「入居金は最高4億円超え」成功者の“終の棲家”超高級老人ホームの実態 行列店の職人が寿司を握り、専門スタッフが御用聞き…その「お値段以上の価値」とは?

新規入居時はフルリフォームが基本

サクラビア成城の部屋は全室南向きである。モデルルームの室内から窓の外を見ると、すぐ目の前には東急不動産ホールディングスが手掛ける住宅型有料高級老人ホーム「グランクレール成城」が建っていた。

サクラビア成城の競合相手ともいえる同施設は、ホームページを見ると約41平米の部屋で入居一時金が約5000万円と、やや安い。安いといっても、一般的な老人ホームと比べれば、かなり高額だ。さらにグランクレール成城は、常時介護が必要になると、同一建物内の介護住宅へ住み替えが必要になるようだ。

「入居一時金はお一人ですと約1億4700万円、お二人で暮らすと約1億6000万円です。入居一時金は15年かけて償却しますので、仮に一名でご入居の場合、5年で退去されると、約8340万円を返金します。また15年以上が経過した場合は、入居一時金のお返しはありませんが、月次の費用だけで生活ができます」(石塚氏)

ただし、途中で亡くなった者を除いて、15年未満で退去する者はほとんどいないという。

この施設に不満がないという意味か、それとも高齢になると生活の変化を避け現状を変えようとしないからなのか。どちらの理由もあるだろうと思った。

続いて石塚氏が案内したのは約92平米の居室だ。ここもモデルルームである。

トイレは2つあるが、これは意外と便利だ。介護が必要になったときはトイレ介助に時間がかかる。そのため1つを介護専用にしたり、ゲスト用にしたりすれば使い勝手がよさそうだ。

さらに石塚氏のこんな一言に驚かされた。

「お部屋は前の方がお出になったら、原則、フルリフォームを行っています。壁も水回りも全部取り外して、スケルトンにしてから再び作り直しています。間取りの変更もご要望があればオプション対応させていただいています」

フルリフォームをするとなると相当なコストがかかるはず。ハード面でのこうした手間も、入居一時金が高額な理由の一つなのだろう。

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音楽ホールに麻雀室…娯楽設備も充実

3階は全て娯楽のエリアとなっている。いろいろなジャンルの本を取り揃えたライブラリーは定期的に新刊も入れているという。同じ階には美容室もある。週に4日営業しており、ホテルなどにも入っている美容家・遠藤波津子(はつこ)の美容室だ。その奥には、工作などができるアトリエを備えており、取材時はネイル教室が催されていた。

廊下を歩くと、大人が両手を広げたくらい大きな地球儀が飾られている。「飛鳥」や「にっぽん丸」といった、豪華客船の常連客だけに与えられる非売品の地球儀だという。

「豪華客船に頻繁に乗っていらっしゃる方がいまして。その方が記念に貰(もら)ったものを寄贈してくださいました」

何カ月間も船旅に出かけ、帰ってきてしばらくすると再び船旅に出かけていくという強者(つわもの)もいたそうだ。まるで豪華客船が居心地のいい老人ホームのようである。

3階には体育館並みの広さを持つホールもある。天井には当然のごとくシャンデリアが付いていた。居室では音の問題から楽器の演奏が禁じられているため、このホールにあるグランドピアノを弾いたり、楽器を持ち込んで演奏を楽しんだりする者もいるそうだ。

「現在ここに置いているグランドピアノは世界三大ピアノのうち、スタインウェイとベヒシュタインの2台です」

ちなみにスタインウェイやベヒシュタインは、モデルによっては2千万円から4千万円するという。ホールには舞台もあり、ピアニストやバイオリニストを招待してのコンサートやオーケストラの演奏イベントが開かれることもある。

麻雀室の前を通りかかると、居住者の男女が卓を囲んでいる光景を目にした。

「全自動の機械を2卓置いています。健康麻雀教室もやっており、初めての方には先生がついて、学びながら楽しめるようになっています。外部のご友人を招いて麻雀を楽しむこともできます」

麻雀は意外にも女性の利用者が多いという。密かに高レートの賭け麻雀が行われていないか気になって、中の様子を少しだけ覗かせてもらおうとしたが、すぐに別の部屋へと案内された。囲碁と将棋とチェスの部屋もあるが、サクラビア成城では麻雀が圧倒的に人気なのだという。

「麻雀室向かいの中庭越しには茶室があったのですが、近年使われることが少なくなり、皆さんのご要望でプライベートなトレーニングルームに改修しました。他にリハビリルームもあり、提携している医療機関から理学療法士が派遣されてきています」

陶芸工作室では、専用の窯(かま)を備えている。土を練るところから陶器を製作できるのだ。陶芸工作室の壁沿いには製作途中の作品が展示され、まるで学校の美術室のようである。取材後、作品に添えられたネームプレートの一つを調べてみると、関東近郊で医療法人を経営している医師のようだった。