翔である。加藤に関しては、レッドブルは全く関与していない。
「我々の育成の目的は、F1というトップカテゴリーで通用するドライバーを育成するということです。これは2025年以降も全く変わりません」
「加藤選手に関しては、完全に(ホンダ)育成の人なので、チャンピオンを獲って、次のステップに行ってもらいます」
ただ加藤以降のドライバー育成に関して、アストンマーティンの育成プログラムと共に行なうことについては、まだ計画がないと渡辺社長は言う。
「アストンと共同で育成をするという計画は現時点ではありません。将来的に絶対にやらないということではありませんが、まだ合意できるようなプログラムはないんです。少なくとも来年については、アストンと組むということは基本的にはないです」
「加藤選手に関しては今年もホンダ単独でやっていますし、来年もホンダでやります。どこにステップアップさせるかということについては、我々のエクゼクティブ・アドバイザーである佐藤琢磨と、レース運営室長の桒田哲宏が、プランを作って提案してくれることになっています」
渡辺社長は、F1を目指して自身のブランド価値を高めようと日々奮闘する岩佐、そして海外での活動のために自分自身でも多くの努力をした加藤について、非常によくやっていると評価する。
「彼らは頑張っていますよ。世界で活躍している人たちは志も高いですし、メーカーにおんぶにだっこというわけでもなく、自分の夢を実現させるために頑張っています」
「だからこそ夢が叶うようにしてあげたいし、その過程で我々のところから一時的にでもいなくなるということなのであれば、それはそうすべきです。そういうことに関して、我々がノーと言うことはないです」
なお日本国内において、モータースポーツへの注目度が以前のようには高くない。モータースポーツに参戦している自動車メーカーとして、この状況を打開する計画は何かないのか? 渡辺社長にそう尋ねた。すると渡辺社長は、アメリカのメジャーリーグで活躍する大谷翔平のように、世界で真の意味でトップのドライバーを日本から輩出することが、国内でのモータースポーツへの注目度を高めるキッカケになるとして、F1世界チャンピオンを生み出すことを目標に育成プログラムを続けていきたいとの考えを示した。
「最近よく言っているんですけど、やっぱりモータースポーツで”大谷”を出さないとダメだと思いますよ。つまりF1のワールドチャンピオンを輩出しない限り、ダメだと思います」
「そこに一歩でも近づけるように、ドライバー育成をやっていきます。イベント開催ももちろん大事ですから、それもやります。でもやっぱり、とにかくトップドライバーを出すということが大事だと思います」