フィリピンより凱旋! 放送禁止から転じて国民的ロボットアニメ実写化へ 映画『ボルテスV レガシー』その大きすぎる愛ゆえに‥‥

ある日地球は突然攻撃を受けた。
宇宙のはるか彼方からボアザン帝国が攻めてきたのだ。これまでに見たこともない兵器の数々に、地球側の反撃は全く歯が立たず、圧倒的な劣勢を強いられていた。

一方その頃、地球の前線基地には、アームストロング3兄弟とマーク・ゴードン、ジェイミー・ロビンソンの5人の若者たちが集められていた。目的を告げられずに訓練させられていた彼らは、この時初めてこれまでの訓練がボアザン星人と戦うためのものだったことを知る。

若者たちは密かに製造されていた5機のマシンに乗り込み出撃。しかし、ボアザン帝国には歯が立たない。その時、司令官から合体指令が下る。5機のマシンは、特殊な超電磁テクノロジーを活かし巨大な人型ロボット“ボルテスV”となった! 果たしてボルテス・チームは、地球を守ることができるのか‥‥。

1977年に放送された日本のテレビアニメ「超電磁マシーン ボルテスV」を原作とした映画『ボルテスV レガシー』が劇場公開中だ。原作アニメ放送から約半世紀。本作がなぜ実写映画化されたのか、その軌跡を紹介したい。

日本発のロボットアニメ「超電磁マシーン ボルテスV」

映画『ボルテスV レガシー』は、フィリピンで熱狂的な支持を受けている日本のアニメを基に制作された実写特撮映画だ。

紹介文だけでも情報量多めな本作を語る前に、原作となったテレビアニメ「超電磁マシーン ボルテスV」から補足したい。

テレビアニメ「超電磁マシーン ボルテスV」1977年6月4日〜1978年3月25日にテレビ朝日系列にて土曜の18時から放送されていたロボットアニメだ。

「ボルテスV」は、これまでの勧善懲悪パターンだったロボットアニメに一石を投じ、現代アニメ繋がる新たな流れを作った作品。全40話からなる物語は、親子の離別、異母兄弟との対決、圧政への抵抗や革命など人間ドラマに重きを置き、また敵側の侵略する理由を描くことによって、大人の鑑賞にも耐えられるストーリー性をプラスした。


早瀬マコト氏による応援イラスト


天神英貴氏による応援イラスト

これは「長浜ロマンロボシリーズ」の特徴である。
長浜ロマンロボシリーズとは、「超電磁ロボ コン・バトラーV」から「闘将ダイモス」までのテレビ朝日系土曜18時台ロボットアニメシリーズのことを指す。「ボルテスV」はその2弾。シリーズ名称は、日本アニメを語るとき外せない人物のひとり、『巨人の星』など数々の人気アニメを手がけた長浜忠夫が総監督を務めていたことに由来する。


JNTHED氏による応援イラスト


後藤正行氏による応援イラスト

総監督だけでなく「ボルテスV」のスタッフ陣は今では考えられないほど豪華だ。
キャラクター原案は「超人ロック」で知られる漫画家・聖悠紀。制作は、後に『機動戦士ガンダム』を手掛ける日本サンライズ(現:サンライズ)。メカニック設計・メカマンとして大河原邦男、1982年に「超時空要塞マクロス」を手掛けるスタジオぬえなどが参加。 仕上げは「魔法少女まどか☆マギカ」のシャフト、「らんま 1/2」のディーン(現:スタジオディーン) 、各話演出には、とみの喜幸(富野由悠季)、横山裕一朗、寺田和男、山崎和男らが名を連ねている。
アニメに詳しくない方も、どこかで見たことがある名前が並んでいるはずだ。


ことぶきつかさ氏による応援イラスト


麻宮騎亜氏による応援イラスト

そんなレジェンドたちが手掛けた「ボルテスV」は、1970年代に少年期を過ごした世代に強烈な印象を残した。ボルテスVの武器・天空剣を使用した必殺技「Vの字斬り」は、1975年生まれの尾田栄一郎がマンガ「ONE PIECE」のワノ国編で、フランキー将軍が敵を倒すときに繰り出した「勝利のVフラッシュ!!」の元ネタではないか?とも言われている。

アニメ「超電磁マシーン ボルテスV」は今観ても刺激的だ。多種多様な武器と必殺技、昭和ならではのセリフ回しに韓国ドラマにも引けを取らないジェットコースター的ストーリー展開‥‥。少年の心を取り戻すともに、大人になった今だからこその味わいが、このロボットアニメにはある。

現在、東映特撮YouTube Officialでの配信にくわえ、10月1日よりTOKYO MXにてHDリマスター版が放送されているので、興味をそそられた方は、映画『ボルテスV レガシー』の下地となる第1話と第2話だけでも観ていただきたい。きっと引き込まれるはずだから。

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なぜフィリピンで人気を博したか?

「超電磁マシーン ボルテスV」が、いくら日本の伝説的なロボットアニメのひとつだといえども、世間一般的に認知度が低いのは事実。しかし、フィリピンでは認知率は94%という驚異的な数字を誇る。親子三代で知られ、小林亜星作詞のアニメ主題歌「ボルテスVの歌」は日本語のまま歌われ、第二の国歌と言われるまで浸透している。

この度、劇場公開された『ボルテスV レガシー』のフィリピン版のほか、2023年に実写テレビシリーズが原作アニメの2倍以上となる全90話、約2700分もの超大作で制作されている。月曜〜金曜の週5日、20時からの30分間というゴールデンタイムに放送され、同時間帯トップ、最高視聴率58%を叩き出したそうだ。

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これほどまでに「ボルテスV」が、フィリピンで熱狂的な支持を受けているのはなぜか?

それは1970年代後半のフィリピンという時代背景に起因する。今でこそ超絶人気アニメだが「超電磁マシーン ボルテスV」は、フィリピンで唯一放送禁止になったアニメなのだ。

「ボルテスV」がフィリピンで放送開始された1978年。当時、テレビアニメといえば「トムとジェリー」といったアメリカ作品しかなかったなかで、日本のロボットアニメの登場は衝撃的だった。瞬く間に人気は広がり、街には関連グッズが溢れ、子どもたちはステッカーを集めTシャツを着て、ボルテスの歌を日本語で歌った。だが、最後の4話を残したところで政府が放送中止を命令を下す。

理由は諸説ある。

時はマルコス政権。フィリピンで独裁政治が行われていた時代だ。
「帝国に対する抗戦」をテーマとする内容が政府に不都合だった説、放送局が当時唯一の非政府系放送局だったため攻撃を受けたという説もある。

政治的判断によりボルテスが打ち切られたとする意見に対し、ボルテスVの天空剣が侍の刀の象徴であり「旧日本軍の賛美や戦時中の行いを正当化したもの」、作品を皮切りに「日本企業の台頭を警戒せよ」という第二次世界大戦後の反日感情に由来する声。単純に「内容が暴力的であり、道徳的でない」という親世代の抗議に応えた説など様々な観点がある。

この事件を日本では一部週刊誌が取り上げ、1991年9月30日放送された、NHKスペシャル・ドキュメンタリーアジア発、第1回「フィリピン『日本製アニメに何を見たか』-ボルテスファイブを知っていますか?-」では、現地の人からみた日本像というテーマで詳報されている。

そして1999年「ボルテスV」の再放送が始まるとリバイバルブームが巻き起こる。その後も多数の吹替版が制作され、2017年には5回目となる吹替版が放送。このように再放送が繰り返されることで「ボルテスV」はフィリピンで世代を超えた国民的アニメとなった。