全国屈指の超高級老人ホームとして知られる「サクラビア成城」。東京都・世田谷区の一等地にある同施設には、レストラン、美容室、舞台を備えたホールや娯楽室などが完備され、24時間体制で医療スタッフのサポートを受けることもできるという。あらゆる贅を尽くした富裕層の“終の棲家”…庶民にはうかがい知ることのできない“扉の向こう側”の生活とは?
『ルポ 超高級老人ホーム』(ダイヤモンド社)より、一部抜粋、再構成してお届けする。
(前・後編の前編)
贅を尽くした施設はまるで「豪華客船」
約35年前に建てられたサクラビア成城だが、当初は高級マンションのディベロッパーが設立し運営していた。
「これまで自宅にお住まいになってきた富裕層の方が、いよいよ人生の最終ステージに入り介護が必要になったときに、今までの生活の質を担保するようなところがないということで、高級マンションを手掛ける経営を始めたと聞いております」
そう話すのはサクラビア成城の運営会社で取締役を務める松平健介氏(仮名)だ。
当時、老人ホームの開業にあたり、世界一周の船旅で知られる豪華客船「飛鳥」の常連客などを見学会に招いて営業活動を行っていたようだ。
「そのお客様が施設を見て『丘の上の客船ね』とおっしゃったそうです。建物の中にクリニック、カルチャー教室、フィットネス、レストランから、シアターなどのエンターテインメントまであって、全てがパッケージになっているから、まるで豪華客船のようだと。当時ご入居された方々は、介護が目的ではなくて、自分の最期のステージを輝かしく過ごしたいという思いがあったと聞いています」(同前)
確かに当時は、老人ホーム自体が珍しかったこともあり、顧客の多くは介護を目的として購入してはいなかったのだろう。
「今はこれだけ贅を尽くしたものは、なかなか建てられないと思います。もちろんハード面だけではなく、ソフト面でも、今までの生活水準を保ち、さらには人生の最終ステージをもっと豊かに過ごしていただこうと、いろんな工夫が当時から凝らされていました」
ちなみに、サクラビア成城の「サクラビア」というのは、ラテン語で「聖なる道」を意味する言葉に由来するという。古代ローマ市の中心部で、宗教上の重要拠点を結んだメインストリートの名だ。
まさに人生の勝者たる居住者が、メインストリートを凱旋(がいせん)しながら、サクラビア成城に帰城するというイメージを喚起させる。
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“御用聞き”専門スタッフが生活をサポート
そんな老人ホームは、当時も今も施設そのものにはさほど変化はないという。
そこで、実際にサクラビアの内部を見学させてもらうことにした。案内してくれたのは、お客様相談室の主任、石塚幸一氏(仮名)だ。サクラビア成城に勤務してから16年経つという石塚氏もまた老人ホームの職員という雰囲気はなく、若くて爽やかなホテルマンといった印象である。
お客様相談室とは、いわゆる営業部署のことだ。石塚氏は一昨年から同部署に配属されたそうだが、それまでは居住者と直接対面し、日々の生活をサポートする「ハウスキーパー」という部署にいたという。
「お住まいの方の御用聞きというか、困ったことがあったらお手伝いする部署にいました。細かいことで言えば、瓶の蓋が開かなくなったから開けてほしいとか、高い所のものに手が届かないから取ってほしいとか。衣替えをしたいから手伝ってほしいとか」
雑用をするための専門部署があることに驚いた。入居者の困りごとは所属部署に関係なく、頼まれたスタッフや気付いたスタッフが快く応じてくれるものだと思っていたからだ。
石塚氏に館内を案内してもらう途中、居室の前で女性の清掃スタッフから、「こんにちは!」と明るく声をかけられた。エレベーターでの移動中も、途中階で居住者が乗り込んでくる際は、石塚氏は素早くエレベーターを降りて「お先にどうぞ」と対応する。その様子が一流ホテルにありそうな光景だった。
代わりにエレベーターに乗り込んだ居住者の男性は仕立てのよいスーツを纏(まと)い愛想よくお辞儀を返してきたが、その家族と思われる若い女性が私たちと目を合わせようとしなかったのが気になった。
まずは、標準的な居室である約68平米のモデルルームに案内された。入居一時金が約1億5000万円以上の室内は、リビングに加えベッドルームがあり、二人で暮らしても十分な広さがある。
キッチンはコンパクトな設計だ。館内にレストランがあるため、室内で頻繁に料理を作ることを想定していないからである。また、一定時間人が通らないと異常を知らせてくれる生活リズムセンサーも標準で装備されている。独居の居住者が室内で倒れていても、すぐに発見できるというわけだ。清掃は月に2回で、管理費に含まれているという。