経済力だけじゃダメ!“老舗超高級老人ホーム”スタッフが断言する、住人となる者に必要な「最低条件」とは?

50代から入居待ちする経営者たち

「経営者の方々は、50代、60代の頃に、終末期のことまで考えておられて、経営されている会社をお子さんに譲られたことを契機に入居される方もいらっしゃいます」

将来を見越し、保証金の100万円を預けて部屋をキープしているという。まさに人生の上がりの場が、サクラビア成城ということなのだろう。

「親御さんに会いにお子様たちも通われてきます。その際に私どものサービスを体感されて、親御さんが亡くなられた後ここに入りたいと思っていただき、ご入居されるケースもあります。今までは、見学に来られて将来のために待機メンバーになられた方を中心に、ご入居の順番待ちをしていただいておりました。このため、いわゆる一見でご入居をご希望される方には入居していただけませんでした。ですから、新型コロナの影響で見学会の開催ができず、空室がある今が一見の方が入居できるチャンスなのです」

ただし、スーパーの安売りとは違い、約2億円もする部屋を衝動買いのように即時契約できる者はそう多くはない。

京都のお茶屋も、有名料亭も、銀座のクラブも、一見さんお断りという希少性が高級感を演出している。とはいえ、若いうちから安くない保証金を積んでまで部屋をキープするほどの魅力とは一体何か、私にはまだよくわからなかった。そして、どんな人物がサクラビアへの入居を許されるのか、興味が湧いた。

松平氏が言う。

「今お住まいの方々といい関係を結んでいただける方。やっぱり品格と、もちろん資力。それを面談の中で我々も見させていただきます。もちろんご検討されている方にも、ここが自分の人生を送るのにふさわしいところかどうかを見ていただく。お互い様ですよね。お見合いをして決めるということです。それから富裕層の方々はネットワークがあります。商売のお付き合いだったり、学生時代のお付き合いだったり、信頼されている方がお住まいになっていて、その方から『ここはいいよ』とご紹介いただくのが、ご検討されている方にとっても一番ですよね」

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“経済力”以上に問われる“品格”

やはりというべきか、松平氏の「面談」という言葉に思わず反応した。

紹介者がいて、かつ十分な資力があっても面談を行うのだ。当然、面談となれば合否のようなものが判定されるわけだが、もし不合格の理由が品格だとしたら入居希望者は傷つきやしないか。そんなことを考えながら、入居の可否を決める基準について聞くと、松平氏はこう続けた。

「介護付き有料老人ホームの中でも、私どもは健常型といわれる非常に少ない種類に入ります。健常型にお入りできるのは、入居時点で身の回りのことがご自身でできるお元気な方です」

ただし、入居できるのは70歳からだという。また、70歳を超えていても既に介護サービスを受けている者は入居ができないそうだ。

さらに品格については、どういう基準なのか。

松平氏の話を総合すると、共同生活であるため「俺が俺が」というように、人の話を聞かないタイプには、「お客様にとって、窮屈な暮らしになりますよ」などと伝え、遠回しに断ることもあるようである。施設側の基準で品格の良し悪しを見定めているのだ。

だが、それも当然といえば当然。他の一見さんお断りの「高級店」だって同じようなものだろう。

むしろ不合格者から怒りを買わないように諦めてもらうテクニックを試行錯誤しているのかと思うと、その気苦労は想像に難くない。

サクラビア成城では、入居のきっかけもさまざまだ。大病をしたとか、身の回りのことを全て任せていた妻に先立たれたとか、あるいは周りの友人が高級老人ホームに入ったなどのライフイベントをきっかけに入居を決める者が約半数だという。

「そうしたライフイベントがあった方が、最初に資料請求をしていただいてからご入居されるまでの期間は、だいたい半年から1年くらいです。残りの方は、私どもとファーストコンタクトを取ってから、10年、15年、長い方になると20年くらいの期間を経てご入居いただきます。例えば、最初は50代、60代の頃に見に来られて、それ以降は季節のお便りを出すたびに見学に来られたりする。そうやって人間関係を作っていくわけですね。一方、お客様は長い目でこちらが入居に値する施設か検討されるわけです」

入居に値する施設か検討―。まるで高価な骨董品を値踏みするかのようだ。

文/甚野博則
写真/PhotoAC